【行政書士が警告】共有持分の売却時は要注意!共同所有のトラブルリスク

[公開日]2017/05/22[更新日]2017/12/11

共有 持分 売却

共有名義にしている不動産の持分の売却は、慎重に手続きを進めないとトラブルになりかねません。

共有名義の不動産の売却には、名義人全員の同意が必要不可欠です

この記事では、共有持分の売却において気をつけるべきポイントと具体的な対応策について解説いたします。


この記事は、現役の行政書士の方に執筆していただき、引越しの神様チームで編集しております。


不動産の「共有持分」の持つ意味と注意点


共有 持分 売却

不動産を共有名義にする例としては、相続の場合に多く見られます。

現金や預貯金は簡単に分けられるため、共同所有することはあり得ません。

しかし、不動産についてはなかなか処分が決まらない際には、「とりあえず共有名義で…」となりがちです。

共有名義の不動産の持分は登記簿の権利部の項目で確認可能

マンションを購入した場合、夫婦等で「共同名義」にすることがありますが、「共同名義」とは一つの物を複数人で所有するという考え方です。

それぞれの名義人の所有する割合のことを「持ち分」と言いますが、その割合はマンションの「登記簿」に記載されています。

具体的には、「登記簿」の「権利部」という項目に、

「権利者」として「田中一郎 持分2分の1、田中花子 持分2分の1」と内容が確認できるでしょう。

持分の意味合いの注意点
但し、この「2分の1」というのは、マンションの面積の半分、2分の1ずつをそれぞれが持っているという意味ではなく、「マンションの物件全体」の「権利」を2分の1ずつ所有しているという意味です。

民法で規定されいてる共有の3つの決まりと注意点

この「権利の『持ち分』」を理解する上で、民法が定める「共有」の考え方を理解しておく必要があります。

共有とは、共同の所有を意味します。

さらに所有とは、そのものの「所有権」を持っていることと、民法上解釈されます。この所有権ですが、具体的な中身は物の使用、収益、処分です。

物の使用、収益、処分の具体例
例えば、Aさんがマンションの所有権を持っているとします。Aさんはそのマンションに住むことで「使用」ができます。

そして、そのマンションを誰かに貸すことで「収益」を上げることも可能です。また、マンションを人に売って「処分」することもできます。

ただ民法では、共有するものについて、

・保存行為
・利用・改良行為
・変更


上記に関する3つの決まりがあるので、マンションや一軒家の例を交えつつ確認しておきましょう。

保存行為
マンションの壁紙が古くなっているので新しくする等、現状を維持することが、保存行為です。

共有者(共有物について持ち分を持っている人)は、それぞれ単独で、保存行為ができるとしています(民法第252条但し書き)。

つまり持ち分の大小にかかわらず独自の判断で、しかも他の名義人の同意なしで保存行為ができるということです。
モノの状態をメンテナンスして現状をキープすることは、単独でできるってことが「保存の行為」のポイントだにゃ。


利用・改良行為
マンションの中のバスルームをリフォームする等の改良行為をしたい場合には、持ち分の過半数によって決めなければなりません(民法第252条本文)。

AさんとBさんがマンションを共有していた場合、持ち分がそれぞれ2分の1ずつだった時にはどちらか片方が反対すれば過半数に達しませんので、リフォームはできないのです。

このケースでは、2人ともリフォームすることに同意する必要があります。

持分の割合が過半数を超えている場合は単独の判断でリフォーム可能
一方、Aさんの持ち分が3分の2、Bさんの持ち分が3分の1だった場合、Aさんの賛成だけでリフォームできることになります。

変更
共有物を全く違う物にする場合が変更です。一軒家であれば、取り壊しが変更に当たります。

この場合、共有者全員の同意が必要です(民法第251条)。

Cさん、Dさん、Eさんが一軒家を共有していた場合、その持ち分に関係なく、全員が賛成しないと取り壊しができないことになります。
共有している物件を「変更」するときには一人でも反対したらできないんだね!


契約書には同意必須!土地・マンション・一軒家…不動産の共有持分を売却する方法


共有 持分 売却

共有持分の不動産を売却する際には、共同名義人全員が必須です。それは、契約が成立した後の移転登記が行うためには共同名義人全ての署名・捺印が必要になるからに他なりません。

土地・マンション・一軒家:共同名義の不動産共通の売却の手順

共同名義の不動産を売却する場合には、その物件の共同名義人全員の同意が必要です。

不動産ほどの大きな売買であれば、「売買契約書」を作成します。その際に、共同名義人全員の署名・捺印が必要になってきます。
 
売却後は、その不動産の「登記簿謄本」と「売買契約書」を添えて、法務局で移転登記をしなければなりません。

もし、一人でも共同名義人の署名・捺印がないということになった場合は、手続きを受け付けてくれません。

土地の共有持分売却の秘策「分筆」

土地を売却する場合、どうしても共同名義人全員の同意を得ることができない時には、ある「秘策」があります。

それは「分筆」という方法です。分筆とは、一つの土地をいくつかに分割することです。

分筆を行うと他の共同名義人の同意なく売却できる
ある土地をAさんとBさんが持ち分2分の1ずつで所有していた場合を例として考えます。

分筆とは、この土地を半分(面積の2分の1)に分けて2つにして、それぞれをAさんとBさんの所有にする方法です。

こうすることで、それぞれの土地はAさん、Bさん単独の土地になります。そのため、売却は相手の同意を必要とせず、自分の意思だけできるのです。

共有持分の土地を分筆する際の費用と手順

ただこの「分筆」には、手間とお金がかかります。

土地家屋調査士へ依頼
まず、分筆したい土地の正確な面積を算定する必要がありますから、土地家屋調査士という専門家に依頼しなければなりません。

この報酬だけで、50万円前後かかります。

分筆した土地の変更登記も依頼
また、分筆した土地の変更登記を法務局で行わなければなりませんが、その報酬も土地家屋調査士に依頼することになり、5万円程度かかります。

この時点では、分筆した2つの土地は、どちらも共同名義の土地になっています。

所有権移転登記を司法書士へ依頼
分筆した土地をお互いの持ち分として、土地をAさん、Bさん単独の土地というように登記しなければなりません。

この登記は司法書士に依頼することになりますが、この報酬5万円程度かかります。

登録免許税は「土地の価格×0.4%」の納付が必要
なお、この「所有権移転登記」の際には、「登録免許税」を法務局に納めなければなりません。その額は、「土地の価格×0.4%」です。

このように、分筆には多くの手間と費用がかかります。

分筆後の土地を所有する際のトラブルに注意

土地の分筆を行ってきれいに半分に分けたとしても、隣接する土地や建物、道路の状況等によって、全く同じ価値になるとは限りません。

当然、いくらかの差が出てきます。

そうなってくると、すんなり「こちらがAの土地で、向こうがBの土地」と決まらず、紛糾する可能性もあります。

いずれにしても、共有名義の土地の売却には、様々な問題をはらんでいるのです。
確かに土地を平等に分けたとしても、その中の場所によって価値が違ってきそうね…。


マンションの売却には共同名義人全員の同意が必要不可欠

マンションを売却する場合、共同名義人全員の同意が不可欠です。土地の「分筆」のような、秘策はありません。

例えば、AさんとBさんの共同名義のマンションがあって、AさんがBさんの同意を得ずに、勝手にCさんに売却した場合でも、売買契約自体は成立します。

当事者の合意さえあれば契約は成立するが…
民法では、契約は当事者の合意によって成立するためです。つまり、Aさんの「マンションを売ります」と申し出に対して、Cさんが「買います」と応えた時点で成立です。

仮に全員の共同名義人の同意が得られず、「売買契約書」に一部の共同名義人の署名・捺印しなくても、法律的に売買契約は成立します(但し、同意していない共同名義人から抗議が来ますが…)。

しかし、一方の名義人であるBさんの同意を得ていませんから、Cさんは名義変更の登記はできません。

売買契約は有効でも変更登記は無効ということになります。当然、CさんからAに、「売買契約」の無効を主張してくることになります。

共同名義人全員の同意がなければ、不動産の変更登記ができないということになりますので、現実的にマンション売却は不可能ということです。

一軒家特有の手順

共同名義の一軒家を売却する場合は、どうでしょうか?こちらもマンションと同様に、共同名義人全員の同意がなければ、事実上売却は不可能です。

それでは、土地付きの一軒家の場合、家を解体して土地だけを売却することはできるのでしょうか?

家を解体するというのは、「共有と持ち分」の項目でご紹介した「➂変更(ページ上部へ)」になりますから、共同名義人全員の同意が必要です。

共同名義の一軒家はその処置には、全員の同意が必要ということです。

家(建物)が単独名義であれば単独での解体も選択肢
家が単独名義、土地が共同名義であれば、家を名義人意思で解体して、更地を分筆した上で、売却するという方法が考えられます。

共有名義の不動産を売却する際の権利者との対応注意点


共有 持分 売却

共同名義の不動産を売却する際に、注意すべきことがいくつかあります。

・一部の権利者に連絡がつかない
・権利者が死亡している


の2つのケースを用いて説明いたします。

一部の権利者に連絡がつかない場合はとにかく所在を探す

古い不動産にありがちなことですが、一部の所有者と連絡が取れない場合があります。

共同名義人全員が同意しないと売却できませんから、とにかく所在を探さねばなりません。住民票や戸籍謄本を取り寄せて、所在確認を行います。

どうしても所在がわからない場合には家庭裁判所に申し立て
そのような手段を取っても所在がわからない場合には、家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任を申し立てます。

選任された不在者財産管理人は、所在がわからない共同名義人に代わって、土地の売却に同意する権限があるのです。

権利者が死亡している場合は相続人に連絡をとる

共同名義人が既に亡くなっている場合はどうでしょうか?この場合は、住民票や戸籍謄本を取り寄せて、相続人に連絡を取る必要があります。

相続人全員の同意は、亡くなった共同名義人の同意と見なされますから、問題なく売却ができるということになります。

相続人がいない場合も「不在者財産管理人」の選任を申し立て
もし相続人がいない場合には、先程と同じく家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任を申し立てます。

選任された不在者財産管理人は、相続人を探したり、亡くなった人の債務(借金等)の有無を調査します。そして調査の結果、いずれもないとわかった時点で、亡くなった人の持ち分が他の共同名義人の持ち分になるという流れです。

共有名義権利者の主張と持ち分との関係性

共有と持ち分(ページ上部へ)」の項目でご説明したように、不動産を保存するか、利用・改良するか、変更するかによって、持ち分の割合が影響してきます。

持分の過半数がなければ不動産の改良(リフォーム)はできない
例えば、Aさん、Bさん、Cさんの3人が共同所有する家があり、持ち分がAさん(5分の3)、Bさん(5分の1)、Cさん(5分の1)だったとします。

家の中を改良しようとする時には、持ち分の過半数の同意が必要ですから、いくらBさんとCさんが賛成しても、Aさんの同意がなければ、できません。

人数で考えれば、「賛成2:反対1」で賛成の方が多いのですが、持ち分の関係上このような結果になります。

取り壊しは「変更」に当たるので全員の同意が必須
取り壊し等の変更をする場合には、BさんあるいはCさんのどちらかが反対すれば、できなくなります。
持分の割合によっては自由にできることもあるけど、基本的には他の名義人の同意をもらった方が無難だにゃ。


共有名義の不動産を同意なく売却することを避けるべき理由


共有 持分 売却


ここでは、共有名義の土地と家など「不動産の持ち分」を、他の共有者の同意なく売却することについて考えてみます。

土地の持ち分を単独で売却することは可能だが購入者にデメリット大

家の売却には「共有物を変更する場合、共有者全員の同意が必要」ですが、土地の売却は当てはまりません。

土地を売ることは変更には当たらないという考え方に基づくものです。

理論上は、土地の共有者が他の共有者の同意を必要とすることなく、自分の持ち分を売ることは可能です

共有持分の土地のままでは購入者に制約多い
ただ、その土地に家を建てたり、田畑に転換したりすることは変更に当たりますから、共有者全員の同意が必要です。

つまり、せっかく一人の共有者から土地を買っても、その後の利用については、かなり制約されるということです。

従って、共有の土地を持ち分だけ売ることは、売る側にメリットはあっても、買う側にはデメリットしかないということになります。

マンション・家の持ち分を売却する場合は同意が必須

共有名義のマンションや家は、共有者全員の同意がなければ売却できません。

つまり、自分の持ち分を自由に売却することはできません。ただ、自分の持ち分を他の共有者の名義に変更することは可能です。

共有者全員から持分を譲ってもらうと単独名義になる
例えば、AさんとBさんの共同名義であるマンションは、両者の同意がないと売却できません。

しかし、Bさんが自分の持ち分をAさんに全て譲り、全てAさんだけの所有物とすれば、Aさんの意思だけで売却できることになります。

権利を無視して売却された場合の対処方法

もし共同名義の不動産が、名義人全員の賛成なしに売却された場合は、どうなるのでしょうか?

共同名義の不動産の売買契約が成立しているのであれば、実際に賛成していない名義人は、「売買契約の無効」を主張しなければなりません。

特に、同意した覚えがないのに「売買契約書」が偽造されて、自分の署名・捺印がある場合には、刑法の「詐欺罪」が成立します。

その際には、専門の弁護士に相談してみましょう。

共有名義の不動産のベストな対処方法とは?

所有者全員の同意がなければ、原則的に共有名義の不動産は売却することができません。

どうしても一人の所有者が同意しない場合には、

「その反対者の持ち分を買い取ることで、自分の持ち分として、その上で売却する」

という裏技もないわけではありません。

全員の賛成を得ることでトラブルリスク回避
しかし、基本は所有者全員の権利を尊重し、全員賛成を得ることが大原則です。

後々のトラブルを回避する意味でも妥当な方法だと言えます。
どんなものであっても、みんなで同意したほうがあと腐れなさそうだね。


まとめ:共同所有を避けてトラブルを回避しよう


共有 持分 売却

もともと「共有名義」という制度は、大切な財産を共同で管理していくという考え方に基づくものです。

しかし、共同で所有・管理するために、自由に処分できないという面もありますし、のちのトラブルリスクになりかねません。

特に、不動産を共同所有で相続した場合、その共同名義人の誰かが亡くなった場合や所在が不明になった時には、手続きが煩雑です。

不動産については、できるだけ単独で所有した方が、後の処理、手続きが簡素化されます。

不動産の所有権を決める際には、後に起こり得る事態を想定して、慎重に決めたいものです。