【行政書士が解説】親の家を売る方法と注意すべきトラブルリスク
[公開日]2017/03/18[更新日]2017/12/11在宅での介護が難しくなり老人ホームへ入居。そのまま、誰も住まなくなった親の家を放置。
愛着のある実家を売る手放すことへの抵抗感と他人名義の家を売却する手続きの煩雑さもあり、親の家を売るという行為に踏み切れない方も多いと思います。
しかし、空き家をそのまま放置していても、ほとんどメリットはありません。
この記事では、親名義の家を売る方法とトラブルを回避するための注意点を解説いたします。
今回は法律の専門家に、親名義の物件を上手に売る方法と注意点を教えてもらったにゃ!
ケース別:親名義の家を売るために必要な手順と発生する税金
親名義の家を売る手順と税金について、
・親が健康に生活している場合
・親が認知症や寝たきり等で判断能力がない場合
・親がすでに亡くなっている場合
3つのケースに分けて考えてみましょう。
自分に当てはまるケースを参考に対応方法を考えるにゃ。
ケース1:親が健康に生活している場合
認知症などの症状がなく、健康に生活しているのであれば「事理弁識能力」があるわけですから、「家の引き渡しの問題」はクリアできるはずです。
事理弁識能力
相手方と契約を結ぶ際に、その契約がどのような結果を招き、自分にどのような権利や義務が生じるか判断できる能力のこと。
「責任能力」と同じような意味に取られる場合が多いが、責任能力は自分の行った行動と起きた結果の因果関係を理解できる程度の能力の意味で、主に「刑事事件」に使われる。
「責任能力」と同じような意味に取られる場合が多いが、責任能力は自分の行った行動と起きた結果の因果関係を理解できる程度の能力の意味で、主に「刑事事件」に使われる。
親の了承を得たら「売買契約」を結びます。ただ、この契約を結んだ時点で、家の名義が親のままか、子どもに移っているかによって、状況が変わってきます。
家の名義が親のままで売買契約を結んだ場合
親の財産を他人に売ることになりますから、売り主(子ども)は、親の代理人という立場になります。この場合、問題となってくるのは所得税です。売却予定の家が、買った時よりも高く売れる場合には、売り主の「利益」と見なされるため、「確定申告」を行い、所得税、住民税を納める必要があります。
もちろん、買った時よりも安く売れるのであれば、課税されませんが、所得税の還付が受けられる場合もありますので、その際にも「確定申告」をする必要があります。
ただし、買った時よりも高く売れた場合でも、「譲渡所得」が300万円以下の場合には、課税されません。
譲渡所得=売却価格-(購入価格+取得費用+譲渡費用)
詳しくは、税務署や税理士に確認しましょう。
家の名義を親から子どもに変更して売却した場合
子どもに家の所有権が移った時点で「生前贈与」と見なされます。年間110万円を超えた金額を贈与された場合には「贈与税」が課税されます。現金だけではなく、家や土地等の不動産の名義が親から子どもへ変更された場合も、贈与となります。ただ、このような場合でも、「相続時精算課税制度」(詳しくは後述)を利用すれば、贈与税の負担を大幅に軽減できます。
従って、
・親名義のままで売却する
・一旦子どもの名義にして売却する
自分の場合、どちらのほうが得なのかを十分検討する必要があります。・一旦子どもの名義にして売却する
相続時精算課税制度
親から子どもへ財産(現金、不動産等)を生前贈与した際に、前もって贈与税20%として計算し、この贈与税を相続税の「仮払い」と見なす制度で、2,500万円の非課税枠がある。
例えば、親が子どもに3,000万円を贈与した場合、控除額(2,500万円)を超えた500万円に対して、20%の贈与税(100万円)がかかるが、100万円は相続税の「前払い」と見なすのである。実際の相続の際には、相続財産に贈与財産を加算して相続税を計算する。
その相続税の金額から、前もって納めた贈与税を引くことができる。残額が実際の納付税額であるが、前もって納めた税額の方が高ければ、余分に支払った分は戻ってくる。
例えば、親が子どもに3,000万円を贈与した場合、控除額(2,500万円)を超えた500万円に対して、20%の贈与税(100万円)がかかるが、100万円は相続税の「前払い」と見なすのである。実際の相続の際には、相続財産に贈与財産を加算して相続税を計算する。
その相続税の金額から、前もって納めた贈与税を引くことができる。残額が実際の納付税額であるが、前もって納めた税額の方が高ければ、余分に支払った分は戻ってくる。
ケース2:親が認知症や寝たきり等で判断能力がない場合
親が認知症や寝たきりで、自分名義の家の売却について判断能力がなければ、家の名義を親から子どもに変更する許可を得ることはできません。つまり、親名義のままで家を売却することになります。そうなった場合、先程の「ケース1」で説明した、子どもが親の代理人となって「売買契約」を結ぶパターンとなります。
法定相続人全員の同意を得ておくこと!
事理弁識能力のない親の財産を処分するわけですから、少なくとも法定相続人で全員の同意を得ておく必要があります。もし一部の相続人が知らなかった場合には、トラブルに発展する可能性が出てきます。
また、親の代わりに成年後見人を選定し、契約の一切を代行してもらう方法もあります。それでも、親の不動産の処分については、前もって法定相続人全員の了承を得ておく方がベターでしょう。
また、親の代わりに成年後見人を選定し、契約の一切を代行してもらう方法もあります。それでも、親の不動産の処分については、前もって法定相続人全員の了承を得ておく方がベターでしょう。
ケース3:親がすでに亡くなっている場合
親が既に亡くなっていて、名義が親のままだった場合には、相続人の話し合いによって処分を決めることになります。例えば、以下のような方法があります。
相続人の一人が親名義の家を相続し、その上で、買主と売買契約を結ぶ
この場合、基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えた分に、相続税がかかりますが、相続税の負担額は相続人が相続した財産の割合によって決まります。相続人全員の総意によって、親名義の家を売却し、その代金を相続人で分配する
ただし、売却額が相続税の基礎控除額を超えた場合は、相続税がかかります。状況に応じて、みんなで話しあって対応を決めた方が良さそうね。
子供でも他人!無断で親の家を売るべからず
子どもが親名義の家を売ることは、現実にあり得ることです。しかし、いくら法定相続人である子どもでも、親に無断で売れば問題が発生します。
他人名義の家を売るなら、必要なプロセスを踏もう
他人の物を売買する契約が社会には存在します。民法では、「他人物売買」として認められているのです(民法第560条)。しかも、この「他人物売買」は、以下2点の是非を問いません。
売り主が、売買契約した物が他人の物であることを 知っている/知らない
買い主が、売買契約した物が売り主のものではないことを 知っている/知らない
買い主が、売買契約した物が売り主のものではないことを 知っている/知らない
これは、売り主と買い主の間で成立した「売買契約」という「債権」を保護する考えから来ています。
そんなことが許されていて、勝手に売られてしまったらどうするの?
他人の物を売るなら、持ち主から買う・譲ってもらうことが大前提!
民法第560条では、としています。
つまり、「売買契約」を成立させるには、売り主は持ち主から買ったり譲ったりしてもらって、買い主に引き渡さなければなりません。
しかし、持ち主が引き渡しに応じない可能性もあります。その点も民法第562条では、
としています。
以上のことから、他人名義の家について、第三者と「売買契約」を結ぶことは可能です。しかし、あくまでも持ち主から売り主へ家を引き渡してもらうことが大前提になります。
結局、持ち主と売り主との間で家を引き渡す約束ができていないと、勝手に売ることはできないんだね!
あらゆる所有物は「物権」に守られている
民法には「物権」という分野があります。自分名義の車であれば自分に「所有権」があり、自由に人に貸したり、売ったりすることができます。この所有権は「物権」の一つです。
ここで、所有権にまつわるクイズにゃ!
Bさんが高級自転車を駅の駐輪場に停めていたら、盗まれてしまいました。一週間後、Bさんが街を歩いていたところ、見知らぬ人が自分の自転車に乗っているのを発見しました。
急いで追いかけて確認すると、間違いなく自分の自転車です。
Bさんは「この自転車は私のものだ」と主張して、その人から自転車を奪い返していいでしょうか?
急いで追いかけて確認すると、間違いなく自分の自転車です。
Bさんは「この自転車は私のものだ」と主張して、その人から自転車を奪い返していいでしょうか?
返してもらえるでしょう?だって自分の自転車なんだから…
ブブー!!
残念ながら取り返すのは難しいにゃ。
残念ながら取り返すのは難しいにゃ。
えー!自分のものなのに、なんで!?
この場合、ポイントになってくるのが「占有権」です。
例えば、Cさんが友人のDさんに1週間の約束で、車を貸したとします。この車の所有権はCさんが持っていることになりますが、借りている1週間の期間、車はDさんの支配下にあります。
このことを民法では、「Dさんに車の『占有権』がある」と規定しています。いくら「所有権」を持っている人でも、力尽くでその「占有権者」から取り返すことを法律では禁止されているのです。
これを専門用語で「自力救済の禁止」と言います。これほど強力な権利である「物権」ですから、いくら肉親であっても、他人の家を勝手に売ることは基本的に禁止されています。
自力救済の禁止
「自力救済」とは、私人が司法手続きに寄らないで自らの権利を実現する行為のことで、民法ではこの行為を禁止しています。
これにより、例えば「立ち退きをしない入居者に対し、管理人が自力で無理やり追い出す」というようなことが禁じられます。
もし「自力救済」を認めてしまうと、力を持つ人だけが勝手に自分の権利を主張し、力尽くで実行することになり、社会の秩序が大きく乱れてしまう恐れがあります。
法治国家である以上、私人の権利の実現は、司法手続きに則って行われることを原則とするものです。
これにより、例えば「立ち退きをしない入居者に対し、管理人が自力で無理やり追い出す」というようなことが禁じられます。
もし「自力救済」を認めてしまうと、力を持つ人だけが勝手に自分の権利を主張し、力尽くで実行することになり、社会の秩序が大きく乱れてしまう恐れがあります。
法治国家である以上、私人の権利の実現は、司法手続きに則って行われることを原則とするものです。
空き家でも固定資産税の負担あり!活用できなけば売却も
子どもがいない、あるいは近くに子どもが住んでいない場合に親が亡くなった時には、そのまま空き家として残ることもあります。さらに、
・解体するにしても費用がかかる
・更地にすることで土地の固定資産税額が上がる
空き家の処分にはこのような難しい問題が山積みですから、放置されてしまいがちです。・更地にすることで土地の固定資産税額が上がる
しかし、空き家であっても不動産であることには変わりません。毎年「固定資産税」が課税され、当然、子どもなどの相続人で負担することになります。
それならば放置せず、何かしらの処置をとったほうがメリットがあるといえます。
賃貸で活用するメリット・デメリット
空き家をそのままにしておくことはまったくの無駄ですから、賃貸として利用することを検討してもいいでしょう。メリット
家賃収入で固定資産税を補てんすることができます。
デメリット
・他人が住むことになりますから、きちんとした「契約書」を作っておかないと、立ち退き等でトラブルが発生する元にもなります。
・借りた人の使い方にもよりますが、家自体の傷みが激しくなり、将来売却する時に、価格が下がることにもなりかねません。
・家賃収入については、「確定申告」を行う必要があります。
・借りた人の使い方にもよりますが、家自体の傷みが激しくなり、将来売却する時に、価格が下がることにもなりかねません。
・家賃収入については、「確定申告」を行う必要があります。
固定資産税は補てんできるけど、面倒ごとが多そうだね。
空き家の処分は売却がおすすめ
賃貸によるデメリットを加味すると、相続人全員の総意の下、売却する方法が最も問題が少ないと言えます。もちろん、子どもたちにとっても家や土地に愛着があるかも知れません。しかし放置することで資産価値が下がり、いざ売りたい時には二束三文の値段ということにもなりかねません。
現在では、空き家についても「一括査定サイト」で取り扱われていますから、是非ご活用ください。
まとめ:空き家の活用ができない場合は売却の検討を
その背景には、子供が親の家を売却・解体等の処分を行なわず、そのままにしているということが挙げられます。
愛着がある家を人手に渡すことに抵抗がありますし、解体するにしても費用が重くのしかかってくるからでしょう。
総務省の発表によると、
平成25年の日本全国の総住宅数は、約6,063万戸。
5年前に比べて約305万戸増加しています。
そのうち、820万戸が空き家。
そして5年前に比べて63万戸も増えているのです。
5年前に比べて約305万戸増加しています。
そのうち、820万戸が空き家。
そして5年前に比べて63万戸も増えているのです。
空き家率は13.5%ということになり、実に7戸に1戸が空き家という計算です。
空き家対策を行っている行政や自治体も出始めていますが、個人の家ということもあり、
・「所有権」の問題
・個人の家の解体を税金で行うことの抵抗感
これらが高いハードルになり、なかなか進んでいないのが現状です。・個人の家の解体を税金で行うことの抵抗感
やはり、所有権者やその子ども等の手によって、適正に売却されることが重要です。
その決断により、自分にとってのメリットだけでなく、地域住民の理解を得ることができ、地域の貢献にも繋がっていきます。