スプレッド競争が激化しているFX業界

[公開日]2014/12/09[更新日]2015/04/17

FXスプレッド競争

加熱と沈静化を繰り返すスプレッド競争


FX業界では過去に幾度と無く、スプレッド引き下げと沈静化の歴史を繰り返してきました。現在ではスプレッドはFX取引において、ほぼ唯一の取引コストとなっており、スプレッドを狭くする、すなわちスプレッド価格引き下げをおこなうことで、顧客である投資家の集客が見込めるからです。

FX業者同士のスプレッド競争は、これまでどのような経緯をたどってきたのでしょうか?

スプレッド競争・近代史


FXの黎明期においては、株式や商品取引などと同様に、1注文単位で手数料を徴収しているFX業者がほとんどでした。当時は規制が少なく、システム投資が比較的少なくて済むFXには業者が乱立し、顧客争奪戦が始まります。

口座維持手数料の引き下げや手数料の引き下げ競争を経て、やがてスプレッドのみで利益を挙げることが業界のスタンダードになり、現在に至りますが、その過程で何度となくFX業者同士による熾烈なつばぜり合いが起きては収まる、ということを繰り返すようになります。

まず2009年4月に、現在のトレイダーズ証券であるEMCOM TRADE(エムコムトレード)が0.1銭という極狭のスプレッドを引っさげて業界参入したのを皮切りに、スプレッド0銭といったFX会社なども登場することになりました。この頃には、海外のFX業者を含めて違法スレスレ、または違法な運営をしていたFX業者がいくつか紛れ込み、不当に狭いスプレッドを提示するなど、投資家にとってはそのような悪質なFX業者を見分けられなければならない時代でもありました。

そして、2010年に施行された信託保全全額義務化に代表されるFX業者に対する規制強化によって、それまであったFX業者の半数近くが淘汰されてしまう事態となります。生き残ったFX会社は過激なスプレッド・手数料競争で負ったダメージから回復を図るかの如く、スプレッド競争も徐々に沈静化していき、しばらくの間はスプレッドも再び上昇に転じるようになります。ただ、悪質・違法なFX業者は市場から駆逐され、以後はさらに投資家の厳しい選別の目によって、業界内での勝ち組と負け組がはっきり分かれはじめた年でもありました。

2012年には、巨大IT企業のサイバーエージェントがスプレッド縮小キャンペーンを打ち出し、GMO傘下であるGMOクリック証券がそれに対抗したため、再びスプレッド競争が激化しました。

また、この頃には店頭FXへの課税税率が雑所得50%から申告分離課税20%への減ったことも、店頭FX業者の台頭や競争激化に拍車を掛けました。

前回の競争勃発時には1米ドルあたりのスプレッドが0銭~0.1銭といった極めて低いスプレッドを提示している証券会社やFX業者が多かったのに対し、2012年の時点では0.4銭~0.6銭程度でした。しかし、結局は翌年に入って再び0.1銭台で提供するFX業者が登場することになります。

スプレッド競争に巻き込まれなかったFX業者


そして2014年。スリッページや自動売買規制という新たな規制も導入されました。特にスリッページ規制は、他の証券取引では当然だった「最良執行方針」がFXにも採り入れられたもので、投資家にとっては安心してFX取引が行える時代がやっと到来したと言えます。

そうした本来あるべき規制や強固なシステムが求められるようになってきたことで、FX業者の生き残りを賭けた戦い方も変化してきました。

現在、存続しているFX業者各社は独自色を出すことに成功した会社とそうでない会社に別れています。スプレッドや手数料が比較的高いにも関わらず、マネースクウェアジャパンなどのように優れた取引手法やツールを提供しているFX業者は、スプレッド競争に巻き込まれることなく、高い収益を確保することが可能になってきています。

そうした独自色を打ち出せないでいる会社は、今後もさらに激しいスプレッド競争に巻き込まれざるを得ない状況となっています。

FX取引における証券会社やFX業者の収益構造とは?


現在、FX取引を仲介してくれるほとんどのFX業者及び証券会社では、取引手数料は徴収しないことが一般的となっています。取引手数料に代わってFX業者の収益源となっているのが、売りと買いの価格差であるスプレッドであるわけです。

実は、店頭FX取引においてはFX業者が投資家に示す価格と取引所の価格はイコールではなく、その差額も利益になります。かつて存在していた「スプレッド完全0銭」というFX業者にとっては、この仕組みを利用する以外、利益を挙げる手段はなかったのです。

FX取引のポジションは、株式の現物取引や商品取引と違って他のFX業者や証券会社には移管できないため、そのような差があっても実は問題ありません。

そのような事情があるにせよ、スプレッドの大小が投資家にとっては投資コストの大小とイコールになるわけです。

スプレッドばかりではない、コスト面での違いとは


FX投資家が負担している取引コストはスプレッドが主なものですが、FX業者間での費用的な差はそればかりではありません。それがスワップポイントの差です。

スプレッド価格を低めに抑えるということは、他のことで利益を挙げなければならないのは前述の通りなのですが、スワップポイントを低めに抑える代わりに市場価格と投資家へ提示する価格に差をつけることで、その差額分を利益とするという考え方のFX業者も存在します。

スワップポイントを投資家へ支払うための原資は、その外貨の金利です。例えば米ドルの金利が2%のときに、米ドル買いポジションに対するスワップポイントを1%に設定すれば、その差額1%分がFX業者の利益となります。その利益分の一部をスプレッド価格の引き下げのために回すことで、「うちは低スプレッドで取引できますよ」と顧客に対してアピールできるというわけです。

過度のスプレッド競争が市場に与える影響


スプレッドの広狭は、外国為替市場への影響を及ぼすという面もあります。多くの投資家を抱えているFX業者が相次いでスプレッドを限界まで引き下げたことで、外国為替市場へ多くの投機資金が流入し、為替レートが乱高下したということが実際に起こっています。

また、低いスプレッドに惹かれて市場に参加してきた多くの個人投資家を一網打尽にするような取引を行う機関投資家も現れ、市場の不安定要因のひとつになっています。

過度のスプレッド競争が不安定な為替変動をもたらすことで、投資家にとって不利益を生むような場面も出てきました。

そのような悪影響は廻り回ってFX業者にもはね返ってきます。投資家が損失を出して市場から退場するような事態が続くことで、取引手数料であるスプレッドによって収入を得ているFX業者の利益も、減少の一歩を辿ることになりかねないからです。

そのため、過度のスプレッド競争を自己規制しているFX業者もあります。

スプレッドの性質も変化してきている


いくつかのFX業者では、スプレッドを単純に引き下げるのではなく、工夫することでスプレッド競争を回避したり、投資家に対して新しい価値を提供したりしようとする動きも出てきました。

SBI FXのように、取引通貨数が増えるほどスプレッド縮小するような優遇策を採っていたり、多くのFX業者で、固定スプレッドではなく取引量に応じて変動するようなスプレッドを採用したりしています。

こうした工夫は、投資家自身が自分の取引量に応じたFXスプレッド業者を選択することで、取引コストをより低減させることが出来る点で歓迎すべきでしょう。

一方、FX業者側としても、他社との単純な比較が難しくなるため、スプレッド競争回避にとって一助となる面があります。ただし、投資家にとっては取引量とスプレッドの関係を把握しておかなければならなくなる点には注意が必要です。いつもと少し取引量を変えたところ、思わぬスプレッド負担が発生したということが起きないようにするためです。

諸条件が同じなら、スプレッドは安いほどよいが


諸条件が同じなら、スプレッドは安いに越したことはありません。しかし、多くのFX業者がひしめく中で、諸条件まですべてが同じということは滅多にあることではありません。

スプレッドは安い代わりにシステム障害が頻繁に起きたり、スリッページが大きすぎたりすれば、スプレッドの安さというメリットなど簡単に吹き飛んでしまいかねません。

そのため、FX業者を選ぶには、スプレッドの低い業者をピックアップした上で、諸条件のよいFX業者を選ぶということが必要になります。

各社とも宣伝攻勢をかけていますが、口座開設数などではなく、実際の取引量が多いFX業者は優れた業者である一つの目安と言えます。投資家が投資しているのは大事な現金であり、その重みは投資家自身が一番良くわかっており、不用意なことはしないはずだからです。

また、普段取引している通貨ペアのスプレッドだけが重要になるのであって、平均的にスプレッドが低いといった比較も、通常ではあまり意味を持ちません。

スプレッドが低いFX業者の中で、システム面も含めた諸条件を満たしているのは、やはりスプレッド競争の最前線に立っているFX業者となります。GMOクリック証券、DMMFX、外為ジャパン、マネーパートナーズはスプレッドの狭さはもちろん、システム面での安定性や取引画面の使い勝手、取引チャネルの豊富さでも他とは一線を画しています。

スプレッドの低さに限って言えば、セントラル短資FXといった業者も低いのですが、勢いに陰りがある業者はそのまま潰れてしまいかねず、復活するまで様子を見たほうがよいかも知れません。また、マネースクウェアジャパンなどは、トラリピというスプレッドとは別の大きな価値を持つFX業者です。

「最近、スリッページが多い」とか、「他社は値下がりしているので自分が利用しているところは手数料が上がってきた」といった場合、スプレッド競争に敗れつつある可能性もあります。

慣れたFX業者を使い続けるのではなく、時として、他社はどうなのかと食指を伸ばしてみるのも大事です。

スプレッド競争が激化しているFX業界 まとめ


規制強化によって半数近くが無くなってしまった店頭FX業者ですが、それでも依然として100社近い会社が存続しています。この中から自分の目で優れたFX業者を選び出すのは大変なことです。

幸いなことに、世の中にはFX業者をランキング形式で比較してくれるサイトが数多くあります。こうしたサイトの情報を参考にしつつ、デモトレードなどを利用して、実際に資金を投じる前に評価することも可能です。他の投資家との戦いだけでなく、自分自身との戦いでもあるFX。自分の力や支えとなってくれるFX業者を選びたいものですね。