【行政書士が解説】家族信託の6つのメリットと財産を相続する上での注意点

[公開日]2017/04/20[更新日]2017/12/11

家族信託 メリット

「家族信託」が「成年後見制度」より優れているのは、その手続きの簡単さです。

そして受託者に対する報酬も発生しませんので、財産が目減りすることもありません。

今回は、この「家族信託」の仕組みと、メリット・デメリットをご紹介します。


この記事は、現役の行政書士の方に執筆していただき、引越しの神様チームで編集しております。


なぜ相続対策に有効?知っておきたい家族信託の仕組み


家族信託 メリット

家族信託という言葉に、あまりなじみがない人も多いと思います。

「信託」と聞いて、まず思い浮かぶのは、投資信託ですが家族信託と意味を比べて「信託の意味」を理解しましょう。

家族信託 メリット

・投資信託:信託銀行に自分の資金を預けて、金融や証券市場で運用し、そこから得た利子、配当、値上がり益などが投資した人に分配される仕組み。
・家族信託:自分の資産を信頼ある家族に預ける仕組み。

つまり、自分の資産を他人に預ける、託すことが「信託」に当たるわけです。

信託って難しそうに聞こえるけど、シンプルにいうと「他人に預ける」って意味なんだにゃ!


家族信託とは「家族による財産管理」

「家族信託」は、自分の資産を信頼ある家族に預ける方式です。高齢者が自分の財産を他人に預け、その管理を任せる方法としては、「成年後見制度」があります。

成年後見制度
自分の財産を他人に預けて管理を任せる仕組み。

認知症などで判断能力が衰えた家族の財産を管理する制度の一つに、「成年後見制度」があります。

成年後見制度の対象となる人(被後見人)は、次のような人たちです。
・精神障害や知的障害により、判断能力を欠く状況にある人。
・認知症により、判断能力を欠く状況にある人。

被後見人は、原則として契約などの法律行為を、単独で行うことはできません。

成年後見制度は、弁護士・司法書士・行政書士などの専門家が財産を管理し、契約の代理人ともなってくれる仕組みで、遠く離れて住んでいる家族には頼もしい制度です。

ただ、成年後見制度は家族にとって次のような点が大きな負担ともなります。
・家庭裁判所を通して後見人を選定しなければならない。
・後見人に報酬を支払わなければならない。


そして、最近では専門家(弁護士等)に預けても、いつの間にか使い込まれていたというトラブルが頻発していて、この制度自体の欠陥が露呈している状態です。

そこで注目を浴びているのが「家族信託」。自分の財産の管理を任せる人(委託者)と、それを引き受ける家族(受託者)とが契約を結び、財産の管理、処分を委託する制度だにゃん!


家族信託
身内である家族に自分の財産を託す仕組み。

家族信託 メリット


成年後見制度とは異なり、家族信託では第三者に財産を使い込まれる恐れはありません。

そして家族信託が成年後見制度より優れているのは、その手続きの簡単さです。また、受託者に対する報酬も必要ないので、財産が目減りすることもありません。

家族信託ならラクに、安心して任せることができそうだね!


家族信託に今注目が集まる理由

家族信託 メリット

家族信託が注目され始めたのは比較的最近で、「改正信託法」が施行された平成19年(2007年)以降のことです。

この法改正によって、高齢者の財産管理や相続人への遺産の継承がよりスムーズに行われるようになりました。

家族信託と成年後見制度を比較すると下記のようになります。

 
家族信託
成年後見制度
手続き・基本的に財産を管理される人(委託者)と管理する人(受託者)とが合意し、「契約書」を作成すれば成立する。・後見人の選定は家庭裁判所が行う。
・多数の書類を提出する。
報酬・基本的に報酬は発生しない。・後見人の仕事はあくまでも業務の一環として行われるので、報酬が必要。
財産の把握・委任者と受託者が契約を結んだ時点で、資産の管理、運用が開始されるので、自分が託した財産の状況を把握できる。・被後見人は認知症などで判断能力が著しく低下しているので、後見人に託した財産を自分で把握することは難しい。


家族信託であれば手続きも必要書類も少ない
まず、「成年後見制度」では、後見人の選定等は、全て家庭裁判所が行います。

その際も多数の書類を提出することになり、手続きはかなり煩雑です。

その一方で、「家族信託」の場合、基本的に財産を管理される人(委託者)と管理する人(受託者)とが合意し、「契約書」を作成すれば、成立することになります。

家族信託は報酬の支払いの必要なし
次に、報酬の問題です。「成年後見制度」では、後見人はあくまでも仕事の一環として業務を行いますので、報酬を支払わなければなりません。

この報酬額は被後見人で勝手に決めることはできず、家庭裁判所で決定された額を支払うことになります。しかし、「家族信託」の場合は、基本的に報酬は発生しません。従って、財産の減少が抑えられます。

家族信託で財産を使い込まれるリスクを回避
また、「成年後見制度」では、被後見人は基本的に認知症等で判断能力が著しく低下している状態ですから、後見人に託した財産を自分で把握することは難しくなります。

対して、「家族信託」では、委任者と受託者が契約を結んだ時点で、資産の管理・運用が開始されますから、自分が託した財産の状況を把握することができます。

従って、勝手に財産を使い込まれる恐れは、「成年後見制度」に比べて少ないということになります。

あんまり馴染みがなかった家族信託だけど、なんだか良さそうだね!もっと詳しく知りたいね


相続問題に詳しい専門家が明かす家族信託の6つのメリット


家族信託 メリット

成年後見制度に比べて使いやすいという印象の家族信託ですが、利用の前にはメリットとデメリットを把握しておきましょう。

まず、この項目では家族信託の6つのメリットを整理します。

メリット1:成年後見制度よりも柔軟に財産が管理できる

成年後見制度では、後見人が定期的に家庭裁判所に対して、財産増減の報告を行う義務があります。

後見人はあくまでも業務で行っているというとらえ方ですから、報酬が支払われる代わりに、定期的にその業務内容がチェックされる仕組みになっています。

その点、家族信託であれば、報告の義務がありませんし、財産の管理・処分も受託者の裁量で行うことができます

たとえば、親名義の財産を徐々に子ども名義に変更していき、相続財産を減らして相続税対策をすることもできるのです。

メリット2:遺言書がなくとも相続がスムーズ

遺言書を作成する場合は、民法に則った条件を守らなければ無効になってしまいます。自筆証書遺言を専門家に依頼したり、公正証書遺言を作成したりすればある程度の費用がかかります。

その点、家族信託であれば、委託者と受託者との契約に基づいて行っているので、あえて遺言書という形式を取る必要はありません

もし、委託者が亡くなっても、受託者は残された財産を他の家族、相続人と話し合って分割すればよいことになります。

メリット3:託した財産への差し押さえを回避できる倒産隔離機能がある

家族信託には、将来的に委託者や受託者が、託した財産とは関係ない部分で多額の債務(借金)を負った場合でも、託した財産に対する差し押さえが免除されます。これが「倒産隔離機能」です。

委託者にとってはもちろん、受託者や相続人にとっても安心な制度なんだね。


メリット4:手数料をとられることなく教育資金の一括贈与ができる

孫に教育資金を贈与する際に、1500万円まで非課税とする制度が、平成25年(2013年)4月からスタートしました。

ただし、これを銀行の預金商品を利用する方法で行った場合、金融機関からは手数料を取られることになります。

しかし、家族信託であれば、手数料を支払うことなく、家族信託の契約の範囲で一括贈与を行うことができます。

メリット5:受託者の判断で不動産の処分できる

不動産を相続した場合、相続人の共有財産として管理する場合が少なくありません。そうなると、仮にその不動産を売却しようとしても、名義人全員の同意がなければ処分できないのです。

しかし、家族信託であれば、受託者の考え一つで不動産の売却などの処分が可能です。ただし、将来的に相続人になり得る人たちの意見は、十分に聞いておく必要があります。

メリット6:二次相続の指定ができる

相続には次の2種類があります。

・一次相続…夫または妻が先に死亡したときの相続。
・二次相続…残された妻または夫が、後に死亡したときの相続。または一次相続の次に生じた相続。

家族信託 メリット


通常、親Aが遺言書で子Bに財産を相続させる旨の記載はできますが、将来的に子Bが亡くなった場合、その相続人Cに相続させない旨の記載はできません。

つまり遺言書では、自分の相続人に対する希望(一次相続)しか記載できないのです。

しかし、家族信託であれば、親Aが委託者で、子Bが受託者だった場合、Bが亡くなった時にその子Cではなく、子Dに相続させる(二次相続)という契約が可能になります。

つまり通常の遺言書に比べて、自分の遺志をより反映させることができるのです。

家庭の環境が複雑でしっかり決めておかないと困る!って人には良さそうだね。


利用する前に要確認!家族信託の3大デメリット


家族信託 メリット

ここまで家族信託のメリットを中心に紹介してきましたが、家族信託といえども万能な制度ではありません。気をつけるべき3つのデメリットがあります。

デメリット1:判断能力が不十分な人に代わって、契約を結ぶことはできない

家族信託は、委託者の財産を受託者が管理したり処分したりできる便利な制度ですが、「身上監護(しんじょうかんご)」はできません。身上監護とは、子どもに対する親権に近い意味合いのものです。

たとえば親権の場合、未成年の子どもは法的に判断能力が未熟だとされ、親が子どもに代わって契約を結んだり、破棄したりできる権利が与えられています。
たしかに、未成年だけでは携帯電話に申し込めなかったりするもんね!


それと同じく、大人の身上監護とは認知症などを患って判断能力が不十分な人に代わり、契約を結ぶことができる制度です。

この身上監護は、成年後見制度には備わっていますが、残念ながら家族信託には認められていません。

受託者は財産についての管理権や処分権は認められているものの、委託者の代わりに法的な代理行為を行うことは認められていないのです。

家族であっても受託者では、委託している人の代わりに契約をすることができないんだね。


デメリット2:受託者の選定でトラブルが発生する可能性も

家族信託は基本的に、委託者と受託者の合意によって成り立ちます。合意した時点で、受託者による財産の管理が始まるのです。

もちろん、正式に契約書を取り交わして、後々のトラブルに備える必要がありますが、成年後見制度のように公的機関に申請したり、届け出たりする必要がありません。

役所に届け出しないなら、お手軽でいいんじゃないの?


一方で、委託者の財産が受託者の名義に変わるということで、委託者にとっては財産が勝手に使われているのではないかという疑心暗鬼が生じる可能性もあります。

しかも、受託者は委託者の財産を意のままにできるわけですから、受託者を誰にするか選定でもめることも考えられます。

受託者にならなかった相続人も、委託者と同じように「勝手に財産を使われるのではないか」という不信感を抱きがちです。
財産を自由にできる受託者がちゃんと信頼されて選ばれないと、トラブルの原因になりそうね!


デメリット3:不公平感の強い遺産分割は遺留分を請求されることがありうる

家族信託 メリット

一般的に被相続人が亡くなった場合、故人の遺志を尊重して遺言書に書かれたとおりの遺産分割を行います。

しかし、一人の相続人に対してより多くの遺産を相続させたいという遺言書があった場合、他の相続人からは不満が出ることがあります。

そこで、法定相続人が最低限の遺産(遺留分)を相続できるように、民法で規定されています。これを「遺留分減殺(げんさい)請求」と言います。

家族信託の場合、委託者は自分が死んだ後の財産の承継者を指定できますが、一部の相続人に多すぎる財産が継承されると、先ほど述べた遺留分減殺請求の対象になる可能性が出てきます。

ただ、家族信託はあくまでも「信託」であり、「相続」には当たらないので、遺留分減殺請求には該当しないとの考え方もあります。

家族信託そのものが新しい制度なので、相続などに関してきちんとした見解が定まっていないんだにゃ。


家族信託を利用すべきか見極める3つのチェックポイント


家族信託 メリット

ご自身の家庭環境が家族信託を利用すべきかどうかは、次の3点から判断しましょう。

家族信託を利用すべきか判断する3つのチェックポイント
1.委託者との住まいの距離
2.他の相続人との関係
3.委託者の責任能力

チェックポイント1:委託者と受託者が近距離に住んでいるか?

家族信託は、受託者が委託者の財産を直接管理したり、処分したりできる制度です。

ただし、受託者が委託者に無断で高額な買い物をしたり、多額の財産を処分したりすると、トラブルに発展することが考えられます。

そこで、ある程度の金額の買い物や財産の処分の際は、受託者の意向を確かめるといった配慮が必要です。

遠くに住んでいる場合には、電話で確認するという方法でも構いませんが、できれば委託者と受託者が顔を突き合わせて、じっくり話し合うといった心遣いが必要でしょう。
そう考えると、なるべく近隣に住んでいた方が好都合なのね。


チェックポイント2:他の相続人とのコミュニケーションは良好か?

家族信託 メリット

相続人の一人が受託者になった場合、残りの相続人は、「財産を勝手に使っているのではないか」と気が気ではありません。

また、委託者に了承を得たとしても、他の相続人に無断で高額の買い物をした場合はいさかいになります。

日頃から相続人どうしで上手くコミュニケーションをとれていれば、他の相続人も安心して管理を任せてくれるはずです。

チェックポイント3:委託者本人に責任能力があるか?

家族信託 メリット

家族信託は、委託者の意思で受託者に自分の財産の管理を任せる制度です。

従って、委託の契約をする時点で、少しでも認知症など責任能力の有無が疑われる状態であれば、契約そのものが無効になる可能性が出てきます。

また、そのような状態で契約を結んだ場合、他の相続人から疑いの目を向けられるかもしれません。

責任能力が怪しいひとを守ろうとする行為が、裏目に出ちゃう可能性もあるんだね


3つのポイントを満たせない場合は家族信託を避けるべき!

上記のオススメで示した3つとは逆の場合は、家族信託を避けた方がよいでしょう。

※以下の条件に1つでも当てはまる場合は、家族信託の利用は避けるべき
・委託者と受託者の住まいが遠距離である
・相続人同士の関係が上手くいっていない
・委託者本人に責任能力があると言い切れない

委託者と受託者が遠距離にいる、あるいは連絡をほとんど取らない場合は、委託者が疑心暗鬼になる可能性があります。

また、他の相続人と頻繁にコミュニケーションが取られていないと、「受託者が財産を使い込んでいるのではないか」といった心配が生じることになります。

さらに、契約を結ぶ際に委託者に少しでも認知症の疑いがあると、後々大きなトラブルに発展することも考えられます。

自分の財産を自由にできるひとと連絡が取りにくくなっちゃうと委託者は不安だわ!ましてや他の相続人なら妬みもあるかもね。


委託者と受託者、他の相続人ときちんとコミュニケーションを取ることがとっても家族信託では重要だにゃ!


まとめ:家族信託は良好のコミュニケーションが不可欠な制度

  
家族信託 メリット

財産を守る制度として、今注目されている家族信託をご紹介しました。

家族信託は成年後見制度に比べて、煩雑さはなく報酬も発生しないため、今後利用者が増えていく制度だと思います。

また、本文でも説明したように、倒産隔離機能があったり、教育資金の一括贈与ができたり、あるいは二次相続の指定が可能であったりと、相続対策には大きなメリットがあります。

ただ、一方で、委託者と受託者、さらに受託者と他の相続人とのコミュニケーションが、より必要とされる制度でもあります。

自分の家族の状況を十分把握した上で、「家族信託」の利用を検討しましょう。


style="display:inline-block;width:728px;height:90px"
data-ad-client="ca-pub-1518546739918319"
data-ad-slot="6722995727">






購読

引越しの神様の情報はRSSでの購読が便利です。