【行政書士が解説】土地の相続放棄の方法と意外な落とし穴

[公開日]2017/05/19[更新日]2017/12/11

土地 相続放棄

誰も相続したがらないような土地は、売却も難しく処分方法に困ってしまいがちです。

そこで、土地の相続放棄を検討するになりますが、実は相続を放棄した後でも、

・相続人に土地の管理責任が生じる
・放棄する際に多額の費用がかかる


といった「落とし穴」が土地の相続放棄には存在するのです。

今回は「土地の相続放棄の具体的な手続き」と「適切に相続放棄を行うための注意点」を詳しく解説します。


この記事は、現役の行政書士の方に執筆していただき、引越しの神様チームで編集しております。


不要な土地「だけ」を相続放棄することはできない!財産相続の注意点


土地 相続放棄

「活用しようと思っても、なかなか解決策が見出せない」

固定資産税だけがかかってしまうというような土地を所有しているケースも多くあるでしょう。

しかし、そのような不要な土地だけを処分することは残念ながらできません。ここでは相続に関してポイントを解説いたします。

代々受け継いでいる山があるんだけど、それだけを相続放棄しようなんてことはできないんだね。


相続財産に対しての3つの選択肢

被相続人が亡くなり、遺産の相続が発生すると、相続人は以下の3つのうち、いずれかの対応を取らねばなりません。

・単純承認
・相続放棄
・限定承認


単純承認
単純承認とは、遺産の全てを受け継ぐことです。

この場合、預貯金や不動産等のプラスの財産はもちろん、借金等の負の財産も含まれます。

プラスの財産は受け継ぐけれど、負の財産はいらない、と言った主張は通りません。

相続放棄
相続放棄とは、遺産の全てを受け継がないことです。

多額に借金があった場合等に、取られる方法です。相続が放棄されると、被相続人にお金を貸した人は、請求ができなくなります。

限定承認
限定承認とは、受け継いだ財産の範囲内で被相続人の借金を引き受ける方法です。

つまり、プラスの遺産が2,000万円、負の遺産(借金)が2,500万円あった場合には、プラスの遺産で借金の清算を行うことで、それ以上の責任を免れるということです。

以上の3つの選択肢の中で、相続放棄と限定承認とは、相続開始があったことを知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所へ申し出る必要があります。

3ヶ月以内の家庭裁判所へ申し出を怠ると強制的に単純承認になる
3ヶ月の期限を過ぎると、単純承認、つまりすべての遺産を相続人全員で引き受けなければなりません。

被相続人の遺産が散在していたり、思わぬ借金が出てきたりするケースもあります。3ヶ月という期間は長いようですが、なかなか全ての遺産を把握、確定できない場合は注意が必要です。

そのような場合には、3ヶ月以内にとりあえず「限定承認」をしておくという方法もあります。

相続問題はどうしても時間がかかるにゃ。早めに限定承認をすることを覚えておくと良いにゃ!


固定資産税の軽減だけじゃない!土地の所有権を相続放棄するメリット


土地 相続放棄

土地を所有していると固定資産税の支払いが不可欠です。土地を相続する恩恵は、固定資産税の支払いがなくなる他にもあります。

相続放棄する最大のメリットは土地の固定経費がなくなること

土地の相続を放棄することの最大のメリットは、土地に係る経費がかからなくなるということです。

不動産である土地には、固定資産税が毎年課税されます。

固定資産税の他にも整地費用や樹木の剪定(せんてい)作業費、境界線に設ける柵等の維持費など、税金以外にも土地を所有する経費が必要でしょう。

収益を生まないものにこれだけの経費をかけるのは、誰が見ても無駄だと感じるはずです。

高く売れる可能性がなければ土地の相続放棄も検討
もちろん将来的に高く売れる公算があれば別ですが、そうでないのであれば、相続放棄をした方が賢明だということになります。

現在使っていない土地でも、もちろん課税されることになりますから、人に有料で貸していない限り、土地を所有しているというだけで、「負の資産」ということになります。

相続放棄したくなるような土地って、借り手もいないような人気の土地が多いよねえ・・・。


土地を相続放棄「しない」デメリット

土地を相続放棄しないことの最大のデメリットは、土地に係る全ての経費がかかり続けるということです。

先程ご説明したような「固定資産税」や「土地の維持費」。土地を所有する限り、これらの経費は毎年ついて回ります。

収益が期待でき経費がカバーできるケースでも潜在リスクあり
土地を利用することで収益を上げていけば、それらの経費を賄うことができます。

しかしそのような場合でも、貸主との間で、賃料滞納や契約上のトラブルが発生するリスクが考えられます。

そのような紛争が起こり、個人間で解決できなければ、弁護士等に依頼することも考えなくてはなりません。

他人に貸している土地の処分は借主への対応が必要

また、一度他人に貸してしまうと、契約を解除して引き渡してもらう時期が問題になってきます。

きちんとした契約を結んでいても、借主がすんなり引き渡しに応じてくれない場合もあります。

そうなってくると、自分たちの土地でありながら、自由に処分できないという困った状態になってくるのです。

貸している相手と良好な関係を保つことが「いざ売却する」というときに大事だにゃ!



登記の確認は必須!土地の相続放棄の手順と他の財産の対応方法


土地 相続放棄

「土地を相続放棄する」と決定した場合、適切な手段を踏んでいかなければ後々にトラブルになりかねません。

この項目では具体的な土地の相続放棄の手順を解説します。
(土地以外の資産の相続放棄は記事下部へ)

土地の相続放棄は登記の確認から始まる

土地の相続放棄の流れは、次の6つの手順に基づいて行います。

土地の権利義務の確認
土地の登記簿謄本を取り寄せ、まず名義の確認をする必要があります。

土地には、抵当権が設定されている場合もあります。

抵当権の有無の確認を
抵当権とは、土地を担保にしてお金を借りる際に、その証拠として行われる手続きです。

この抵当権が設定されると、登記簿謄本に記載されるので、被相続人が土地を担保にお金を借りているか否かがすぐに分かります。

遺産のリストアップと協議
被相続人が残した財産をリストアップして、相続人全員で遺産分割の協議を行います。

遺産分割の協議の場で、それぞれの相続人が「遺産を相続する」のか「放棄する」のかの意思表明する必要があります。

相続放棄する相続人は家庭裁判所に届け出
遺産を相続放棄する相続人は家庭裁判所に届け出ます。

届け出の費用は、家庭裁判所に提出する印紙代、切手代が約2,000円程度、戸籍謄本が1通500円程度です。

相続人放棄は、相続人全員の総意は必要なく、個人個人の判断に委ねられています。

ただし、限定承認は、全相続人の総意が必要です。

家庭裁判所に申し立て
相続人全員が相続放棄をした場合、土地を管理する「相続財産管理人」を選任する必要があります。

家庭裁判所にその旨申し立てなければなりません。

申し立ての際の費用は、印紙代、切手代に1万円程度、「予納金」に約30~100万円程度かかります。

相続財産管理人の管理
相続財産管理人が選任されたら、土地は相続財産管理人の管理下に置かれます。

しかし、管理人はあくまでも土地を管理するだけです。

土地の名義は、被相続人のままですから、実質的な所有者は「相続人全員」ということになります。

土地の処分
相続財産管理人の管理の下、土地を処分することになります。

多くの場合、相続財産管理人は弁護士が選任されます。

債権者がいる場合は、

・土地を売却して債権者にその売上金を充当する
・なかなか売れない場合には、法律に則って「国庫」に帰属させる


等の方法を執ります。

相続放棄をしたとしても、結局お金が必要になるってこともあるんだね。


土地の売買も検討の価値あり!相続放棄すべきか否かの見極め方


土地 相続放棄

遺産として残った土地を相続放棄するべき場合とは、どのような場合でしょうか?

まず大前提としては、「相続人が誰も相続したがらない土地」ということになります。

無理に相続人を決めざるをえないケースでは相続放棄すべき

誰も相続したがらない土地を無理に相続する事態になれば、

・お互いにその土地を押し付け合う
・全員でその土地を共同所有する


のどちらかの手段を取らなければいけなくなってしまいます。

遺産の分割は相続人全員の同意が不可欠
もし、一人の相続人に土地の相続を押し付ける形になれば、当然不満が出て、他の遺産の相続にも影響が出てきます。

遺産の分割は、相続人全員の合意が大前提です。一人でも納得しなければ、「遺産分割」全体がご破算となります。

土地の共同所有は金銭トラブルの原因となる

一方、誰も相続したがらない場合には、苦肉の策として、相続人全員の共同所有という方法があります。

しかし、相続人全員の共同所有はトラブルの元です。

土地を所有する経費の負担でモメる可能性あり
土地に係る経費の負担についての取り決めをあらかじめきちんと決めておかなければなりません。

さもなければ、きちんと支払う人、なかなか支払わない人とが出てきて、紛争の種になります。

一人でも反対が出ると共同所有の土地の売却できない
また、共同所有にした場合には、売却等の処分には、共同所有者全員の同意が必要とされています。

つまり1人でも反対した場合、売却ができないということです。

共同所有はトラブルのリスクが高そう…。きちんと相続の段階で結論を出した方が良さそうだね。


収益を上げている場合は相続放棄しない方が良い

遺産として残った土地が賃貸借等によって、収益を上げている場合はを相続放棄しない方がよいです。

収益によって、土地に係る経費を十分に賄うことができる場合は、相続放棄を検討すべきではないでしょう。

貸し出している土地を相続する場合は 「賃貸借契約」も継続
現在「賃貸借契約」を結んでいる土地ですから、賃借人との関係もあり、相続を放棄するわけにもいきません。

相続人の誰かが相続することで、「賃貸借契約」も継続する必要があります。

「負の遺産」だけの相続放棄はできない!土地の売却の検討を

結論から申し上げると、「『負の遺産』だけの相続放棄」はできません。

「負の遺産」がある場合は、「単純承認」と「限定相続」(詳しくは前述)の2通りの選択肢のみです。

つまり、「『プラスの遺産』は要るけれど、『負の遺産』は要らない」という、いわゆる「いいとこどり」はできないということです。

「負の遺産」を含めた遺産全部を相続するか、全ての遺産を放棄するかの二者択一です。

プラスの遺産がある場合は土地の売却を行う
もし、土地以外に「プラスの遺産」がある場合には、相続放棄という手段ではなく、土地を売却する方向で検討すべきです。

このような場合に便利なのは、不動産の一括査定サイトです。このようなツールを利用すれば、適正な値段で売却することができます。
いい内容の財産だけ引き継ぐなんて、そんな虫の良い話はないのね。


相続放棄しても土地の管理義務は残るケースもあるので要注意!


土地 相続放棄

資産価値がほとんどない上に、所有しておくだけでお金がかかるという土地は「それでは相続放棄しよう」という流れになる場合も少なくないでしょう。

ただ、相続放棄すれば面倒な問題は全てクリアできるかというと、そうでもありません。

所有権移転登記が完了しないと管理責任は残る

相続放棄して、土地を相続する人がいないという状態になっても、名義は被相続人のままですから、実質的には「相続人全員の所有物」ということになります。

つまり誰かが引き継いでくれない限り、所有権移転登記が完了しない限り、土地の管理責任が付いて回るということです。

相続放棄をしたとしても管理義務が残る理由

ところで「民法第940条第1項」では、

「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」

と規定されています。

次の管理責任者が決まるまでは管理責任がある
つまり、相続財産である土地を相続放棄しても、その土地の管理責任は残り、次の管理責任者が決まるまでは、自分の財産を扱うことと同様の責任が課されるのです。

土地の瑕疵に対する責任も残る

また、「民法第717条第1項」では、

「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵(かし)があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。」

とも規定されています(瑕疵は「キズ」や「不具合」という意味)。

相続放棄したとしても土地と無関係になるわけではない
例えば、相続放棄した土地に勝手にゴミが捨てられて近所に迷惑をかけた場合には、そのごみの撤去や勝手に人が入らないような柵を作る等の対策を講じないといけません。

このように、土地を相続放棄したからといって、それで全て「自分たちには関係ない」となるわけではありません。

日本では、土地に関する所有権が厳密に規定されています。これは、その土地に係る権利義務が誰になるかを明確にするためです。

従って、相続人が「要らない」と意思表示した土地でも、実質的な所有者が決定するまでは、被相続人の財産を受け継ぐ相続人の責任としているわけです。

相続放棄された土地と言っても、誰かが管理しないといけないんだにゃ。


相続放棄するような土地を自治体に寄付しようとしても難しい

「相続放棄でも管理しないといけないなら、地元の自治体に寄附しよう」と思われるかもしれません。

しかし、市町村等の自治体に寄附を申し入れても、利用価値が低い土地を受け入れる程、どこの自治体も財政的に安泰ではありません。

そういう現実を考えれば、自治体への寄附は厳しいと思った方がいいでしょう。

管理者未決定だとどうなる?相続放棄してもかかるコストとは


土地 相続放棄

上記の項目で説明したように、相続放棄した土地でも、次の管理者が決まるまでは、相続人が管理しなければなりません。

つまり、早急に「次の管理者」を探す必要があるということです。

この手続きを「相続財産管理人選任の申し立て」と言い、被相続人が亡くなった際に住民票を置いていた市町村を管轄する家庭裁判所に申し立てることで、相続財産管理人が選任されます。

ただ、ここで問題になってくるのは、相続財産管理人選任の費用です。

相続財産管理人選任の申し立ての費用

申し立てには、印紙代や切手代などで1万円程度かかりますが、その他に「予納金」というものが必要です。

予納金は財産を管理するための費用で、その名前のとおり「あらかじめ納めておく必要があるお金」です。

予納金の相場は30~100万円
例えば、ゴミが不法投棄された場合の撤去費用、勝手に入られないための柵の設置費用等に充てられます。

具体的な額は、その土地の状況によって違ってきますが、約30~100万円というのが一般的な相場です。

つまり、これだけの金銭を準備しない限りは、いつまで経っても相続放棄した土地は、相続人の管理下にあり、土地の処分は相続人自らが行わなければならないということです。

なお「予納金」は、所有者が確定した場合には清算され、残りは申立人に返還されます。
所有者さえ決まれば、予納金は清算されるのね。まとまったお金を用意しておけば対応可能な範囲ね。


まとめ:所有権が厳密だからこそ土地の相続放棄は難しい


日本は「私有財産」が大原則です。不動産(家、土地)や動産(不動産以外)は、誰の所有物か明確にする必要があります。

個人のものか、会社のものか、自治体(都道府県、市町村)のものか、あるいは国のものかがはっきりしないと、困ったことになります。

例えば、空き家が倒壊しそうだとして、危険を感じた隣家の人が勝手に処分することはできません。その行為は、空き家の所有権を持つ人の権利を侵すことになるからです。

その逆に、自分が持っている土地が要らないからといって、ただ放置してはいけないのです。

法律に則った手続きによって、処分しなければなりません。

今回ご説明した「相続放棄した土地の処分」の難しさは、この「私有財産制度」にあるのです。
 

参考情報:通常の相続放棄の流れ(財産・建物など)


一般的な相続放棄の流れは、次のとおりです。

家庭裁判所に届け出
被相続人の死亡時の住所地を管轄する家庭裁判所に、以下の書類を提出します。

・相続放棄申述書
・被相続人の戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
・被相続人の住民票除票または戸籍附票
・相続放棄する相続人の戸籍謄本
・印紙、郵便切手

家庭裁判所からの通知
届け出た家庭裁判所から「照会書」が届きます。

この「照会書」には、「自分の意思で相続放棄するのか」、「相続する理由は何か」等が記載されています。その回答を家庭裁判所に返送します。

その後、「相続放棄申述受理通知書」が家庭裁判所から送られてきます。

以上のような流れですが、家庭裁判所から「相続放棄」が認められたからといって、借金(マイナスの遺産)の債権者に、家庭裁判所から通知が行くわけではありません。

相続放棄した人が、債権者に相続放棄した旨を知らせなければならないので注意が必要です。


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