【行政書士が解説】認知症の親の財産相続を無効にしない方法

[公開日]2017/06/13[更新日]2017/12/11

認知症 相続

認知症は相続にとって、大きな障害になります。認知症を発症した人は、判断能力が十分でないため、遺言書を書くことができません。

また、認知症の方が財産を相続する場合は、通常と異なる対応が必要です。

今回は「認知症の方が財産を残す場合」、「相続する場合」の方法や注意点について解説します。


この記事は、現役の行政書士の方に執筆していただき、引越しの神様チームで編集しております。


相続時は要注意!認知症2大トラブルとその原因


認知症 相続

被相続人、つまり亡くなった人が認知症だった場合、トラブルが発生する可能性があります。

特に想定される2つのトラブルと、その原因は次のとおりです。

・被相続人が遺言書を残していたが、どのような健康状態で書いたか不明
・被相続人が契約を結んでいたが、有効か否か不明

遺言書や契約時点で、「認知症だったかどうか」がトラブルになることがあるにゃん。


トラブル1:被相続人が遺言書を残していたが、どのような健康状態で書いたか不明

被相続人が遺言書を残していたが、どのような健康状態で書いたか不明な場合は、

「遺言書を書いた時期には、既に認知症を発症していたのではないか」
「遺言書の日付そのものが違っているのではないか」

といったように、遺産分割の話が進まなくなるような指摘をする相続人が出てくることがあり得るのです。

このようなトラブルに陥る原因を理解するために、通常の相続の流れとトラブル発生のタイミングを説明します。

相続手続きは遺言書の確認から始まる
被相続人が亡くなり、お通夜、葬儀が済んだ後、通常相続人による相続手続きに入ります。

まず、相続人がやることは、「遺言書」の有無を確認することです。

遺言書には主に、「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2種類があります。

自筆証書遺言と公正証書遺言の違い
一般的な遺言書には、自筆で書く「自筆証書遺言」と、公証役場の公証人に内容を伝え、公証人が証拠能力の高い文書にする「公正証書遺言」の二種類があります。

公正証書遺言は遺言書の存在を確認しやすい
このうち、「公正証書遺言」は、公証人以外に2名の証人が必要です。

そのため、「他の誰にも相談せずに秘密裏に作成する」ことは不可能と言えます。

この公正証書遺言の場合には、遺言書の存在がすぐに確認できるでしょう。

自筆証書遺言は存在を確かめねばならない
しかし「自筆証書遺言」の場合、自分の意思で誰にも相談することなく作成した可能性があります。

遺言書が存在するかどうかもわからないかもしれません。

「相続人の誰もが、被相続人から遺言書を作成したことを聞いていない」という状況であっても、自筆証書遺言に関しては、家の様々な場所をチェックして、遺言書が本当に存在しないかを確認する必要があります。

遺言書を発見した場合は内容と日付の確認
次に、遺言書があった場合、その内容や日付を確認しなければなりません。

ただし、「自筆証書遺言」は、開封前に家庭裁判所に提出して、全相続人の前で開封してもらい、内容をチェックしてもらわなければなりません。


遺言書の内容がわかったら、基本的にその内容に従って、相続人全員で分割の話し合いをすることになります。

自筆証書遺言の日付が争いの原因になることも
しかし、「自筆証書遺言」場合、被相続人が認知症の状態でなくなっていたときには、作成した日付を問題にする相続人がいるかもしれません。

日付を問題とすると遺言の審議に関わる
「遺言書を書いた時期には、既に認知症を発症していたのではないか」と主張してくるケースが考えられるのです。

あるいは、遺言書の日付そのものが違っているのではないかと、指摘する相続人が出てくる場合もあります。

そうなると、「自筆証書遺言」の真偽を確認する必要が出てきますから、遺産分割協議は紛糾する可能性があります。

トラブル2:被相続人が契約を結んでいたが、契約自体が有効か否か不明

被相続人が残した財産の全てを相続人が引き継ぐことになります。

この財産には、借金も含まれます。

もし、亡くなる際に認知症になっていた被相続人が、生前金銭に関する「消費貸借契約」、すなわち借金をしていた場合、その契約自体が有効かどうか問題になってきます。

契約時に既に認知症を発症していたのでないか、という疑問が出てくるのです。

話し合いで解決しない場合は裁判になることも
契約時の認知症の有無については、相続人と契約の相手方との話し合いになります。

しかし、決着がつかない場合には、裁判で白黒をつけることになります。

3つの事例別:遺言書の法的効力と認知症の関係


認知症 相続

死亡の際、認知症に発症していた被相続人が、遺言書を残していた場合、その法的効力はどうなるのでしょうか?

遺言書の作成時期を、

・認知症になる前
・認知症が疑われる時期
・認知症になったあと


以上の3つの事例に分けて、解説します。

認知症の状況によって、遺言書の扱いが変わるのか知っておかないとね。


事例1:認知症になる前に作成された遺言

明らかに「認知症を発症する前に遺言書が作成されていた」場合には、その遺言書の法的根拠が問題になることは、特にないでしょう。

基本的には、認知症を発症した時期と遺言書を作成した時期とが、大きくかけ離れている場合には、遺言書の法的効力が疑われることは、まずありません。

事例2:認知症の疑いがある時期の遺言書

遺言書が作成された時期に、被相続人が認知症を発症していたと疑われる場合、その疑問をもった相続人が、異議を申し立てることになります。

ただ、遺言書の無効を主張することになりますから、専門家である弁護士に依頼をして、裁判に訴えることが一般的です。

この問題の最大のポイントは、遺言書を作成した時に「認知症だった」か、つまり十分な判断能力があったかということです。

認知症であったかどうかを証明するのは困難
しかし、「遺言書作成時に認知症だったかどうか」を実際に証明するのは、難しい問題です。

なぜなら、認知症は、「○年○月○日から発症した」というものではないからです。

認知症の疑いのある時期でも、一日の中できちんと判断できると時もあれば、そうでない時もあります。

遺言書を作成した瞬間の様子を証明する難しさ
したがって、遺言書が作成された時点で、被相続人がどのような状態だったか、訴える側は証明しなければなりません。

これは決して容易なことではありません。

特に「自筆証書遺言」は、誰にも見られずに作成することができますから、「遺言書を書いたときは、認知症の状態だった」と証明することは、かなり無理があります。

事例3:明らかに認知症の時の遺言書

遺言書を作成した時点で、明らかに認知症だった場合、その遺言書自体は無効になります。

ただ、それを客観的な証拠で証明する必要があります。

認知症を証明するには診断書が必須
「自筆証書遺言」の場合であれば、病院の診断書で「認知症」と診断された日付と遺言書の日付の前後を比較すれば、ハッキリします。

つまり、診断書の有無がポイントなのです。

公正証書遺言を覆すことは難しい
「公正証書遺言」の場合も同じことが言えますが、この遺言書では被相続人が、公証役場で公証人に口述しています。

そのため、公正証書遺言の作成日以前の診断書が出てきても、基本的に遺言書の無効を訴えには、ハードルが高いと言わざるを得ません。

認知症の状況別:生前贈与の3つのケース


認知症 相続

生前贈与の場合でも遺言書と同様に、生前贈与の時点で認知症だったかどうかが重要です。

・認知症になる前
・認知症かどうか怪しい時期
・認知症になった後


この3つのケースに分けて、認知症と生前贈与の関係を確認していきましょう。

生前贈与でも認知症が進んでいる状況だと認められないケースがあるのかなぁ。


ケース1:認知症になる前の生前贈与

明らかに認知症を発症する前に、生前贈与していた場合には、法的根拠が問題になることは特にありません。

ただ、認知症を発症した時期と生前贈与した時期との間隔が短かった場合には、「生前贈与のタイミングで、既に認知症だったのでは?」と疑う相続人がいる場合もあります。

そのような場合には、疑問を持った相続人が生前贈与の有効性について、裁判に訴えることがあるかもしれません。

ケース2:認知症の疑いのある時期の生前贈与

生前贈与した時期に、被相続人が認知症を発症していたと疑われる場合、その疑問をもった相続人が、異議を申し立てることになります。

ただ、生前贈与の時期と認知症発症の時期との前後関係を証明しなければなりません。

その場合には、専門家である弁護士に依頼をして、裁判に訴えることが一般的です。

生前贈与時に認知症だったかを証明するのは困難
遺言書の場合と同じく、この問題の最大のポイントは、生前贈与した時に、認知症だったか、つまり十分な判断能力があったかということですが、このことを実際に証明するのは、至難の業です。

認知症の疑いのある時期でも、一日の中できちんと判断できると時もあれば、そうでない時もあるからです。

ケース3:明らかに認知症の時の生前贈与

生前贈与した時点で、明らかに認知症だった場合、その贈与行為は無効になり、その財産は相続財産に含まれることになります。

ただし、遺言書の場合と同じく、「生前贈与時に認知症であったこと」を客観的な証拠で証明する必要があります。

被相続人が生前贈与に承諾した日と、病院の認知症に関する診断書の日付との関係が重要です。

生前贈与は口頭の場合もある
ただ、遺言書とは違って、生前贈与に承諾したことを証明することは、意外と難しい場合があります。

きちんと日付の入った書面で残していれば問題ありませんが、口頭で承諾していた場合、それがいつだったかを証明することになるからです。

認知症の親を面倒なトラブルから守る2つの方法


認知症 相続

認知症を発症した人が、相続トラブルに巻き込まれない方法としては、「家族信託」と「成年後見制度」の2つがあります。

いざという時に備えて、トラブルから身を守る方法を知っておきたいわね。


家族信託と成年後見制度の違い

家族信託は報酬も必要なく手続は簡単
家族信託は、自分の財産に関して、家族の誰かに依頼をして管理してもらう制度です。

家族信託は、成年後見制度よりも手続きが簡単で、報酬を依頼者に支払う必要もありません。

成年後見制度は報酬が必要
成年後見制度も自分の財産に関して、他人に管理を依頼するものですが、通常弁護士などの専門家が「成年後見人」となって管理してくれます。

ただ成年後見人を選任するのは家庭裁判所ですから、手続きはやや煩雑です。

また、成年後見ではあくまで成年後見人は「業務」として行うため、毎月報酬が発生します。

面倒な手続きを避けたいなら家族信託


認知症 相続

家族信託のメリットには、

・家庭裁判所への報告義務がない
・報酬の支払いが発生しない
・不動産の処分が容易である


などが挙げられます。

一方でデメリットは、

・身上監護ができない
・受託者の選任が難しい
・遺留分減殺請求の可能性がある


などがあります。

手続きも簡単で費用も安く済む
成年後見制度に比べて、家族信託では「手続きが簡易で、委任者と受任者の合意(契約)のみで、委任契約が成立」します。

手続きが簡単なだけでなく費用もそれほど掛かりませんし、受任者に対する報酬もありません。

成年後見制度よりも安価に進めることができます。

財産を減らすことなく、家族に委任したい人にとっては、好都合な制度です。

お金の負担も少なくて、手続きも簡単なら良さそうだね。


成年後見制度が親族間の争いを防ぐことも


認知症 相続

成年後見制度のメリットは、

・認知症の方の財産を保護することができる
・違法、または不利な契約から守ることができる


などがあります。

ただ一方で、

・手続きが煩雑で費用がかかる
・成年後見人(受任者)への報酬が発生する


などのデメリットも挙げられます。

成年後見制度の報告が親族間の争いを予防
「家族信託」の場合は、基本的に子どもが親の財産を引き継ぐことになりますから、他に子どもや法定相続人がいる場合、理解を得ることが難しいかもしれません。

ただ、「成年後見制度」であれば、家庭裁判所が厳密に成年後見人を選定し、定期的に報告を義務付けますから、親族間の紛争を未然に防ぐことができます。

第三者が報告することによってトラブルを防ぐケースもあるにゃん。


相続人に認知症の方が含まれる場合の対処方法


認知症 相続

相続の手続きが完了した後に、相続人の誰かが認知症だった場合、トラブルに発展することがあります。

もし、認知症を発症している相続人をそのままにして、遺産分割協議を行った場合に、その相続人にとって、不公平な分割方法になるかもしれません。

さらに、その相続人に配偶者や子どもがいた場合、トラブルに発展する可能性があります。

認知症であろうとなかろうと、関わる人の権利は守るようにしたいね。


認知症の相続人には成年後見人を選任

分割方法をめぐるトラブルを防ぐには、認知症を患わっている相続人に代理人を付けて、その代理人を交えた上で、遺産分割協議を行う必要があります。

ただ、相続人は既に認知症を患わっているわけですから、通常の「委任契約」は結ぶことができません。

そうなると、医師の診断書を取って、家庭裁判所を通じて、「成年後見人」を選任するしかありません。

成年後見人の候補者に親族を立てることも可能
もちろん、成年後見人には配偶者や子どもでも構いません。

むしろ、財産を相続しても、その相続人自身での管理は難しくなりますから、家族を成年後見人にした方が好都合でしょう。

高齢の相続人は認知症の検査でリスク回避

遺産分割協議の際に、認知症に相続人がいなかった場合、後でトラブルに発展する可能性はかなり低いはずです。

しかし、相続人の中に高齢者が含まれていた場合、念のため認知症の検査を受けておいた方がいいかもしれません。

もちろん、遺産分割協議に加わって、自分の意見を述べていた相続人ですから、認知症という可能性は低いでしょう。

後になってから問題となるケース
ですが、当時は問題なくとも、親族から「あの時に既に認知症だった疑いがあるので、遺産分割協議をやり直してほしい」と言われるかもしれません。

そうなると、他の相続人は、その相続人が認知症ではなかったことを証明しなければならなくなり、大きなトラブルに発展する可能性があります。

後日のトラブル対策に検査を利用することも
高齢の相続人がいた場合、トラブル回避のために、認知症の検査を行うメリットがあるのです。

ただし検査の際には、その相続人はもちろん、相続人の家族の了承を得る必要があります。

認知症の方に後見人・代理人が必要である理由


認知症 相続

認知症の方は自分の意思での判断が難しくなるため、後見人や代理人を立てる必要があります。

判断力があるという前提だからこそ後見人を用意する

人の様々な行為を規定した法律が「民法」ですが、その原則の一つに「所有権絶対の原則」があります。

自分の持っている財産は自由に処分できるという意味です。

またその他にも、「私的自治の原則」というものがあります。

誰とどのような取引や契約をするかは、個人の自由であるという内容です。

しかし、この2つの原則には、「人に判断能力がなければならない」という大原則があります。

つまり、判断能力が十分でない人には、その人を援助するシステムが必要になってくるのです。

・認知症の人が自分の財産を管理できなくなった
・自分の意思で契約を結ぶことができなくなった

上記のような状況ですと本人に判断力があるとは言えないため、被相続人として遺言書を作成できない、また相続人として遺産分割協議に参加できないのです。

だからこそ、認知症の人には、後見人、代理人を置く必要があるのです。

認知症のお年寄りを早めに守る家族・サポートが大事

認知症は、自分でなかなか自覚できません。

「ちょっとした物忘れだろう」と済ましてしまう場合も、少なくありません。

しかし、認知症になれば、遺言書の作成ができなくなりますし、相続人であれば遺産分割協議に参加することもできません。

したがって、家族が早めに察知して、病院での診察を受けさせるなどの対応が必要です。

認知症だと診断された場合には、きちんと診断書を取り、早めに成年後見人を選任する手続きを行うようにしましょう。

高齢の家族には日頃からしっかりサポートしておきたいわね。


まとめ:制度の仕組みを理解して利用しよう

認知症 相続

認知症の方の相続トラブルを防ぐ対策として、「成年後見制度」や「家族信託」というシステムがあります。

ただ、それぞれの仕組みにはメリット、デメリットがあるので注意が必要です。

よく調べて運用しないと、かえってトラブルを生む原因になるので十分な調査の上、対応を決めましょう。


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