【行政書士が解説】マンション個人売買の方法と警戒すべきリスク

[公開日]2017/05/16[更新日]2017/12/11

マンション 個人売買

マンションを個人売買することは可能ではあります。

しかし、個人でマンションを売却するには、負担が大きい以下のことを自分自身で適切に対処しなければなりません。

・ローンを利用せずに現金一括で購入できる買い手を見つける
・売買契約書などの書類を自力で作成し契約手続きを行う
・購入後のトラブルのアフターフォロー

通常であれば、不動産の仲介業者に委託するようなことを自力で行う必要があり、トラブル発生のリスクも伴います。金額の大きい取引である以上、フリーマーケットのように簡単ではありません。

この記事では、マンションの個人売買を行う方法と売買取引で警戒すべきリスクを中心に解説します。


この記事は、現役の行政書士の方に執筆していただき、引越しの神様チームで編集しております。


方法を実践するのは大変!マンションを個人売買するための10のステップ


マンション 個人売買

マンションを個人で売却しようとなると、通常は仲介の不動産業者に委託するような作業であっても、すべてを自力で対処しなければなりません。

ステップ1:相場の確認

相場を調査して妥当な売却価格を探る
マンションの価格を考えるために、周辺のマンションの相場を調査しましょう。

インターネットで調べたり、あるいは不動産会社をいくつか回ったりして、相場をこまめに調べていきます。

ステップ2:図面や写真などの準備

住みたいと思ってもらえるような写真を撮る
次に、自分の物件を売り込むための資料を作ります。具体的には、図面や写真などを準備します。

図面は、基本的に管理会社が保管していますので、連絡をして入手することができます。

写真は、間取りや壁や天井等の状態がわかる撮り方をしなければなりません。ただ販売前ですから、家財道具等を置いたままの撮影になってしまいます。

素人が写真を魅力的に撮るのもなかなか難しいので、「住みたい」と思ってもらえるような写真を撮れるまで根気よく撮影しましょう。

写真を見たときに薄暗い雰囲気だと「住みたい」とは思わないよね。明るい時間帯に写真をたくさん撮って良いものを選ぼう!


ステップ3:販売価格の決定

客観的な視点で価格を設定する
調査した相場を参考に、実際の販売価格を決めます。

しかし問題点として、専門家でもない限り、どのようなポイントを考慮して価格を決めるべきかわからないでしょう。安すぎれば損をしますし、高すぎれば買い手がつきません。さらに、一度決めた価格は、変更することが難しいので要注意です。
マンションの住まいに思い入れがあればあるほど、価格が高めになりすぎるから要注意にゃ!



ステップ4:広告媒体・マンション個人売買サイトへ掲載

マンションの個人売買サイトへ物件情報をアップ
いよいよ、自分のマンションの物件情報を公開します。

最近は「個人売買サイト」がいくつもあるので、実際にアクセスして、閲覧者も多いサイトに登録します。

ただ立地や価格、築年数等の好条件が揃わないと、集客は難しいと考えてください。

さらに、マンションの個人間の売買取引では「住宅ローン」が組めません。

そのため、現金一括が必須条件となり、購入対象者も絞られます。この点についてはのちほど詳細をご説明します。

ステップ5:問い合わせや内覧への対応

どんな問い合わせに対しても誠実に対応する
自分の物件に興味を持ってくれた人がいた場合、その問い合わせや内覧の対応をします。

中には冷やかし半分の人もいる可能性はあります。しかし自分から売り込んだ以上、時間と労力はかかりますが、丁寧に対応しなければいけません。
全ての人が「このマンションを買いたい!」と意気込んでいるわけじゃないから、見極めが重要ね


ステップ6:価格交渉の対応

値下げ交渉は「必ずあるもの」と心得よう
物件を気に入り、買う意思を持った人は、必ずと言っていいほど値下げ交渉をしてきます。「成約」のためにはある程度譲歩して、販売する方向にもっていく必要があります。

ただ、価格交渉に慣れていないと、どの値段で手を打っていいか、あるいは相手は本気で買う気があるのか…といった微妙な駆け引きが難しく、リスクもあります。
買い手を逃すとイヤだし、かといって安く売りすぎるのも損した気分になるし…。交渉って難しそうだなぁ。


ステップ7:必要書類の準備

売却契約書の作成はもっとも神経を要する
めでたく価格に折り合いが付き、成約した後は、必要書類の作成や取得を行います。

まず、当事者間で取決めした事項を盛り込んだ「売買契約書」を作成します。これこそが個人売買の過程で、もっとも気を使う作業です。
※書類作成の詳細は記事下部の参考情報に記載しています。


また、物件の権利関係が記載された「履歴事項証明書」を管轄の法務局から取り寄せます。この「証明書」は、人間で言えば「戸籍」。以前の「登記簿謄本」に該当するものです。

現在事項の記載と併せて、証明書交付の日から3年前の年の1月1日から現在までの抹消事項が記載されています。抹消事項とは、現在消されている権利(抵当等)です。

ステップ8:マンションの売買契約を結ぶ・決済

所有権移転登記は司法書士に依頼するのが一般的
作成した「契約書」に、両当事者が署名捺印します。

捺印は「実印」を使い、「印鑑証明書」も添付します。また、代金の支払いを済ませたあとは「所有権移転登記」を行います。

通常は司法書士に依頼し、その際には報酬が発生します。また報酬以外にも「登録免許税」が必要です。売買契約での移転登記は、不動産価格の2%です。
※司法書士の利用方法の詳細は記事下部の参考情報に記載しています。


もちろん、自分で登記を行っても構いませんが、必要書類をそろえたり、法務局に何度も足を運んだりしなければなりません。

仕事をしながら法務局に何度も行かないといけなくなるのはキツイなあ。司法書士さんにお願いした方がお金はかかるけど現実的かもね。



ステップ9:物件の引き渡し

物件の汚れやキズは購入者との共通認識を持とう
買主に物件を引き渡す際には立ち会いをしますが、できるだけ物件の細かな箇所も一緒に確認し、汚れやキズ等について共通認識をもっておかなければなりません。

これを怠ると、あとで「○○にキズがあるので、修繕してほしい」と言われる可能性があります。

ステップ10:住み始めてからの対応・アフターフォロー

クレームがきた場合は誠実に聞いた上で状況の整理を行う
実際に買主が住み始めて、色々と注文を言ってくる場合もあります。当然それにも対応しなければなりません。

もちろん、相手の言うことをすべて受け入れる必要はなく、こちらの主張を述べることもできます。しかし相手の言い分を聞く姿勢を持たなければ、大きな不信感に繋がってしまいます。

言った言わないを防ぐためにも、引渡し前の確認をきっちり誠実に行うのが大事だにゃ!


10段階にも及ぶ売却に向けての対応は売主の負担大

以上のようにざっくりと流れをみただけでも、無数の作業が発生し、その中にたくさんの注意点があることが分かります。

次の項目では、一連の流れの中でも特に大きな警戒を要する「マンションの個人売買3つリスク」について詳しくご説明します。

マンションの個人売買で警戒すべき3つのリスク


売却を成功することができれば仲介不動産業者に支払う費用を節約できますが、売却の成功は容易ではありません。これからご紹介する「警戒すべき3つのリスク」には注意しましょう。

リスク1:マンションの買い手を見つけることが困難

自分の知り合いを通じて買い手を見つけるのは限界がありますし、新聞やチラシなどの広告を使えば、当然費用がかかります。

インターネットの「個人売買サイト」に登録しても、好条件でない限り買い手がつく可能性は低いのです。

また、個人が販売しているマンションだとわかれば、値段交渉を持ちかけられることがほとんどです。

もちろん、「提示金額以下では売りません」と突っぱねることはできます。しかし、なかなか買い手がつかない状況に陥ると、値段を下げてでも売りたいという心理が出てくるでしょう。

このように、買い手を見つけにくい上に、理想の金額で売れないかもしれないというリスクがあります。

リスク2:契約手続きや消費税等の税金の処理を自分で行う

マンションを売買するとなると、きちんとした「売買契約書」が必要になります。

また、マンションを売るということは資産を売却することですから、「譲渡所得税」や「消費税」の問題も発生します。本来であれば、税金関係は税理士に任せるところですが、個人で売買する場合には、その点も自分で計算し、書類を作成しなければなりません。

慣れない税金の計算をして、自分で「申告書」等の書類を作成するとなると、かなりの手間と時間がかかりますし、もし間違いがあれば「修正申告」等を行わなければなりません。

売買契約とは
物の売り買いを「売買契約」といいます。私たちは毎日、この「売買契約」の中で生活していると言っても過言ではありません。

例えば、スーパーで卵を買う際に、買い物かごに卵を入れて、レジに行きます。店員の前にその買い物かごを置くことで、何も言わなくても「私をこの卵を買いたいのですが…」という意思を示します。これを法律的には「『売買契約』の申込み」といいます。

そして店員は、「○○円で売ります」という意思を示すために、「○○円です」と客に告げます。これを法律的には「『売買契約』の申込みに対する承諾」といい、ここで「売買契約」は成立します。

つまり売買契約は、客の「買いたい」という意思と店員(スーパー)の「売ります」という意思が合致するだけで成立するのです。

客は店員に卵の代金を支払う義務が、店員は客に卵を引き渡す義務が生じます。この義務のことを「債務」と言います。

もしどちらかが「債務」を実行しなければ、相手方は「売買契約」に基づいて、催促することができるのです。

以上が「売買契約」の仕組みです。

リスク3:契約交渉時・契約後のトラブルに備える必要あり

個人契約ですから、誰かを介すことなく、売る側と買う側が直接契約を結ぶことになります。何事もなく契約が成立し、無事にお互いの債務(代金の支払い、物件の引き渡し)が済めば問題はありません。

しかし、契約時、あるいは契約後にトラブルが発生した場合には、当事者同士で解決しなければなりません。

弁護士が関わるようなトラブルになると面倒
  
販売したマンションの修理等の問題で合意点が見出せず、相手方が住宅問題専門の弁護士に依頼した場合には、今度はその弁護士と交渉しなければならないのです。

相手は「法律のプロ」ですから、対抗するには、こちらも弁護士を雇うことを考えなくてはなりません。解決するまでに、費用も時間もかかってしまいます。日常生活や仕事にまで影響が及ぶかもしれません。

マンションの個人売買では住宅ローンが利用不可なので要注意


マンション 個人売買


3つのリスクについて知った上で、さらに覚えておくべきは「個人売買では『住宅ローン』が組めない」ということです。

つまり、買い手が「現金一括」で購入しなければならないことを意味します。 

マンションの個人売買で「住宅ローン」の利用が許されない理由について、この章では解説いたします。

ローン不可の理由1:契約書の不備の可能性よるトラブル

個人で売買するわけですから、「売買契約書」も個人で作ることになります。もし現金一括の支払いであれば、引き渡し後に契約内容の不備が元でトラブルになったとしても、話し合いの余地があります。

しかし、ローンを組んでいた場合、買い手側が「トラブルが解決するまで、月々の支払いを凍結する」と言い出す恐れもあります。そうなれば、個人では手に負えない事態に陥ることになります。
支払いが完了していないと、とんでもなく交渉が厄介になりそうだね。


ローン不可の理由2:重要事項説明書の存在

「重要事項説明書」とは、売買するマンションの現況と取引内容が記載されている書類のことです。「住宅ローン」を組む際には、この「重要事項説明書」と「売買契約書」を、ローンを扱う銀行に提出する必要があります。

それでは、「売買契約書」と同じように、「重要事項説明書」も個人で作ればいいのでは?と思う人がいるかもしれません。

しかし法律上、この「重要事項説明書」については、宅地建物取引主任者の資格を持った人しか作成することができないのです。

従って、「売買契約書」は個人で作れても、「重要事項説明書」は作れず、「住宅ローン」を組むことは不可能です。
個人だけで重要事項説明書を作ることができない→ローンの申請ができないってことね。


ローン不可の理由3:瑕疵担保責任の規定が明確にできないためリスク大

「重要事項説明書」が個人で作成できないと、マンションの現況が不明のままになります。

そうなると、物件の状態を反映した「売買契約書」を作成することができませんし、住宅の売買で問題になってくる「瑕疵担保責任」について、明確に決めることができなくなります。

「瑕疵担保責任」とは、民法第570条に規定されたもので、「売買の目的物に購入した際に気付かない瑕疵(キズ)があった場合、売主は買主に対して、契約解除や損害賠償等の責任を負わなければならない」とされています。

「売買契約書」で、この「瑕疵担保責任」を明確にしていないと、後々トラブルに発展することになります。

ローンを行う金融機関は「物件そのもの」を担保とする以上、現況がわからないままの不動産は瑕疵が生じるリスクが大きすぎるため、貸し出しを行うことができません。

ローン不可の理由4:不正な借り入れの可能性

業者を間に入れず、売主と買主とで「売買契約書」や「重要事項説明書」を作成し、銀行に「住宅ローン」の申込みを行った場合、銀行は「もしかして当事者同士が共謀して不正に借り入れを行うのではないか」という疑いを抱きます。

もしそうであれば、「不正融資」ということになり、「不良債権」として銀行の信用問題にも発展します。
不動産業者が間に介在しない場合は、ローンの審査が通る見込みは限りなく薄いにゃ。


個人売買のローンは金融機関にとってリスクが大きすぎるため利用できない

このように、銀行にとっても大きな危険性をはらんでいるため、業者を通さない個人売買の「住宅ローン」は認めにくいのです。

一般的に、マンションを買うときは「ローン」を組みます。日本人にとって人生最大の買い物であり、なかなか現金一括で支払える金額ではないからです。

ローンを組まずにマンションを買ってくれる人が、一体どれだけいるでしょうか?これを踏まえると、マンションを売る対象がぐっと狭まってしまうのです。
マンションのような大きな買いものを一括できる人なんて、あんまり聞いたことないなぁ。


個人売買はコスト大!不動産会社に売却仲介を依頼すべき理由


マンション 個人売買

仲介業者は、販売から成約、そしてトラブル回避のためのノウハウを熟知しています。

個人売買を行い、トラブルによって大きな損害を被ることを考えれば、仲介業者に支払う手数料は「保険料」だとも言えるでしょう。

面倒な手続きでも専門的知識をもつ仲介業者が対応してくれる

個人売買では、様々な場面で「専門知識」が必要とされます。

「売買契約書」や「重要事項説明書」の作成、あるいは「税申告」、また「所有権移転登記」の手続き等です。

これらを全て個人でやるとなると、決して効率的ではありません。専門知識を持った仲介業者に依頼さえすれば、スムーズに手続きが進みます。

仲介業者へ依頼するなら一括査定サイトがおすすめ

通常、不動産の査定を受けたければ、査定を行う会社にそれぞれ依頼しなければなりません。

しかし「一括査定サイト」なら、一つのサイトに情報を入力するだけで、多くの会社に無料で査定の依頼ができるのです。

サイトを運営しているのはWebマーケティングの会社等で、基本的に不動産事業は行っていません。

不動産の仲介をするには「宅地建物取引業」の免許が必要ですから、サイト運営会社は、仲介業の会社を紹介する役目だけを担っています。
複数の会社の意見を聞いてみた上で、一番信頼できる会社に任せたいわね。


まとめ:マンションは個人売買よりも仲介業者に依頼した方が確実


マンション 個人売買

専門的知識がないまま、大きな売買契約を組むことは、それだけ大きな責任を負います。「売買契約書」一つとっても、のちに思わぬ揉め事を招くことがあるというのは、前述した通りです。

様々な手続きに関する情報がパソコン一つでわかる時代になったため、所有するマンションを自力で売買したいと思うかもしれません。

確かに、マニュアルに従えばある程度の作業が個人で行えますし、仲介業者を通さない分、販売代金がそのまま受け取れるというメリットがあります。

しかし、一旦トラブルが起こってしまうと、素人の手には負えなくなるのです。

さまざまなリスクを検証し、安全な道を選択してください。自分の大事な財産がトラブルの種にならないよう、しっかりした仲介業者、査定一括サイトを利用することを強くおすすめします。



参考情報:マンション売買の契約に必要な書類と手続き


売買契約書について

「売買契約書」は個人売買の要です。言い間違いや聞き間違いは証拠にならないだけに、書面に残る「契約書」は絶対的です。一言一句、言い回し一つ一つに細心の注意を払って作成する必要があります。

最近では、インターネットで「売買契約書」の雛形が手に入り、個人で作成することもできます。しかし法律に詳しくない人が作った場合、「契約書」そのものに不備が生じて、思わぬトラブルが発生することがあります。

例えば、「契約書」の内容が、マンションを売る側に極端に不利に作成されており、それに気付かずに「署名捺印」してしまった場合。マンションの欠陥を買い手から指摘されたら、売買から十年以上経っていてもその補修費を負担させられる…ということもあり得るのです。

そのような不利益を被らないためにも、しっかりした「契約書」を作っておく必要があります。

移転登記について

所有権移転登記では、以下の書類が必要です。

・登記識別情報(履歴事項証明書)
・登記原因証明情報(売買契約書)
・代理権限証明情報(委任状) 
・印鑑証明書 
・住所証明情報(住民票)

別途「登録免許税」も必要です。司法書士に依頼しないのであれば、必要書類は全て自分で準備します。

また、法務局が開庁している時間帯(基本的に平日の9時から17時)に必要書類を持参して、手続きを行わなければいけません。

参考情報:不動産の個人売買では司法書士を利用した方がスムーズ


司法書士が必要な場面とその理由

マンションの売買契約が成立し、代金の支払いが済んだら「所有権移転登記」を行います。その際には、できれば司法書士に依頼するべきです。

報酬はかかりますが、必要書類の取り揃え、法務局への持参、法務局職員との交渉等を考えれば、「登記のプロ」である司法書士は非常に頼りになります。

司法書士への相談に必要な書類・費用

司法書士に相談する際には、できれば契約書の作成前に行きましょう。既に署名捺印された契約書に不備があった場合は、破棄・修正が難しくなる可能性があります。

また、相談の際には、物件の情報(履歴事項証明書、固定資産税通知書)等を提示してください。

司法書士に支払う報酬・費用は、一定していません。物件の価格によって決めている所もあれば、難易度(必要書類数等)によって決めている所もあります。