英語ネイティブ講師が理解できない日本人のジェスチャー

[公開日]2014/12/24[更新日]2015/04/17

「日本で誰かに初めて会うと、みんな僕に握手したがるんだよね。でもその握手の仕方がぎこちなくって!」

日本で英語講師を務めている筆者のアメリカ人の夫は、ある夜ぽろりとこんなことを話しだしました。日本生活3年目になる彼は、主に仕事で日本人の同僚、上司、または(英会話)生徒と話す機会が多々あります。そんな場面で、未だ文化の違いを感じることがあるようです。

英会話とジェスチャー

握手のやり方。日本人同士であれば普段は考えないようなことが、日々夫婦の話題として上がってきます。そんなところに国際結婚の醍醐味はあるのかもしれません。もちろんそのような細かいところで喧嘩などに発展することもあるのですが。「そりゃあ、日本人はアメリカ人のあんたを見て、お!外国人だ!握手だ!と思って意気込んでしてるんだよ。日本人同士だと握手する機会もないし」と冷静な筆者はかえしました。

「そうなんだろうけど、、握手の時のマナーがなってないんだよな」と旦那は首をかしげ気味にこぼしました。アメリカ人が大事だと思う、握手の時のマナーとは何なのでしょうか。今日は、ネイティブ講師がいまいち理解できない、不思議な日本人のジェスチャーについて紹介します。

握手


外国人は初対面同士の場合 “Nice to meet you” と握手をしながら挨拶するものだ。日本人である私たちは、そうやって英語の教科書や、テレビ、映画でいつの間にかすり込まれましたよね。日本人にとっては、「外国人=握手」だと思うところがあり、アメリカ人にとっては、「日本人=お辞儀」だと思うところがある。

このようなステレオタイプ(あるグループの人たちに対する、思い込みやイメージ)は思いもよらないところで、ふと無意識に出たりします。その結果、冒頭で出た旦那と出会う日本人たちも率先して握手を求めるのでしょう。もちろんそれは間違いではなく、筆者もアメリカにいた頃は、お辞儀など皆無の生活のなか、初対面の人には握手をしてきました。今でも日本で外国人に出会えば、名前を言ってさっと手を出して握手をします。

しかし、日本にずっと住んで日本式のビジネスでやってきた多くの日本人たちにとって、それは唐突に外国的すぎるところはあるのです。

「握手をしながら、ぺこぺこお辞儀するんだよね」

と旦那は言いました。確かに、筆者もそれを見たことがあります。日本人にとってお辞儀はほとんど無意識に出るものなので、止めるのが難しいのでしょう。「まあ、お辞儀の癖は良いにしても、お辞儀のせいで肝心のアイコンタクトが抜けるんだよね。お辞儀すると自然に目線は下に行くから。アメリカでは握手する時はしっかりと相手の目を見て!と教えられるのに」

あえてそう言われて、筆者も気がつきました。だから、日本人の握手はどこか不自然です。20代すべてをアメリカで過ごし、30才になる目前で日本へ帰ってきた筆者は、帰国当時立ち振る舞いがすっかりアメリカナイズされてしまっていました。帰国したばかりの頃、日本人とコミュニケーションを取るときに逆カルチャーショックをたくさん経験しましたが、アイコンタクトもその一つでした。目をあまりしっかりと見ないんですよね。日本文化では。

恥ずかしいのか、しっかりとアイコンタクトをするほうが逆に無礼なのかもしれない、とこちらに思わせるほどに皆目をそらせたり、違うものを見ながら話をすすめたりします。アメリカ文化では全くの逆で、アイコンタクトは非常に重要です。特に初対面でがっちりと握手を交わすときに目を見なければ、ビジネスでは通用しませんし、交友関係でも「ちょっと変な人」と思われるでしょう。

筆者も、今では外で仕事をしないので新しい人と会う機会は少ないですが、宅急便のお兄さんが全くこちらを見ないことが、未だに外国的にうつります。アメリカでは小包を持ってきてくれる人たちとはアイコンタクトどころか、友達のように、1−2分立ち話をしたものです。

企業等が従業員の英語力に力を入れる昨今、英語がいくら喋れても立ち振る舞いやジェスチャーが日本人のままであれば、意味がないような気がします。「ちょっとおかしな国際人」な日本人の言動とは、日本人の私たちが思ってもいないところでぽろりと出てしまいます。

仕事やプライベートで外国人と出会う機会がある方は、ぜひ握手から始めてほしいのですが、その時に覚えておいてほしいことは、

1 しっかりと握手をする
2 相手の目をしっかり見る
3 にっこりと笑う

これらの「握手のマナー」を覚えておいて、自然と出るようになれば、立派な国際人だと言えるでしょう。

「私」


「あと、自分ていうのをジェスチャーで表すときに人差し指で、鼻を差すのがおかしい」

ありがちなところですが、外国人からみてこれは滑稽に映るようです。アメリカでは、指ではなく手を胸のところに持ってきて “I” と言っていました。

「自分ていうのは、ハートにあるものでしょ。なのになんで鼻なんだろうと思うんだよね」

鼻、というか顔自体という感じがするのですが、確かになぜ私たち日本人はそうするのでしょうか。前項でも触れましたが、英語で調子よく話しているのに“Me?” と言いながら、鼻を指差す日本人もいます。言語力はおいておいて、日本で住んでいれば、ジェスチャーが知らないあいだに周りの人のものの影響を受けるというところはあります。

筆者もアメリカ時代はもちろん、胸のところに手をやって話をしていましたが、帰国してからいつの間にか「私?」と言いながら鼻を指差している自分に、この間気づきました。知らない間に日本文化の風習に影響を受けているのでしょうね。

人間とはおもしろいもので、住んでいる環境で皆がやっていることに影響をうけて、いつの間にか自分も自然とそうするようになるものなのだと実体験から言えます。そんなことを普段は忘れているのですが、アメリカ人の旦那と住んでいるとこのような何でもない会話の中で考えさせられたりします。

○×(マルバツ)文化


「変なジェスチャーといえば、この前高専で生徒が宿題の提出をしていた時に、出さない生徒がいてね」

旦那は英会話教室と高専と半分半分で教えています。

「出さない様子だったから、やってきた?と聞いたら、彼は目の前で大きなクロス(バツ)を作って無言だったんだよね」

“No” ということを示すために、両手で大きな×を作ることはありますよね。この生徒も、「やってない」「持ってきてない」という意味合いで×を両手で大きく作ったのでしょう。これが旦那にはおかしく映るようなのです。

「そんなジェスチャーは見たことなかったし、何より宿題をやってこなかった説明もなく、悪びれる様子もなく無言でそんなことするなんて、アメリカでは許されない」

日本でも宿題をやってくることは非常に重要ですが、アメリカではかなり厳しいらしく、もし忘れてきてしまった場合はそれなりの理由を皆の前で言わされたり、先生にしつこく聞かれたりするらしいです。高校生の頃、宿題を提出さなかったり赤点をとったりしていた筆者は、アメリカで高校行かなくて良かったと思わされました。

確かに、そのような文化で育っていると、日本の高専生徒のこんな態度は信じがたいかもしれません。また、高専でのテストを採点していたときにも、二択問題でおもしろい発見がありました。旦那はT か F を回答欄に書くように求めていたのですが、一人の生徒が○と×で答えていたのです。

「なんだこりゃ」という旦那に、日本では○×で答えるのだよと説明してあげました。クイズ番組なんかでも、「○か×か」なんていうのは普通に見ますし、普段考えないようなこんなところにも、文化の差は出るものです。アメリカでは、二択問題ではT(True:真実) or F(False:偽)で答えるのが普通ですので、○×はやはり日本文化に根強いのだと改めて思わされました。

”No”


「もうひとつ、ノーと言うのに、こうやるよね」

と旦那は話を続け、片手を目の前でひらひらさせました。「違う、違う」などと言うときにするあのジェスチャーです。

「あれって、、、臭いの?って言いたくなるんだよね」

と旦那は笑いました。確かにそうかもしれません。同じような動きですよね。

「アメリカ人て、どうやるっけ?Noって言うジェスチャーってあったっけ?」

帰国して、完全に日本文化に慣れてしまった筆者は思い出せませんでした。

「アメリカ人は、 I don't knowの意味合いのときは、shrug(両手のひらを上に向けて肩をすくめる、外国人がよくやるアレです)するかな。 No っていう否定の意味合いのときはNoって言うよ。か、首を横に振るか」

旦那によると、前項でもありましたが、日本人は何も言葉を発さずにジェスチャーに頼るところがあるようなのです。日本人は寡黙で恥ずかしがりの癖がありますから、何も言わないでジェスチャーで表すのはラクなのかもしれませんね。

「あと、アメリカ人は誰でもクールになりたいっていうか、そういう傾向があるけど日本人はそんな大げさっていうか、漫画みたいな動きをしてSilly (おもしろおかしい)になることを恐れていないよね」

確かに、会話の途中で漫画のようにズッコケてみたり、日本文化は漫画とのつながりが深いので、あまりクールでかっこいい言動をすることにはこだわっていない気がします。そんなところにも国民性はにじみ出ます。

数の数え方


「あと、この間キッズのレッスンでおもしろいなと思ったのが、数え方」

数字は万国共通の概念ですが、その数え方にも違いがあるらしいのです。

「答えを聞いたときに、5歳くらいの女の子がこうしていたの」

と言って、旦那は親指だけを折り曲げ、他四本は全て立てる動きをしました。

「で、4? と聞いたら、その子はOne! と言って怒ったんだよね。で、日本人は数えるとき指を段々と折り曲げるんでしょ?アメリカとは逆だよね」

一般的に指で数を数えるとき、親指から人差し指、中指、と順に折り曲げて数えますよね。最後に拳を作ったように、手は閉じます。ほとんど無意識で、そうするのではないでしょうか。アメリカでは一般的に、人差し指から始め、中指、薬指、小指、そして最後に親指を立てます。最後に手は開いています。

そのレッスンの女の子はおそらく自分で数えていたのを、先生であるうちの旦那に見せたのでしょうね。日本人の大人は、人に見せる場合はまた違います。「1」は人差し指で、「2」は人差し指+中指など、見せている人に分かりやすいように開けてみせるはずです。

文化の差のことについては敏感な筆者は、手を使っての数の数え方が日米で違っていたことは知っていましたが、さてそれを人に見せるときにはその人にとって分かりやすいように、表現を違えるということに気づきませんでした。また新たな見方を教えてくれた、この女の子に感謝です。

英語ネイティブが理解できない日本人のジェスチャー まとめ


いかがでしたか。普段はあまり見えないネイティブ講師の日本での生活が少し見えたでしょうか。旦那はある程度日本文化を理解してから、日本へ来ました。それに日本人である筆者と結婚していますので、仕事で日本人の不可解なジェスチャーを目にして理解できなくとも、すぐに聞ける環境にはあります。

しかし、日本文化にあまり馴染みがないままに独身で外国から日本に来て、日々このような小さな文化の差に戸惑うとなると、やはりそれはストレスが多い毎日になっていしまうかもしれませんね。外国生活というのは並大抵の気力では成り立ちません。

文化や常識のようなものが、ジェスチャーなどという一見そんなに重要でないことにも浸透するのがおもしろいですよね。人間の行動というのは、いったいどこまでが個人のもので、どこまでが無意識のままに吸収した社会の影響なのでしょうか。

旦那を通して日本や日本人を見つめていると、ますます不思議を感じてしまいます。筆者もアメリカ生活時代はアメリカ文化にとけ込み、言動がアメリカ人らしくなっていましたが、うちの旦那もこのまま日本で暮らしていると、そのうちに握手をしながらぺこぺこするようになるのでしょうか。ちょっと楽しみです。