プロバイダ乗り換えに落とし穴! 行政書士が教えるトラブル対処法
[公開日]2016/09/21
「毎月のインターネット料金を安くしたい!でもプロバイダの乗り換えって難しそうでなかなか踏み切れない」
そう考えていたあなたに「プロバイダ変更の設定は遠隔で行いますので、お客様は特にすることはありません」と電話が来ます。
手間が省けてラッキーと思ったところ、後日届いた契約書を見てびっくり。料金がちっとも安くなってないどころか、プロバイダの料金が二重で請求されていて結果として高くついている…。
プロバイダの乗り換え契約ではこのような電話勧誘でのトラブルが多く発生しています。
この記事では行政書士である筆者が具体的な事例を題材にトラブルへの対処法をお教えします。
この記事では現役の行政書士さんに、プロバイダ乗り換えでのトラブル対処法から回避術まで解説してもらったにゃ!
プロバイダ変更の電話勧誘・遠隔操作は要注意な理由
プロバイダーの変更は通常、プロバイダを申し込んだ後に送られてくるIDとパスワードを用いてユーザー自身が設定を行う必要があります。
設定方法はシンプルではありますが、パソコンが苦手な方にとっては「インターネットの設定」と聞くだけで難しく感じてしまうものです。
プロバイダの電話勧誘では、その心理に付け込んだ営業方法が行われており特に注意が必要です。
大手通信会社を装った電話に騙されるトラブルが多発
最近では、電話勧誘によって、プロバイダの乗り換えに関する説明を受けることが多くなりました。ただ、その場で書面確認ができないため、業者から言われるままに契約し、後でトラブルに発展するケースが少なくありません。例えば、「代理店」の名前をきちんと伝えず、大手通信会社やその関連会社を連想するような言い方をすることがあります。電話を受けた側は、大手企業の名前が出たために、すっかり信用して、説明を聞き、そのまま契約を結んでしまうというケースです。
遠隔操作の承諾が悪質な契約トラブルに発展することも
業者が消費者の家に行って工事を行うと聞けば、誰でも抵抗を感じて断る場合が多いかもしれません。しかし最近では、業者によるパソコンの遠隔操作によって設定の変更ができるため、消費者の方も警戒感が薄れてしまい、「この場で簡単に済むのなら任せよう」という気持ちで承諾してしまう人も少なくありません。しかし、業者にパソコンの操作を全面的に委ねていることに等しいわけですから、業者に悪意があれば、消費者の望まない設定にされている場合もないとは言えません。遠隔操作は、パソコンの所有者や使用者の承諾を得た上で業者が行っているわけですから、消費者の意図しない設定にされていても契約は成立することになります。
自分がやった操作じゃなくても、この場合では契約は成立しちゃうんだね…怖い
後日に送られてくる契約書でトラブルが表面化
プロバイダの乗り換え操作が完了すると、業者から正式な「契約書」が送られてきます。ただ、ここで記載されている契約内容を確認して、初めて業者が勝手にオプションサービスを追加していることがわかるというトラブルも発生しています。結果的に、電話で説明を受けたような安い料金設定にはならず、契約したことを後悔するケースもあります。
解約を訴えても違約金の請求を求められるが安易に応じない
契約書と電話の説明とが違っていたため、業者に解約を申し入れても、「契約を解除するには違約金や契約から解約までの使用料が必要だ」と言われるケースもあります。ただし、業者の言われるままに支払った場合、業者の説明した違約金や使用料に承諾したことになってしまいます。
そうなれば、後で違約金や使用料が不要であることがわかっても、取り戻すことはなかなか難しくなりますので、納得しないままに支払う必要はありません。なお、トラブルについての対処方法は、後述します。
悪徳業者と結んだ契約を解約できるか?
遠隔操作で勝手に不要な有料オプションサービスを申し込みされてしまったとしたら、たまったものではありません。
消費者が悪徳業者と結んだプロバイダ契約は解約できるのでしょうか?
電話勧誘ならば一見クーリングオフ可能のように思えるが…
送られてきた「契約書」を見たら勝手にオプションサービスが追加されていた、納得できない違約金や使用料を請求された等で、プロバイダ乗り換えの契約を結んだ業者が、悪徳業者だとわかった場合、解約はできるのでしょうか?電話勧誘でよくわからないまま契約したのですから、まず思い浮かぶのは、「クーリングオフができるのではないか?」ということです。
クーリングオフが適用される商品、権利、サービスは決まっている
確かに、クーリングオフの適用範囲を定めた「特定商取引法」では、電話勧誘販売の場合、「法定の契約書面を交付された日から8日以内」であれば、クーリングオフが適用されるとあります。適用範囲としては、「指定商品」、「指定権利」、「指定役務」、そして「3,000円以上の現金取引」とあります。クーリングオフってなんにでも適用できると勘違いしてたわ!
プロバイダ契約はクーリングオフの適用範囲外
では、「プロバイダの乗り換え」は適用範囲に入るのかというと、残念ながら入りません。プロバイダの契約は、「電気通信に関する役務の提供」となり、上記で説明した「指定役務」の中には入らないという解釈です。ちなみに「役務」とは、「えきむ」と読んで、「サービス」という意味です。クーリングオフの対象に指定される商法は増加する可能性も
ところで、クーリングオフを定めている「特定商取引法」は、「訪問販売等に関する法律」を2000年(平成12年)11月に改正し、名称を変更して2001年(平成13年)6月に施行されたもので、比較的新しい法律です。この法律ができた背景には、当時盛んになり始めたインターネット通信販売における注文や社会問題になり始めた悪質な業務提供誘引販売取引(内職商法、モニター商法)に対して、消費者保護の立場から、規制を行う必要が出てきたということがあります。
ただ、一度結んだ契約を消費者の都合だけで一方的に取り消すことができるわけですから、対象となる契約の範囲については、ある程度限定していないと、業者にかなりの負担が生じ、社会に混乱を来してしまいます。
ですから、法律の施行当時に想定していない商法は、「クーリングオフ」の対象になっていません。もちろん、法律施行後に社会問題になっている商法が多く出現していますから、今後「クーリングオフ」の対象に指定される商法は増加する可能性があります。
プロバイダ契約解除の手順
「契約書」を受け取り、その内容が契約時の説明と違っていた場合、すぐにでも業者に連絡して、「聞いていた内容と違っていたので、解約します」と言いたいところです。しかし、百戦錬磨の業者は、「ちゃんとお話したとおりの契約内容になっているはずです」等と突っぱねて、いくら抗議しても後は水掛け論になってしまうかもかもしれません。
契約時のやり取りを思い出し、解約理由を整理する
そうならないためにも、先ず契約を解除したい理由を整理してみましょう。電話での勧誘によって、「商品(プロバイダ乗り換え)」の説明がなされていると思いますが、ボイスレコーダー等で録音している消費者は皆無だと思いますので、業者のやり取りを思い出す限り全部、メモに書き出してみましょう。契約時の説明内容と契約書の内容は一致しているか確認
その上で、書面として受け取った契約書と比較して、どこが違っているか、その違いは契約の重要な点か、契約書に記載された内容をあらかじめ聞いていれば自分は契約をしていたか等を整理します。なぜこのような作業をするのかというと、契約に「錯誤」があったかどうかを検討するためです。
錯誤(さくご)…思い違い、勘違いの意味。
契約における錯誤の意味を詳しく知りたい方はこちら(ページ下部へ)
説明不足や契約書との食い違いがあった場合は契約取り消し可能
もし、プロバイダの乗り換えについての契約書に、自分が考えていた内容との違いがあれば、まさにそれは錯誤ということになります。錯誤の内容が以下に該当する場合は解約の申し出可能
・思い違いの内容が契約の重要な部分に当たり、契約書に記載されていたとおりの説明を聞いていたら契約をしなかった場合
・業者の説明不足の場合
・消費者を惑わすような説明があった場合
・業者の説明不足の場合
・消費者を惑わすような説明があった場合
上記のいずれのケースでは消費者に「重大な過失」がないわけですから、契約の取消を申し出ることができるということになります。ですから、この点を整理した上で業者に契約の解除を申し入れてください。
少しでも納得のいかないことがあったら、しっかり状況を整理して把握することが大事にゃ!
解約の求めに応じない場合は国民生活センターへの相談
消費者個人が、業者に解約の申し入れを行っても、なかなか聞き入れてもらえません。そこで、「国民生活センター」に相談することが問題解決の近道となります。まず、国民生活センターに連絡する前に、上記で説明した
・電話勧誘での詳細なやり取りを記したメモ
・送られた契約書
・業者へ「解約」の申し出をした際のやり取りや電話に出た担当者等を記したメモ
の3点を準備します。・送られた契約書
・業者へ「解約」の申し出をした際のやり取りや電話に出た担当者等を記したメモ
トラブル内容を伝えた後はセンターが業者と対応
契約内容等を詳しく電話で説明することは難しいと思いますので、できれば一度国民生活センターに電話を入れて、上記3つの資料をFAXで送り、しばらく時間をおいて電話をします。こうすることで、担当者に契約の細部まで伝えることができます。詳細を伝えたら、担当者の指示に従います。
多くの場合、国民生活センターが直接業者に事情を聞くことになりますから、自分から業者に電話をしたり、業者から電話があっても対応したりする必要はありません。
トラブル回避のポイントは?
プロバイダの乗り換えトラブルに巻き込まれないポイントは、次の3点です。
1.電話で勧誘されても即答しない
2.契約先を確認する
3.安易に遠隔操作に応じない
美味しい話と思ってもスグに飛びつかないぞ!ちゃんと考えて決めるんだ!
まとめ:説明を十分に聞き、よく考えた上で結論を出す
パソコンの普及に伴い、多くの人がプロバイダ契約をしています。
パソコンを使っているほとんどの人が、既にどこかのプロバイダと契約している現状では、新たに顧客を開拓していくことは難しく、自ずと既に他社と契約している消費者に「乗り換え」を勧める商法になってしまいます。
その結果、業者間の顧客獲得競争が熾烈になっているのが現状です。業者が消費者の立場を配慮して、きちんと説明した上で納得した消費者に契約してもらうような手法を執れば何も問題ありません。
しかし、業者の中には、十分に説明しないまま契約を結び、後でトラブルに発展するケースも出ています。文章の中で示した「トラブル回避のポイント」を是非参考して、トラブルに巻き込まれないように十分注意してください。
法律コラム:売買契約における「錯誤」の意味
ここからは、法律的なお話になって少々難しくなりますが、できるだけわかりやすく説明します。民法では、「法律行為」を3つに分類(契約、単独行為、共同行為)しています。なお「法律行為」とは、「『ある効果を発生させたい』という自分の意思(気持ち)を表示して行い、法律がその実現を助けてくれる行為」のことです。
例えば、Aさんが黒のボールペンを買いたいと思って、文房具店に行ったとします。そして、レジに行って「黒のボールペンを1本ください」と注文します。この時点で、黒のボールペンの購入(ある効果を発生させたい)を実現するために、Aさんは「黒のボールペンを買いたい」という気持ち(意思)を表示したことになります。それに対して、文房具店の店員が黒のボールペンをAさんに示します。この時点で「法律行為」の一つである「契約」が成立し(この場合は「売買契約」)、Aさん(買主)は代金を支払う義務を、文房具店(売主)は商品を引き渡す義務が生じます。このそれぞれの義務を民法が規定することで、「売買契約」の実現を助けてくれるのです。
ただここで、Aさんが黒のボールペンというべきところを間違って、「赤のボールペン」と言ってしまい、Aさん自身も気付かずにお金を払い、家に帰って間違いに気付いたとします。このことを法律用語で「錯誤」と言います。日常の言葉で言い換えれば、「思い違い」です。
民法第95条では、「意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする」とあります。つまり、契約の相手方に自分の気持ちを示す際に、契約を形作る大事なポイント(この場合「黒のボールペン」)に思い違いがあった場合には、取り消すことができるという意味です。しかし第95条では続けて「ただし、表意者に重大な過失があったときには、表意者は自ら無効を主張することができない」とあります。つまり、思い違いをした人に重大な過失があった時には、自分から「取り消してください」とは言えないことになります。
ですから、Aさんが「黒」と言うべきところを重大な過失によって「赤」と言ってしまった場合には、赤のボールペンの売買契約の取消をAさんが主張することはできません。ただ、Aさんからは言えませんが、文房具店から契約の取消を申し出ることはできます。
一方、黒のボールペンのケースにまぎれて入っていた赤のボールペンをAさんが黒だと思い、そのままレジに持って行って買った場合には、売買契約の重要な部分に思い違いがあり、しかもAさんに重大な過失がない(この場合は「文房具店」のミス)のですから、Aさんから売買契約の取り消しができることになります。
例えば、Aさんが黒のボールペンを買いたいと思って、文房具店に行ったとします。そして、レジに行って「黒のボールペンを1本ください」と注文します。この時点で、黒のボールペンの購入(ある効果を発生させたい)を実現するために、Aさんは「黒のボールペンを買いたい」という気持ち(意思)を表示したことになります。それに対して、文房具店の店員が黒のボールペンをAさんに示します。この時点で「法律行為」の一つである「契約」が成立し(この場合は「売買契約」)、Aさん(買主)は代金を支払う義務を、文房具店(売主)は商品を引き渡す義務が生じます。このそれぞれの義務を民法が規定することで、「売買契約」の実現を助けてくれるのです。
ただここで、Aさんが黒のボールペンというべきところを間違って、「赤のボールペン」と言ってしまい、Aさん自身も気付かずにお金を払い、家に帰って間違いに気付いたとします。このことを法律用語で「錯誤」と言います。日常の言葉で言い換えれば、「思い違い」です。
民法第95条では、「意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする」とあります。つまり、契約の相手方に自分の気持ちを示す際に、契約を形作る大事なポイント(この場合「黒のボールペン」)に思い違いがあった場合には、取り消すことができるという意味です。しかし第95条では続けて「ただし、表意者に重大な過失があったときには、表意者は自ら無効を主張することができない」とあります。つまり、思い違いをした人に重大な過失があった時には、自分から「取り消してください」とは言えないことになります。
ですから、Aさんが「黒」と言うべきところを重大な過失によって「赤」と言ってしまった場合には、赤のボールペンの売買契約の取消をAさんが主張することはできません。ただ、Aさんからは言えませんが、文房具店から契約の取消を申し出ることはできます。
一方、黒のボールペンのケースにまぎれて入っていた赤のボールペンをAさんが黒だと思い、そのままレジに持って行って買った場合には、売買契約の重要な部分に思い違いがあり、しかもAさんに重大な過失がない(この場合は「文房具店」のミス)のですから、Aさんから売買契約の取り消しができることになります。