【行政書士が警告】原野商法は昔の詐欺ではない!二次被害が増加中

[公開日]2017/06/20[更新日]2017/12/11

原野商法

原野商法は今から40年以上前の詐欺的な悪徳商法です。

しかし、その二次被害は現在も増えています。


この「原野商法」は昔の詐欺事件ですが、最近になって当時購入された原野を「高い値段で買います」等といった新たな悪徳商法が登場しています。

今回は、昭和40~50年代に横行した「原野商法」と現在増加している二次被害の原因と対策も解説します。


この記事は、現役の行政書士の方に執筆していただき、引越しの神様チームで編集しております。


原野商法とは価値のない土地の詐欺的営業


原野商法

「原野(げんや)商法」とは、タダ同然の土地を巧みな宣伝文句によって、売りつける悪徳商法のことです。

「リゾート計画の土地を買いませんか?将来値上がりは確実です」

などと甘い言葉で誘い、一坪1円もしない土地(原野)を手数料名目で、相場の数千倍、数万倍で売りつけたのです。

なんで価値のない原野を買っちゃったんだろう?


原野商法の被害の最盛期は昭和40~50年代

原野商法は、日本が高度経済成長を遂げた昭和40年代から50年代にかけて特に問題になりました。

多くの場合、悪徳業者が北海道等のへき地の原野を紹介して、

「数年後にリゾート地の建設が計画されていて、将来確実に値上がりします」、
「これはまだ公にされていませんが、数年後に鉄道が通る予定なので、今のうち買っておけば必ず儲かります」

などと言葉巧みに宣伝して、購入を勧めるのです。

計画が実行されることもなく、転売もほぼ不可
しかし、実際に購入してみても、その土地にリゾート計画や鉄道が通ることもなく、購入金や契約金をそのまま業者に取られてしまったのです。

しかも、その土地を誰かに転売しようとしても、一坪1円程度ですから全く買手がつきません。

仮に運よく買い手がついたとしても、転売手数料や移転登記等でかなりのお金がかかることがわかり、転売を断念した人が多くいました。

日本列島改造論が浸透したのも原野商法の要因
原野商法が拡大してしまった要因として、当時の世相が関係しています。

田中角栄元首相が昭和47年に「日本列島改造論」を唱えて、同じタイトルの本を出版し、当時ベストセラーになりました。

この本の中で田中角栄は、日本全国を高速道路や鉄道でつなぎ、地方にいても仕事に困らないように、地域の格差をなくそうと訴えています。

それまで、このような日本の国土全体を改革するといった発想がなかったため、国民はその発想に驚き、官僚も競ってこの本を読んだといいます。

この結果、土地開発ブームとなり、土地の価格は高騰していったのです。

このような時代背景に乗じて、この「原野商法」は横行していったものと考えられます。

原野商法で騙された4つの理由

どの時代にも詐欺事件はありますが、多くの人は「なぜこんなウソに引っかかる人がいるのだろう」と思いますよね。

この原野商法も同じです。

原野商法には、だまされる理由が大きく4つあります。

  1. 土地神話が生まれた時代背景
  2. 紹介される土地が遠隔地
  3. 土地の情報収集ができない
  4. 虚栄心をくすぐる内容

「土地神話」が生まれた時代背景
まず何と言っても、昭和40年代から50年代の時代背景です。

昭和40年代から50年代は土地開発ブームで、「自分の土地を持っていれば景気に乗じて儲けることができるかもしれない」といった高揚感がありました。

そして、「土地は資産であり、値上がりするもの」という「土地神話」が、この当時に生まれて日本に根付いたことも騙された要因として考えられます。

そのため、悪徳業者の「この土地を買っておけば将来値上がりします」といった言葉を簡単に信じてしまったのです。

遠隔地のため現地を知らずに購入
原野商法では、自分が住んでいる場所から遠くにある土地を販売業者から勧められることが大半でした。

業者は、北海道等の山奥のへき地等の販売を持ちかけるのですが、購入を持ちかけられる人の多くは、その土地から遠く離れた土地に住んでいます。

したがって、購入者の多くは実際に現地へ行って確かめることができません。

消費者が自力で情報収集する難しさ
また、現在のようにインターネットがあるわけではありませんから、販売される土地の知識を取集する方法もありません。

業者の話と資料だけをもとに、売買契約を結ぶかどうかの判断するしかなかったのです。

ステータスを誇示したい虚栄心を刺激
昭和40年代〜バブル崩壊までは、家や土地等の不動産を持っているということは一つのステータスでした。

そのようなステータスを持ちたいという、当時の日本人が持っている「虚栄心」を利用した点も多くの消費者がだまされた要因です。

2010年以降の原野商法の新たな被害は「水源地」


原野商法

現在は、様々な情報が手に入り、日本人の間で「土地神話」も崩壊していますので、以前のような原野商法は滅多に見られません。

過去と同じように「土地開発」をうたい文句にした業者がいても、原野を買う人は少ないはずです。

ただ最近では、以前の「原野商法」とは形を少し変えて、新たな詐欺が登場しています。

それは、「水源地」への投資話です。

水資源の話題ってニュースで見たことあるわ!これも詐欺に利用されることがあるのね!


水源地の投資詐欺の手口

水源地の投資詐欺は、開発業者と名乗る人から連絡があり、

「水源地を○○で開発する予定であるが、そのためには資金が不足している。資金を提供してくれたら、元本を保証した上で年○%の配当金を支払う」

といったような儲け話で誘う手口の悪徳商法です。

水源地詐欺の内容
以前の原野商法と似通った面もありますが、大きく違うのは、「水源開発」という言葉です。

マスコミ等で、最近中国人や中国の業者が、北海道等の水源地を買いあさっていると報道されています。

報道での認知度の高さを利用
そのため、この報道を聞いた人の中には、

「海外資本からから水源を守る」
「転売で利益を得たい」


と思って購入する人もいます。

投資のリターンが低額だからバレにくい
また、日本は長い間「低金利」の時代が続いていますから、特に年金生活者の方には、1%でも金利が高い商品には魅力を感じるはずです。

特にこのような投資話は、契約後しばらくは、きちんと金利が支払われている場合が多く、詐欺と認識されるまで、比較的時間がかかります。

その間に、契約した人が知人に勧めて、被害者が広がっていく可能性もあります。

原野商法の二次被害:悪徳業者の測量詐欺


原野商法

最近になって、昭和40年代から50年代に横行した原野商法の二次被害とも言うべき事案が発生しています。

原野商法が昔だけでなく、今も被害が出ているってこと?


原野商法の二次被害とは

国民生活センターが発表している統計では、2004年度に247件だった相談件数が、2013年度には1048件にも上っています。

原野商法の二次被害の特徴は、原野を買った子ども世代をターゲットにしている点です。

高値で買取という甘い言葉に要注意
典型的な営業トークとしては、「あなたのお父さんが以前買った土地が値上がりしている」と話を切り出し、「ついては、当社で買いたいと思っているので、詳しく測量をしたい」と、測量するための手数料をだまし取るやり方です。

電話を受けた側にとっては、親が購入したよくわからない土地の処分に困っていたところに、「高値で買い取ります」という話はまさに「渡りに船」です。

測量の費用が高額でも気づかない
相手から「測量が必要です」と言われば、「そうなんだろうな」と思い、測量に応じるための高額な契約料を支払ってしまうのです。

そもそも、測量の費用も相場より高く設定されていますが、一般的に相場自体を知らない人がほとんどですから、高額な請求をされていたという自覚がありません。

売買取引は進まず自然消滅
ただその後の「土地の売買」の話は全く進まず、いつの間にか業者からの連絡も来なくなります。

実際に測量したのかも不明のまま
また、親が購入した土地はかなりの遠隔地にありますから、業者の言いなりになってしまい、実際に測量したのかどうか確認できる方法もありません。

原野商法の二次被害にあわない4つの対策


原野商法

先程、原野商法の二次被害についてご説明しました。

年代的に、親が買った原野が相続財産になるこの時期に発生する事案ですが、被害を防ぐ方法はあります。

ちゃんと知識をつけて騙されないようにしないとね!


不要な勧誘はきっぱりと断る

よくわからない「二束三文の土地」の土地をどうにかしたいと思う気持ちは、誰にでもあります。

しかし、「二束三文の土地」を処分するために、数十万円が必要だというのは、どう考えても理不尽です。

不要な勧誘に対しては、きっぱりと断る勇気を持つことが、まず大事です。

焦って契約せず内容と会社名を確認

興味を持った契約内容でも、電話で即答することはとても危険です。

相手の業者は、私たち消費者よりも一枚も二枚も上手ですから、きっぱり断らず曖昧な返事をした結果、勝手に「承諾した」と受け取って、契約関係に資料を送りつける場合もあります。

仮に興味を持っても、会社名を確認した上で一度資料を送ってもらい、法律に詳しい専門家に相談するくらいの慎重さが必要です。

8日以内ならクーリングオフできることも

もし、電話で契約する旨を伝え、その後契約を取り消したいと思ったら、「クーリングオフ制度」を利用しましょう。

電話勧誘の場合、「クーリングオフ制度」ができる旨の記載がある「契約書」を受け取って、8日以内であれば、無条件で解約することができます。


この「8日以内」という条件が当てはまるのは、以下の2つです。

「契約書に『クーリングオフ制度』の記載がある」
「契約書に記載されている日付が『クーリングオフ』の始まりの日である」

「188」に電話し消費者センターに相談

原野商法に似た電話勧誘があったり、実際に契約をしてしまったりした時には、近くの消費生活センターに相談しましょう。

また、近くの消費生活センターの連絡先がわからなくても、「188」に電話をすれば、「消費者ホットライン」につながります。

「188(いやや)」と覚えておきましょう。

188の対応内容
この電話では、悪質商法の被害や商品トラブル等について、相談することができます。

また、「188」にかけて、音声ガイダンスが流れている間に、自分住所の「郵便番号」を入力すれば、近くの「消費生活センター」を紹介してくれます。

原野商法の土地を相続した場合は放置も検討


原野商法

ここからは、親の世代が買った原野を相続した立場で考えてみます。

相続した土地は自分のものですから、人に貸したり売却したりすることは自由です。

利用価値がなくて困ってるような土地を借りたい人っているのかしら?


価値のない場所の土地を購入する人はいない

多くの人が、行ったこともない土地で、しかも資産価値がほとんどないのであれば、処分したいと思うはずです。

ただ原野の周りは山や谷ばかりで、今後値上がりすることも、利用価値もほぼない土地です。

土地の購入者を広く募集しても、買おうとする人はいません。

買い手不在なら売却の手間が無駄
これは、自分が逆の立場になって考えればわかると思いますが、何のメリットもない遠く離れたへき地を買いたいと思う人はいません。

ですから、原野を相続した場合、費用や労力をかけて、売りに出すという選択肢は考えない方がいいということになります。

無理に売らずに税負担がなければ放置

売りに出すことができなければ、どうしたらいいのか迷うところでしょう。

しかし、最も賢明な方法は「原野をそのまま何もせず放置すること」です。

資産価値がなければ固定資産税も負担少ない
相続した原野は二束三文の土地ですから、資産価値がなく、固定資産税もほとんどかからないはずです。

よく知らない土地がずっと自分名義であることに、居心地の悪さを覚える人もいるかもしれません。

しかし、そのまま何もせず放置しておくことの方が、余計なトラブル・負担が生じる可能性が少ないのです。

土地の名義変更は早めにすべき
ただ、放置すると言っても、親名義の原野を名義変更せず、そのままにしておいてはいけません。

放置してしまうと、50年後、100年後には土地に対して多くの相続人が存在することになり、結果的に子孫に迷惑をかけることになります。

そのため、他の相続人の了解を取ることを前提に、その土地を代々一人で(単独名義で)、相続することをお勧めします。

不便な場所の土地は相続放棄で処分可能?


原野商法

相続人の誰も必要としない土地なら、いっそのこと「相続放棄」をしてしまおう、ついついそんなことを考えがちです。

しかし、そこには大きな問題がいくつかあります。

いらない財産だけ放棄できるといいけど、そんなことはできないのかな。


相続放棄では他の遺産も相続できなくなるの

まず、相続放棄という手続きそのもの問題があります。

相続放棄は、文字どおり相続財産を全て捨ててしまうことができる制度です。

親が多額の借金を残して亡くなった場合、その借金を引き継ぎたくない時に、相続放棄をすることで、その借金を支払う必要がなくなります。

相続放棄は自己判断だけでできる
相続放棄は、相続人が複数いる場合でも、自分の判断だけですることができます。

例えば、相続人が3人いる場合、1人が相続放棄をすれば、その人は最初から相続人でないことになり、残りの2人で財産を引き継ぐことになるのです。

相続放棄は3ヶ月以内に手続き必要
ただし、相続放棄の手続きは、自分が相続人となったことを知って3ヶ月以内に、家庭裁判所へ書類を提出する必要があります。

早めに相続財産全体を把握して、相続するのか、それとも放棄するのかを判断しなければなりません。

相続放棄は部分的に行うことはできない
また、相続放棄するということは、全ての遺産の引き継ぎを放棄するということです。

したがって、預貯金は相続するけれど、土地は相続したくないということはできません。

つまり、親が購入した「原野」を引き継がない条件としては、相続人全員が相続放棄をするしか方法がありません。

しかも、相続放棄の手続きを行うと、他の全ての遺産を引き継ぐことができないということになります。

相続放棄が有効なケース

一方で、この相続放棄という制度をうまく使えば、親が買ってしまった原野を手放すことができます。

但し、いくつか条件が必要になります。

その手順は以下のとおりです。

親同士で土地を売却
例えば、両親とも健在で、原野を父親が所有しており、母親は自分名義の財産をほとんど持っていないとします。

そこで、父親から母親に「売買契約書」を作成した上で、原野を売却するのです。

法務局で原野の名義を変更
法務局で原野の名義を父親から母親へ変更します。

この手続きによって、原野を母親が所有し、しかも母親は原野以外の財産をほとんど持っていないという状態になります。

親が亡くなった時に相続放棄
母親が亡くなった後、相続人全員が相続放棄の手続きを行います。

こうすれば、原野を誰も引き継ぎことなく、国庫、つまり国の財産になります。

もちろん、母親が持っていた原野以外の財産も引き継ぐことはできませんが、「原野」以外の財産がほとんどなければ、諦めがつくはずです。


上記の方法の2つの問題点
ただ、この方法には2つの問題点があります。

まず、母親よりも父親が先に亡くなった場合です。

父親が先に亡くなれば、当然母親も相続人になるわけですが、その際に母親は夫(父親)の財産を相続できないことになります。

なぜなら、母親が亡くなった後に、「原野」の相続を放棄する目的で残された相続人全員が相続放棄してしまうと、母親が夫(父親)から引き継いだ「原野」以外の財産も放棄することになるからです。

さらに、父親、母親、その相続人全員の同意がないと、「原野」の放棄ができません。

誰か一人でも、この「シナリオ」に反対したり、一度同意しても途中で反する行動を取ったりした場合、「原野」の放棄は不可能になります。

原野の固定資産税は高額になることは少ないから、放置も選択肢に考えておいた方がいいにゃん。


まとめ:「うまい話」に安易に乗らずに断る


原野商法

原野商法などの詐欺では、

「自分には関係ない」
「自分が詐欺に引っかかるわけがない」


という消費者の慢心と、詐欺グループの巧妙さで騙されます。

詐欺グループは多くの場合、私たち消費者が認識している以上の戦法で攻めきます。

「絶対損をしない」、「必ず儲かる」等の甘い、怪しい言葉に注意して、きっぱりと断る勇気を持ちましょう。