法律のプロだから知る!敷金を返金してもらう方法と契約間の注意点

[公開日]2016/10/20

敷金 返金
「敷金」の意味を十分理解した上で、支払っている人は決して多くはありません。また、契約の際に、「契約書」と同時に「重要事項説明書」にも署名・捺印しますが、これについても、何を意味しているのか、十分理解している人はかなりの少数派です。

実は、「契約書」の「特約」部分と、「重要事項説明書」には、解約時、物件の引き渡し時における「敷金の精算方法」が書かれているのです

そのような重要事項であるにもかかわらず、ほとんどの人が気に留めることなく、契約をしています。その結果、「敷金が返ってこない」、「敷金の精算方法に納得できない」等の「敷金トラブル」が後を絶ちません。今回は「敷金」をより多く返してもらうために必要な知識や方法をご説明します。

思うような額が返ってくることの少ない敷金。この記事では現役の行政書士さんに敷金を返金してもらうポイントを解説してもらったにゃ!


法律家が教える意外と知らない敷金の基礎知識


敷金が返ってこない、あるいは返ってきたとしても納得できないという経験をお持ちの方も多いとおもいます。

そもそも敷金とは何か?

アパートやマンションを借りる際に、「賃貸借契約」を結びます。その際に、家賃の1か月分、礼金、敷金を一般的に支払うことになります。家賃はあらかじめ1か月分の前払い、礼金は仲介者である不動産会社等へのお礼という位置付けですが、それでは「敷金」とは何でしょうか?改めて聞かれると、なかなか即答できる人は少ないのではないでしょうか?
  
「敷金」について、現在のところ法律では明文化されていない、と聞くと多くの人が驚かれるのではないでしょうか?「契約」について規定されている「民法」に、「敷金」という言葉は出てくるものの、「敷金」が定義されていないのです。
敷金って言葉は何度も聞いたことはあるけど、説明しろって言われると困るな〜。


しかし、平成26年8月26日に法務省内の「民法(債権関係)部会」で、「民法(債権関係)の改正に関する要綱仮案」が決定し、その中で初めて「敷金」が定義されました。

ここでは「敷金」について、「いかなる名義をもってするかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう」としています。また、敷金の返還時期については、「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」としています。

上記の文をわかりやすく言い換えると、「名称は『敷金』でなくても良いが、建物を借りる際に、借りる人が貸す人に『保証金』として交付する金銭のことで、その金銭を返還する時期は、契約が終了し、建物を引き渡した時である」ということです。

原状回復のために敷金が使われるため返還額は少なくなる

一般的に、「契約」が解除されたら、契約の当事者には、「原状回復義務」というものが発生します。民法第545条第1項に、「当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。」としています。

原状回復義務は「借りたものを元の状態に戻すこと」
例えば、自転車を持っているタカシくんが、マミちゃんに1日500円で自転車を貸す契約を結んだとします。特に期限は決めていません。
タカシ!自転車貸して〜。1日500円払うからさ!

マミちゃんの頼みなら仕方ないな〜。ちゃんと返してよ〜

ところが、急に2日後に自転車が必要になったタカシくんは、マミちゃんに連絡をして、「急に自転車が必要になったから、明日持ってきてほしい(つまり、『賃貸借契約』を解除したい)」と言ったとします。
予定より短い期間だったけど返さなくちゃね!ゲッ!パンクしてる!でもちゃんと二日分の料金を払えば修理しなくても大丈夫よね?


そこで、マミちゃんはタカシくんに借りていた自転車を返すことになりますが、この時マミちゃんには「借りた時の自転車の状態」でタカシくんに返す義務が発生します。これが「原状回復義務」と言われるものです。

もしマミちゃんが自転車を借りている間に、自転車のタイヤがパンクしていたら、マミちゃんは修理をしてタカシくんに引き渡さなければならないということです。
その通り!借りたものはちゃんと元どおりにして返すのなんて常識よ。


原状回復義務が生じるからこそ敷金は返却されづらい

アパートやマンションを借りる際の「賃貸借契約」も、基本的にこの「原状回復義務」が発生します。借りていたマンション等を退去する場合、大家さんや不動産管理会社にまず連絡を行い、退去日を決めます。

そして、荷物を運び出した後に鍵を渡しますが、ここが先程説明した「敷金」の返還時期に当たるわけです。その後、引き渡された建物・部屋がチェックされ、原状が回復されているか確認されることになります。

ただ、一言で「原状回復」と言っても、全て原状に戻すことは不可能です。例えば、何年も部屋を使っていると、自然に壁や床は傷んできます。それらに対しても「原状に戻せ」というのはいかにも理不尽です。

そこで、一般的に「経年劣化」(時間が経って自然と傷んだ場合)は除外して、部屋を借りた人が故意や過失で部屋の床や壁等を傷めた場合には、「保証金」である「敷金」でその修理を行うことになります。
  
しかし、ある程度の基準を決めておかないと、トラブルの元になることが考えられます。そこで「国土交通省」から、平成10年3月に「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(以下「ガイドライン」と言う。)」が示されました。この「ガイドライン」によって、それまで多かった「敷金」にまつわるトラブルが減少することになったのです。
ガイドラインができたからといって、敷金トラブルがなくなったわけではないんだね。


敷金返還のためにチェックしておきたい4ポイント

敷金 返金 敷金返還のために、ここだけは是非チェックしておきたい項目について、4つの箇所を次に説明します。

床(畳、フローリング、カーペット等)
単純な「経年劣化」は、賃借人が「敷金」で負担する必要はありませんが、明らかに賃借人に非がある場合には、負担する必要があります。

例えば、引っ越しの際の作業で出来たキズやへこみ、雨が吹き込んだ等の理由で生じたフローリングの色落ち、キャスター付きの椅子等によって生じたフローリングのキズやへこみです。キズやへこみがつかない「キャスターなしの椅子」を使うことが賃借人にはできたはずだ、というのが理由です。


壁、天井(クロス)
賃借人が未然に防ぐことができたキズや汚れについては、「敷金」から負担する必要があります。例えば、下地ボードの張替が必要になる程の壁等の釘穴、ねじ穴、クーラーからの水漏れを放置したことによる腐食、照明器具の跡、台所の油汚れ、結露を放置したことによるカビやシミです。

こまめに掃除などをすれば、防ぐことができたのにそのまま放置した場合に、負担するケースが多いと言えます。


建具(ふずま、柱等)
網戸の張り替え、地震で破損したガラス等は賃貸人の負担ですが、賃借人が故意や過失によって、破損したり汚したりした網戸等は、「敷金」から負担する必要があります。また、飼っていたペットが柱にキズをつけた場合にも、負担が必要です。


その他の設備
賃貸物件の引き渡し後に行うハウスクリーニング(専門業者)、台所・トイレ等の消毒、鍵の取り換え、設備機器の故障等は、賃貸人の負担ですが、賃借人の使用方法に問題があると考えられる設備の破損等は、「敷金」から負担する必要があります。

例えば、手入れを怠ったために生じた設備の故障(備え付けのエアコン等)、換気扇の油汚れ、風呂・トイレ・洗面台の水あか、カビ等です。

部屋の掃除はこまめにきちんとする。借りているものだということを忘れずに大切にして暮らすのは大事にゃ。


退去時に自ら掃除をした場合、ハウスクリーニング代は不要か?

上記のポイント4で、「ハウスクリーニング(専門業者)は賃借人の負担」と説明しましたが、これはあくまでも「国土交通省」が示している「ガイドライン」です。

多くの場合、「賃貸借契約書」の特約の部分で「ハウスクリーニングは賃借人の負担」と記載されています。

契約する際にこの点を注意して、「賃貸人の負担とする」あるいは「賃貸人と賃借人とで折半する」等に変更してもらっていればいいのですが、多くの人の場合、ほとんど確認せず、署名・捺印をして契約してしまいます。こうなってくると、退去時に「ハウスクリーニングは賃貸人の負担にしてください」とお願いしても、聞き入れてもらえません。

それでは、賃借人が退去時に自分で掃除を行った場合、敷金から差し引かれるべき「ハウスクリーニング代」について、支払いを免れることができるのでしょうか?

賃借人が負担する代金を賃借人が肩代わりする形になりますから、敷金から引かれることはないように考える人が多いと思います。しかし、「賃借人が負担する」と記載された「契約書」に同意して署名・捺印した以上、いくら賃借人が掃除をしても、やはり敷金から負担するということになります。それほど、「契約書」には重みがあるということです。
掃除を頑張っても意味ないなんて…悲しいけど、契約した内容を退去の時にひっくり返そうとするのは難しいにゃ!入居前の段階で、あらかじめハウスクリーニング代について交渉しておくべきにゃ!


返金額に納得できない場合は専門機関に相談を


敷金の返金額を知らされてあまりにも想定していた金額と異なっていたとしたはどのように対応すべきでしょうか?大家さん、管理会社のどちらに交渉すべきかを考察してみました。

大家さんとの交渉で決着がつくことは少ない

通常退去後に、賃貸人から賃借人へ「明細書」が送られてきます。形式は様々ですが、そこには、「借りていた物件が原状回復するためにかかる費用」が記載されています。

もしこの「費用」について、納得できない場合には、すぐに賃借人に連絡をする必要があります。そうでないと、納得したものとみなされ、敷金から費用を差し引いた額が振り込まれることになります。一旦精算金を受け取ってしまうと、納得したものとみなされ、後で抗議をすることは難しくなります。

ただ、賃借人(大家さん)に「明細書」が納得できないと抗議しても、「敷金」の精算に関することは、それほど詳しくない場合が多いので、なかなか話し合いが進展しません。そこで、賃借人と賃貸人の仲介を行った管理会社に連絡することになります。

管理会社はプロ!専門機関に相談しながら対応しよう

平成10年に国土交通省から「ガイドライン」が示された後、管理会社はそれに則って「敷金」の精算を行うようになりましたので、以前ほど精算方法が杜撰ではなくなりました。しかし、どうしても納得できない場合には、直接管理会社と話し合いを持つことをお勧めします。

ただ、管理会社にとっては専門分野ですから、賃借人がただ単に「納得できない」と抗議しても、説得することは容易ではありません。

そこで、「賃借人の負担だ」とされている箇所について、賃借人の見解を説明する必要があります。そのためには、説得材料を集めなければなりません。現在、各都道府県には、「不動産業とのトラブルや苦情の窓口」があります(例:東京都都市整備部住宅政策推進本部)。また、各自治体には「消費生活センター」が設置されています。

それらの機関に相談し、管理会社に対して説明できる資料を調えた上で、話し合いを持ちましょう。
感情に任せて行動するのではなく、ちゃんとプロに相談して管理会社に交渉しないとね!


返金額に納得できない場合の最終手段は内容証明→少額訴訟


管理会社との交渉も不調に終わり、敷金の返金額がこのままでは納得できないという場合には内容証明や少額訴訟で第三者に審判を求めるという方法があります。この項目では具体的な手順と注意点を解説いたします。

内容証明郵便の発送

管理会社との話し合いで、納得のいく回答が得られない場合には、第三者にジャッジしてもらう必要があります。裁判という手段に訴えることになりますが、いきなり「提訴」というのではなく、一度「内容証明」を送り、相手の出方を伺う必要があります。内容としては、「○月○日までお支払いがない場合には、法的手段に着手します」という表現になります。

少額訴訟という方法

「内容証明」を送っても、相手側から納得のいく回答が得られない場合には、「訴訟」という手段を取ることになります。ただ「敷金」の場合、百万円単位の返還要求額は稀ですから、弁護士に依頼して「訴訟」を起した場合、たとえ勝訴しても相談料や報酬等でほとんど手元に残らないことも珍しくありません。そこで、自分でできる「少額訴訟」をお勧めします。特徴と手順は、次のとおりです。

➀特徴(条件)
・60万円以下の金銭の要求をする案件であること。
・1回に期日で審理を終え、即日判決が出る。
・証拠書類や証人は1回の期日で調べられる案件であること。
・費用は、申し立てを行う額によってことなるが、手数料・郵送代を合わせても数千円程度である。


➁手順
・原告(訴える人)が簡易裁判所に、訴状・証拠書類を提出し、手数料等を納める。
・裁判所から被告(訴えられた人)に、訴状・期日呼出状が郵送される。
・被告から裁判所に、答弁書・証拠書類が送られる。
・原告は裁判所から、答弁書・証拠書類を受け取る。
・審理が行われ、裁判官は原告、被告の言い分を聞き、即日判決を言い渡す。


敷金トラブルを回避するために契約前に確認すべきポイント


敷金 返金 返還 敷金トラブルが発生するのは主に退去時ではありますが、このトラブルを回避するポイントは入居の契約をする前にあります。このタイミングでは家賃の交渉も可能な場合も多くあります。

入居前の段階で汚れや傷みを写真で記録

敷金返還の案件で一番問題になってくるのは、賃貸物件が入居時と退去時ではどれくらい壊れたり汚れたりしているかという比較です。

入居時には、管理会社の担当者と時間をかけて部屋の隅々まで見て回るようにしましょう。また、気になる所があれば、撮影日時がわかるようにデジタルカメラで撮っておきます

契約書の特約部分と重要事項説明書に疑問点を残さない

マンション等を借りる場合に、通常「契約書」を賃借人と賃貸人との間で交わします。この中には、家賃金額、敷金、礼金、契約期間、解約の条件等が記載されています。そして、建物の「賃貸借契約」の場合、もう一つ「重要事項説明書」という文書が作成されます。

ここには、賃借人が賃借人に是非とも説明しておきたい事柄、特に「敷金等の精算方法」が記載されているのです。契約時には「契約書」はもちろん、「重要事項説明書」にも署名・捺印することが求められます。

「契約書」の「特約」部分と、「重要事項説明書」の内容については、細心の注意が必要です。一度署名・捺印してしまうと、書かれている事柄全てを了承したものとして扱われ、解約時、退去時に異議を申し立てることは難しくなります。

できれば、契約する前に、「契約書」と「重要事項説明書」を預かって、じっくり読む時間が欲しいところですが、それが難しい場合には、最低限「敷金返還の精算方法」が、極端に賃借人に不利になっていないかを確認します。

もし疑問点があれば、その場で担当者に確認しましょう。担当者の説明が納得できない場合には、一度持ち帰って、「賃貸借契約」に詳しい弁護士や行政書士に聞いてみましょう。もちろん相談料は必要になりますが、後々数倍の金銭を負担する可能性を考えたら、安いかもしれません。
今までは書類を読まずに雰囲気や相手の人柄で契約してたけど、今度からはちゃんと文章をよく読んで判断するぞ!


まとめ:知識を増やして敷金トラブルの回避を


「敷金」は、「(建物の)賃貸借契約」の「保証金」としての位置付けであることは、説明したとおりです。しかし、消費者にとっては、全額返ってくる「保証金」というよりも、契約時に支払う前家賃や礼金と同じで、返ってこないもの、少額でも返ってくればラッキーという程度の認識かもしれません。

この背景には、借りる側と不動産業者との間にある情報格差と、借りる側と貸す側の力関係があります。平成10年に国土交通省が資金返還に関する「ガイドライン」は、一般消費者にはほとんど認知されていませんし、いまだに「賃貸借契約」の際は、不動産業者の言われるままに、署名・捺印しているという現実があります。今回ご説明した「敷金」の記事が、参考になれば幸いです。