【行政書士が解説】不動産売買契約の解約方法と6つの契約解除要件

[公開日]2017/05/22[更新日]2017/12/11

売買契約 解除

「一度は納得して結んだ不動産の契約を、やっぱりなかったことにしたい」

不動産の「売買契約」の特徴は、その金額の大きさです。

一度結んだ「売買契約」を解除する場合、想像以上の煩雑な手続き、多額な負担を負わなければなりません。

今回は、不動産の「売買契約」を解除する方法とその6つの要件の注意点を解説します。


この記事は、現役の行政書士の方に執筆していただき、引越しの神様チームで編集しております。


買い手が不動産の売買契約を解除する方法


売買契約 解除


買い手側が不動産の契約解除を行う場合、手付金を放棄するなどリスクや注意点が存在します。

不動産契約の手付金は想像以上に巨額。なるべくなら解約しないで済むようにしたいところにゃ。


買い手側から契約解除する方法

買い手が売り手に「契約」の解除を申し入れる場合には、通常口頭ではなく、書面で行います。

特に、不動産の売買の場合、代金も高額で、登記等の権利・義務も関係してきますから、できれば「内容証明郵便」で行う方がトラブルが少ないでしょう。

具体的な内容で契約解除を通告する
「『売買契約第○条』の違反により、本解約を解除する」旨の内容で、具体的に相手方へ通告します。

通常は「違反条項」について、ある程度の期限を切り、是正や履行を促す等の通知を送り、それでも是正・履行されない場合には、契約を解除する場合がほとんどです。

不動産の売買契約にクーリングオフが適用されない理由
買い手の「契約解除」と聞くと、「クーリングオフ」を思い浮かべる人も多いかもしれません。

しかし、「クーリングオフ」ができるのは、訪問販売、電話勧誘販売、マルチ商法等で、「特定商取引法」で規定されている取引に限られます。

従って、不動産の売買については、「クーリングオフ」の適用外となっています。

買い手側から契約解除を行う最大のデメリットは「手付金の放棄」

買い手側から契約解除をした場合には、契約の「履行」の着手前であれば、「手付金」の返還請求ができません。

つまり「手付金」を放棄することになります。

手付金を失うことは損失大!
マンションの「賃貸借契約」であれば、「手付金」は数万円程度ですが、不動産の「売買契約」ともなれば、先程も説明したように、販売価格の5~20%が一般的です。

仮に、5,000万円の土地の「売買契約」だった場合、「250万円~1,000万円」が手付金となります。この金額を放棄するということは、かなりのリスクです。

違約金や損害賠償仲介手数料の負担が生じるケース
契約の「履行」の着手後に、買い手側から契約解除を申し入れた場合には、当然違約金や損害賠償を負担しなければなりません。

また、仲介業者を通じて「売買契約」を結んだ場合には、契約が不成立でも「仲介手数料」を負担することになります。

契約解除を避けるために買い手側が注意すべき点

買い手側の注意すべき点としては、購入物件について入念に調査を行う必要があります。

「契約書」を作り、「手付金」を支払ってしまうと、その「手付金」が保証金の役目になってしまいます。その段階では、買い手側から「契約解除」を申し入れることには、躊躇せざるをえません。

そのため、事前に納得のいくまで物件のリサーチを行った上で、契約を行うことが最も重要なことです。

売り手が不動産の売買契約を解除する方法とトラブル回避の方法


売買契約 解除

買い手も不動産売買の契約解除ではリスクを負うように、売り手も費用負担が生じます。

そんなに大きい金額を払わないといけなくなるのって正直もったいないわ・・・。


売り手側から契約解除する方法:費用負担がネック

売り手側が買い手に「契約」の解除を申し入れる場合にも、同様に内容証明郵便で行うことになります。

ただ、買い手側からの「契約解除」の申し入れと大きく違うのは、費用負担の問題です。

買い手の物件の経費を負担するケース
例えば、家を購入する契約をした場合、売り手が買い手に「契約解除」の申し入れを行ったとします。

その時点で、買い手が現在住んでいる賃貸マンションの契約を既に解約していたとします。そのようなケースでは、売り手は買い手が新たに住む物件の経費を負担しなければなりません。

履行着手前では手付金の倍額で解除可能
ただ、契約の「履行」に着手する前であれば、売り主は買い主に手付金の倍額を渡すことで、解除することができます。その場合は、他の経費を負担する必要はありません。

売り手側から契約解除するデメリット

売り手側から契約解除をした場合には、契約の「履行」の着手前であれば、「手付金」の倍額を買い手側に渡さなければなりません

5,000万円の土地の「売買契約」だった場合、「500万円~2,000万円」を買い手側に渡すことになります。

よほどの好条件の買い手が新たに現れない限りメリットなし
仮に、同じ土地を「7,000万円」で買いたいという人が現れた場合には、先の契約を解約することにメリットがあるかもしれません。

しかし、現実的にはなかなかそう上手くは行きません。この「手付解除」に関しては、売り手側により大きなデメリットがあると言えます。

履行の着手後は売り手も同様に負担大
契約の「履行」の着手後に、売り手側から契約解除を申し入れた場合も、買い手側からの申入れと同じように、違約金や損害賠償を負担しなければなりません。

そして、仲介業者を通じて「売買契約」を結んでいた場合は、「仲介手数料」を負担しなければなりません。

売り手側が契約解除を防ぐコツは「納得のいく価格で得ること」

買い手側の注意点としては、買い手側との条件を十分練ることが必要です。

特に、売り手の場合は一旦契約をしてしまうと、「手付金」の倍額を支払うことになります。そのため、契約の条項等、条件面での精査を十分に行うべきです。

多くの買い手に接するチャンスを持つことが納得して売却するコツ
契約を結んだ後で、もっと高額で買いたいと言う人が現れる可能性もあります。

そのような事態で後悔しないためにも、「一括査定サイト」等を利用して、より多くの人の目にさらし、より良い条件で取引するようにしましょう。

不動産の売買契約解除の6つの要件


売買契約 解除

不動産の売買では、「契約書」を作成することが通例です。売買価格が大きい上に、仮に契約解除になった場合、及ぼす影響が他の売買契約に比べて大きいからです。

しかし、実際の取引では何らかの理由によって、一度結んだ契約であっても解除せざるを得ない場合が出てきます。

この記事では「契約解除」の要件を、

・手付解除
・危険負担による契約解除
・違反による契約解除
・瑕疵担保責任による契約解除
・特約による契約解除
・合意による契約解除


の6つに分けて説明します。

1つ1つの要件の内容を踏まえて行動することがポイントにゃ!


要件1:「手付解除」は契約の履行の着手前


不動産程の大きな取引になると、通常契約を結ぶ際に、買い主が売り主に「手付金」を支払うことになります。金額は特に決まっていませんが、一般的に販売価格の5~10%が相場です。

契約当事者で話し合って手付金の金額を決め、「契約書」に記載します。

手付金の3つの種類
解約手付:売買契約を解除する担保
証約手付:契約を結んだことを証明する
違約手付:契約に違反があった際に没収できる

不動産の売買契約で、特に「手付金」の種類について取り決めをしていない場合には、「解約手付」ということになります。

契約の相手方が、契約の「履行」に着手する前であれば、

・売り主は買い主に「手付金」の倍額を渡すことで、
・買い主は「手付金」を放棄することで、


契約を解除することができます。

この場合、解除の理由は何でも構いませんが、必ず「契約の『履行』に着手する前」でなければいけません。
 
契約の「履行」とは「契約の実行」
「履行」というのは、「実行」と言い換えることができます。それでは「履行(実行)に着手」とは、どのような状態を言うのでしょうか?

具体的な例でいうと、下記の状況が当てはまります。

・買い主の場合は「売買代金の引換えによって行われた物件の引き渡し、あるいは内金の支払い等」
・売り主の場合は「所有権移転の仮登記申請、土地の分筆登記申請等」

つまり、外形的に「売買契約」自体が進行していると確認できる状態ということになります。

【参考情報】過去の判例では「契約の履行」は下記のように定義されています。

「債務の内容たる給付の実行に着手すること、即ち客観的に外部から認識し得るような形で履行行為の一部をなし、または履行を提供するために欠くことのできない前提行為をした場合」(昭和40年11月24日最高裁)

要件2:「危険負担による契約解除」は損害賠償の請求できない


「危険負担」というのは、双務契約(契約の両当事者に義務が生じる契約形態)において、一方の債務がその債務者の責任ではなく消滅した場合には、他方の債務も消滅してしまうということです。

一方の債務が、その債務者の責任以外の原因で消滅したケース
例えば、AさんがBさんに高級なバッグを5万円で売る約束をしたとします。

いよいよ明日、AさんはBさんにバッグ引き渡そうと思っていたところ、車上荒らしに遭い、バッグが盗まれてしまいました。Aさんは車に鍵をかけていたので、過失はありません。

これによって、Aさんの債務(Bさんにバッグを引き渡す義務)が消滅します。

Aさんの引き渡し債務が消滅したのに、Bさんの代金支払い債務が消えないと考えた場合、Aさんの債務消滅の「危険」を、引き渡しを要求する権利(債権)を持つBさんが負担することになります。

これは、「不可能になった債務(バッグの引き渡し義務)に関する債権者(この場合Bさん)が害を被る」ということです。

つまり、売買の目的物について、持ち主の過失が原因ではなく引き渡しが不可能となった場合、引き渡しを要求する側が「諦める」という理屈と言えます
たしかに、取引するものがなくなったのなら諦めないといけないわね。


天災によるトラブルは諦めざるをえない
これを「不動産の売買契約」に当てはめると、以下のようになります。

(1)売り主に過失がない「天災(台風、洪水、地震等)」によって、販売する予定の不動産が売却できないほど壊れてしまった
(2)売り主は無条件で契約を解除できる
(3)不動産が売れなくなったことに売り主に責任はない
(4)買い主は損害賠償の請求もできない

要件3:「違反による契約解除」は違約金が発生しかねない


不動産売買では、原則的に「契約書」を作成することになります。

しかし、「契約書で、代金の支払い後1ヶ月以内に物件を引き渡すと規定していたのに、売り主が守ってくれない」

このようなケースでは、買い主は以下のように対応すべきです。

引渡しに応じない場合の対応策
買い主はある程度の期間を定めて、「○月○日までに引き渡しをしない場合は、契約を解除する」旨の通知を行います。

それでも実行してくれない時には、契約を解除が可能です。

上記の対応策のように、両当事者で決めた契約内容に違反した場合には、契約解除が認められるのです。

この際、契約違反した相手方に、違約金を請求することができます。

要件4:「瑕疵担保責任による契約解除」は無条件で契約解除可能


不動産に瑕疵(かし)、つまり重大な欠陥があった場合、「その瑕疵によって契約の目的が果たせない」という時には、買い主は無条件で契約を解除できます。

また、買い主は売り主に対して、損害賠償を請求することができます。

要件5:「特約による契約解除」は契約書の内容に従う


「契約書」の中の「特約」を設けることがあります。

「もし○○の事態が発生した場合には、契約を解除できる」等が、それに当たります。

例えば、土地の売買において、買い主が「住宅ローン」を受けることができない場合には、解除する旨の「特約」を設けることが一般的です。


要件6:「合意による契約解除」は話し合いによる解約


「契約書」に記載した以外の事態が発生して、「売買契約」の継続が不可能となる場合も想定されます。

このような時には、契約の両当事者の話し合いで、契約を解除できます。損害賠償についても、両当事者で話し合いを行い、決定することになります。

民法上の規定は「売買契約解除=原状回復」


売買契約 解除

前述したように、契約解除は6つのパターンに分類することができます。

民法では、解除された契約はさかのぼって解消されるため、「原状回復義務」が生じると規定しています。

つまり、「最初から何もなかった状態にする義務」が生じるということです。これは、契約の両当事者にあります。

2者間の契約での原状回復義務の例

例えば、AさんがBさんに宅地用の土地を売る「売買契約」を結んだとします。

代金の支払いも済んで、土地を引き渡されたBさんが、マンションを建てるために「基礎工事」に取り掛かった時、「契約」を継続しがたい事態が発生して、両当事者の合意の下、「売買契約」を解除することになりました。

ここで、AさんとBさんの両方に「原状回復義務」が生じます。AさんはBさんに、受け取った販売代金を返還する義務があります。

そして、Bさんは「基礎工事」を直ちに中止して、契約前の更地に戻し、Aさんに引き渡さなければなりません。

第三者が絡むと損害賠償義務が生じることも

もし、建設予定のマンションを借りる予定のCさんが、Bさんと「賃貸借契約」を結んでいた場合、どうなるのでしょうか?

民法第545条では、契約解除の場合、両当事者に「原状回復義務」はあるが、第三者の権利を害するものではない、と規定しています。

「第三者の権利を害するものではない」という規定の意味
Cさんはまさにこの「第三者」に当たります。

そうなると、Cさんが建設予定のマンションを借りたいという権利は害されないので、AさんBさんが結んだ「売買契約」の解除から生じる被害から守られるのです。

具体的には、AさんとBさんが共同で、Cさんに「損害賠償」を支払う等の措置が必要となります

契約解除をするってことは誰かにしわ寄せが生じるから、その負担をちゃんとカバーしないといけないんだね。



まとめ:あまりにも契約リスクが多い場合は契約解除の決断を


売買契約 解除

家や土地等の不動産の売買は、契約書そのものを見ることも初めてなら、手付金の授受等の契約の流れについて、よく理解できない人も多いと思います。

金額の大きさから、おのずと契約にも慎重になり、一旦結んだ「売買契約」を解除することは少ないケースかもしれません。

しかし、逆に売買物件が大きいため、このまま契約を続けていくリスクが大きいとして、「契約解除」を決断する場合もあります。

特に中古の住宅の売買については、「瑕疵担保責任」等の問題がありますので、法的な知識と民法等の法令に則った「契約書」の作成や手順が重要となってきます。