【不動産屋が明かす】仲介手数料無料でも業者が儲かるからくり
[公開日]2017/08/03[更新日]2017/12/11
諸経費の中でも、不動産会社に支払う仲介手数料は意外に大きな額となります。
そこで気になるのは「仲介手数料無料!」などの不動産会社の広告です。
「タダより高いものはない」とも言いますから、実際に依頼するのは、ちょっと不安にもなりますよね。
そこで今回は「仲介手数料の基礎から無料のからくり」まで詳しく解説します。
目次
仲介手数料のからくりと無料の実態
まずは「売買」と「賃貸」の仲介手数料の仕組みから説明しましょう。
売買の仲介手数料は不動産会社への成功報酬
不動産会社に、不動産の購入の依頼をした場合に、不動産会社が物件を紹介して条件交渉をし売買契約を成立させることを「媒介業務」といいます。そして媒介業務に対する報酬を仲介手数料といいます。
仲介手数料の上限額は、宅地建物取引業法(通称「宅建業法」)で、下記の表の通り定められています。
不動産の売買価格 | 仲介手数料の上限 |
---|---|
200万円以下 | 売買価格の5%+消費税相当額 |
200万円超~400万円以下 | 売買価格の4%+消費税相当額 |
400万円超 | 売買価格の3%+消費税相当額 |
厳密に計算すると面倒なため簡易式での計算が一般的
ここで、ちょっとだけややこしいのは、例えば売買価格が500万円の仲介手数料の上限額は、500万円の3%=15万円ではないことです。500万円を
・200万円以下の部分
・400万以下の部分
・400万円を超える部分
の三つに分けて、それぞれの率をかけて計算することになっているところです。
つまり、
200万円(200万円以下の金額)×5%
+
200万円(200万円超~400万円以下の金額)×4%
+
100万円(400万円超の金額)×3%
=21万円
の仲介手数料となります。
400万円超の売買の仲介手数料は簡易式で計算
表の通りに計算するのは面倒なため、400万円を超える売買金額の仲介手数料の上限額は、(売買金額×3%+6万円)×消費税率
で、簡易的に計算するのが一般的です。
宅建業法上は仲介手数料は「自由」だが…
宅建業法で決められているのは、あくまで仲介手数料の上限額です。仲介手数料の具体的な金額は依頼者との協議事項となっています。
そのため、仲介手数料無料ということも可能なのです。
しかし、ほとんどの不動産会社は、上限額を社内規定額としているのが実態です。
賃貸の仲介手数料は「月額賃貸料の1ヵ月分以内」
賃貸の場合の仲介手数料も、宅建業法で「月額賃貸料の1ヵ月分以内」と定められています。これは貸主・借主から貰える金額の合計となっています。
無料でも仲介の不動産業者は損をしない
売買や賃貸の仲介手数料は、成功報酬です。仲介業者は契約を成立させるために、様々な調査や広告を経費をかけて実施しますし、なにより人件費をかけています。
仲介手数料を無料にしてしまっては、利益を出すことが出来ないはずです。
仲介業者は営利企業でボランティアではありません。
依頼者から仲介手数料を貰わなくても損をしない仕組みが無ければ、無料化はできません。
次章でその秘密をひとつひとつ明かしていくことにしましょう。
仲介手数料無料のからくり:不動産屋が損をしない理屈
その仕組みを解説します。
実はもともと仲介手数料が発生しないという場合
そもそも仲介手数料がかからない場合があります。仲介手数料がかからないケースとは、依頼した不動産会社が「売買や賃貸の契約の一方の当事者であった場合」です。
具体的な状況は下記の通りです。
・売却や賃貸を依頼した際に、買主や借主が不動産会社である
・購入や賃借を依頼した際に、不動産会社が該当する不動産の所有者であった
この2つのケースが「もともと仲介手数料が発生しないケース」です。
そもそも上記の2つのケースは「仲介に当たらない」ので仲介手数料がかかりません。
不動産売買を両手仲介しているケース
売買の場合は、「両手仲介」と「片手仲介」という概念があります。不動産会社は、売買の両方の当事者を自社で見つけた場合は、売主・買主の双方から仲介手数料をもらうことができます。
これを「両手仲介」といいます。
一方で、他の不動産会社に売買どちらかの契約先の紹介を受けた場合は、本来の依頼者からしか仲介手数料を貰えません。
これを「片手仲介」といいます。
両手仲介は片手仲介の二倍の手数料収入
「両手仲介」は単純に「片手仲介」の2倍の手数料がもらえます。そのため、多くの不動産会社は収益向上のため、「両手仲介」を目指します。
不動産会社の大手といわれる全国規模の会社ほど、人件費や店舗コストなどもかさむので、「両手仲介」を目指しているといえるでしょう。
仲介手数料無料は中小の不動産会社の営業戦略
多くの不動産会社は仲介手数料を上限まで請求します。その一方で、
・仲介手数料を値下げ
・あるいは無料化する
といったことを、他の不動産会社と差別化するための重要な戦略とする会社が少しずつ増えてきました。
両手仲介のメリットを依頼者へ還元
不動産会社が一件あたりの仲介手数料を「片手仲介」の場合の金額でよいと割り切ったとします。
その状況で両手仲介で成約できれば、依頼者に還元できる原資ができることになります。
値引きの原資を「片手仲介」と「両手仲介」の仲介手数料の差額で得ているのです。
仲介手数料『最大』無料が多い理由
そのため、売買の仲介手数料の値引きをうたう会社は、「仲介手数料『最大』無料」とする場合が多いのです。両手仲介で、一方の当事者が不動産会社だった場合は、不動産会社からは遠慮なく「片手仲介」分の手数料を貰えるため、依頼者の手数料は無料にすることができます。
両方とも個人の場合は、仲介手数料は半額として、合わせて「片手仲介」の手数料と同額にしています。
片手仲介の場合は残念ながら原資がないので、割引なしとなる場合が多いようです。
コスト削減の経営努力の賜物
本来多くの不動産会社が目指している「両手仲介」分の手数料の半分までを還元原資とするわけですから、痛みを伴わないわけではありません。
コスト削減の努力は必要となります。しかし、丸々その分を損している、というわけではないのです。
コスト削減の努力は必要となります。しかし、丸々その分を損している、というわけではないのです。
賃貸で貸主が仲介手数料を全額負担
賃貸の場合、貸主と借主の双方からもらえる仲介手数料は、合計で賃貸料の1ヵ月以内と宅建業法で定められています。しかし、契約で「どちらかが仲介手数料を全額負担をする特約を定める」ことが許されています。
仲介手数料の借主負担は「昔のなごり」
日本では、貸主は「大家さん」で借主は「店子」であって、借家は「貸してもらう」という文化が長く続いていました。以前は、人口増加という時代背景もあり、「賃貸借契約では仲介手数料は借主が全額払う」というのが商慣習であったといえるでしょう。
しかし、賃貸住宅情報誌やインターネットでの賃貸情報検索が容易になるにつれて変化が生じました。
借り主は
・築年数
・立地
・設備
・家賃
など、自分の好みに合わせて物件を選ぶようになりました。
貸主にとっては競争が激しくなっているのです。
人口減少や老齢化も進む中で、賃貸住宅は「借主が選ぶ」「借りてもらう」時代となっています。
貸主が仲介手数料を全額負担することも増加
そんな環境下で、仲介手数料無料化の波は、売買よりも賃貸市場で先に進んでいったといえます。現在の賃貸契約では、仲介手数料を貸し主が全額負担する契約が多くなっています。
この場合、借主は当然手数料を払う必要がありません。
仲介手数料無料の不動産屋でも損をしていないワケ
不動産会社は別に仲介手数料を借主にサービスしているわけではありません。
実際は貸主が負担しているだけなのですから。
実際は貸主が負担しているだけなのですから。
賃貸:フリーレント、敷金・礼金が不要のサービス
賃貸市場は、貸し手市場から借り手市場に変化してきています。そのため、貸主は他の物件との差別化を図るために、
・一定期間の家賃を無料にする「フリーレント」
・敷金や礼金を不要のサービス
・敷金や礼金を不要のサービス
といった特典を設けることがあります。
不動産会社によっては上記の特典をその通りに告知せず、仲介手数料無料と宣伝する場合もあります。
その代わりにフリーレント中の家賃を受取ったり、敷金や礼金の一部を受領するというケースです。
このような対応は本来は違法行為ですが、そういうことも会社によっては存在するのです。
仲介手数料分の費用を他のところで得ている場合
買主・借主に対して
買主・借主に、仲介手数料以外の名目で不動産会社が以下のような名目で費用を徴収する場合があります。・企画費用
・コンサルタント費用
・ローン紹介手数料など
・コンサルタント費用
・ローン紹介手数料など
本来は遠隔地の出張費用など前もって合意した特別な費用以外は、仲介手数料の他に不動産会社が報酬を請求することは禁じられています。
そのような請求をされないように、契約時に入念な確認が必要です。
売主・貸主に対して
売主・貸主に対しても、同様に様々な費用を請求することがありますが、本来は遠隔地の出張費用など前もって合意した特別な費用以外は、仲介手数料の他に不動産会社が報酬を請求することは禁じられています。
基本的に不動産会社には、仲介手数料以外の報酬は支払う必要は無いはずなのです。
賃貸の広告料は商慣習
ただし、賃貸においては、広告料といって仲介手数料以外に賃貸料の1ヵ月~2ヵ月分を貸主から不動産会社に支払う商慣習が一般化しているのが現実です。賃貸借の場合、
・様々な情報サイトなどへの掲載や内覧案内にコストがかかる割に仲介手数料が割安なこと、
・空き室が続くよりは広告料を払っても賃貸借が成立した方が良いこと
から、不動産会社へのインセンティブとして支払われています。
そのため不動産会社は借主から仲介手数料を貰わなくてもよい、ということが起こります。
会員制サービス等で年会費等の名目で料金を得ている場合
最近の業界では、インターネット上での中古マンション売買仲介WEBサービスの「カウル」が大々的に宣伝をし、注目を集めています。カウルが注目を集める理由
・AIやビッグデータを駆使した物件・価格情報の提供
・東京・神奈川の物件に限ってのインターネット上のみの営業スタイル
・仲介手数料最大無料の料金設定
・有料会員サービスなど
・東京・神奈川の物件に限ってのインターネット上のみの営業スタイル
・仲介手数料最大無料の料金設定
・有料会員サービスなど
カウルの仲介手数料最大無料のからくり
仲介手数料最大無料の仕組みは、基本的には前述の両手仲介時の依頼主還元です。ただし月額10万円(税抜き)の有料会員になれば、4ヵ月目以降は仲介手数料は無料となります。
不動産会社からもカウルのメリットは大きい
不動産会社側から見れば、「最小40万円の仲介手数料保証を頂ければ仲介手数料は無料にします」ということですね。毎月10万円の会費を貰ったうえで都心部の高額マンションの仕入れが保証されるわけですから、不動産会社にとってもメリットは大きいといえるでしょう。
「仲介手数料無料」は本当にお得なのか
仕組みを考えると、依頼者にとって本当に得なのかどうなのかを考えて見る必要がありそうですね。
本当にお得なケース
・売買や賃貸の契約の当事者の一方が不動産会社
・賃貸で貸主が全額負担
・賃貸で貸主が全額負担
純粋に仲介手数料を負担しなくて良いわけですから「本当にお得」と言ってよいのではないでしょうか。
ただし、売買や賃貸の契約の当事者の一方が不動産会社の場合は、利害が相反する契約相手が不動産のプロとなるわけで、直接条件交渉をしなくてはならず、信頼できるかどうかは若干不安になる場合も想定できます。
不動産会社が契約の当事者でも他の仲介業者への依頼可
そうした不動産会社が契約の一方の当事者の場合でも、両手仲介の原資を利用して仲介手数料を割り引いてくれる別の不動産会社に仲介を依頼することが可能です。このケースでは「仲介する会社は両手仲介となる」ので依頼者の仲介手数料は無料にすることができますね。
仲介の不動産会社に、条件交渉やアドバイスもしてもらうことができるので一番安心できそうです。
なお、両手仲介の原資を利用して仲介手数料を割り引いてくれる別の不動産会社に仲介を依頼する場合は、
・片手仲介
・両手仲介でも相手側が個人
といったケースでは割引が少なかったり、割引できなかったりすることがあります。
契約内容をよく確認して、どのような場合に割引があるのかしっかり確認して想定しておく必要があります。
仲介手数料無料でも損をしているケース
・仲介手数料無料と宣伝し、代わりにフリーレント中の家賃を受取ったり、敷金や礼金の一部を受領する
・企画費用、コンサルタント費用、ローン紹介手数料など仲介手数料以外の名目で不動産会社が費用を徴収する
・会員制サービス等で年会費等の名目で料金を得ている
・企画費用、コンサルタント費用、ローン紹介手数料など仲介手数料以外の名目で不動産会社が費用を徴収する
・会員制サービス等で年会費等の名目で料金を得ている
上記のケースは、「仲介手数料の割引や無料」と言いながら、他の名目で仲介手数料の一部もしくは全部を徴収されていることになりません。
聞こえのいい宣伝文句に釣られてはいけません。
絶対に避けるべき「仲介手数料無料」のパターン
契約書をよく読み、どういったサービスの対価で報酬が請求されているのかをしっかり確認しなくてはいけません。特に、
「仲介手数料無料と宣伝し、代わりにフリーレント中の家賃を受取ったり、敷金や礼金の一部を受領する」
ようなケースは貸主からの信頼をも裏切る行為ですから、そういった不動産会社とはお付き合いをしない方が良いでしょう。
仲介手数料を支払っても充実したサービスを受けられる方がいいケース
たとえば、カウルの有料会員サービスである・ファイナンシャルプランナーのコンサルティングサービス
・内覧代行サービスなど
・内覧代行サービスなど
は、一般の仲介手数料を支払う会社では無償のサービスであることが多いわけです。
その他の
・セミナーへの案内
・自社物件の優先案内
・ホームステージングの無料斡旋
・ホームインスペクション業者の紹介など
も一般の不動産会社は独自に趣向を凝らしてサービスを提供しています。
中小の仲介業者の長所
地元の中小の不動産会社であっても、地域に密着した情報の提供や、頻繁に面談を繰り返しきめ細かい応対が期待できる場合があります。
仲介手数料無料にこだわらず総額で考えよ
特に売買においては、金額も大きなものになります。
例えば5000万円の家を売買する場合は、仲介手数料も最大156万円+消費税となります。
無視できる金額ではありません。安いに越したことはなく、無料であればそれはありがたい話でしょう。
しかし、本末転倒してはいけません。5000万円に対して、手数料は消費税よりも小さい金額なのです。
納得できる価格の家を購入すること、あるいは納得できる金額で売却することが一番大事なことです。
そのためには、不動産会社と密に連絡を取り、信頼して相談ができることが大事です。
そうした関係を構築するために、「どういったサービスができるのか」「どういう報酬になるのか」をきちんと話し合い、不動産会社を選択しましょう。
「仲介手数料が無料であること」は大事ではあるが1つの項目にしかすぎないという冷静な視点で認識しておくことが、なによりも重要だといえるでしょう。
まとめ:仲介手数料無料は営業戦略の一つ
インターネット上の店舗を主体として店舗設備費や人件費を抑え、高額物件の多い都心部を営業エリアとすることで費用対効果をあげることと、ベースの利益目標を片手仲介に置くことで、実現させているところが多いものです。
彼らの無料の原資は基本的には同業者からの仲介手数料です。
「仲介手数料無料」を不動産会社を選ぶポイントのひとつである、ということを否定するつもりはありません。
ただ「唯一の選択肢ではない」ということを忘れずに、様々な不動産会社と会話をして、不動産会社を選択することが不動産の取引に成功するコツだといえます。