【行政書士が解説】不動産の相続税を節税する方法と注意点

[公開日]2017/06/06[更新日]2017/12/11

不動産 相続税

相続税は基本的に、被相続人(遺産を残す人)が亡くなってから10ヶ月以内に、現金で一括払いしなければなりません。

もし現金がなければ、最悪の場合には相続した不動産をそのまま納めなければならなくなります。

そうならないために、今から相続税の節税のポイントを把握しておきましょう。


この記事は、現役の行政書士の方に執筆していただき、引越しの神様チームで編集しております。


遺産総額が基礎控除額を超えた場合に相続税が生じる


不動産 相続税

相続税に関する法律が改正され、「基礎控除額」が大幅に引き下げられました。「基礎控除額」とは、後で詳しくご説明しますが、相続税がかからない金額のことです。

この改正によって、今まで「相続税」とは無縁であった世帯にも、課税される可能性が出てきました。特に、現金に比べて一等地に不動産を多く持っている世帯には、深刻な問題です。

都会に住んでいる人ほど相続税が関係する感じになりそうね!


平成27年の相続税法の改正で基礎控除が引き下げられる

「相続税法」が改正され、2015年(平成27年)1月1日から「基礎控除」が引き下げられました。

「基礎控除」とは、相続財産のうち相続税がかからない、つまり非課税の額のことです。

以前の「基礎控除額」は、「5,000万円+1,000万円×法定相続人の数」でした。

しかし、改正後は、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」になりました。

以前は相続税がかからなかったケースでも課税が生じる

例えば、法定相続人が4名、被相続人が8,000万円の財産を残して亡くなったとします。

改正前の「基礎控除額」では、「5,000万円+1,000万円×4=9,000万円」となり、「基礎控除額」より相続財産が多くなりますから、相続税はかかりませんでした。

しかし改正後には「基礎控除額」が「3,000万円+600万円×4=5,400万円」となります。

そのため、「基礎控除額」よりも財産額が「8,000万円−5,400万円=2,600万円」多くなり、相続税がかかるのです。

「1,000万円を超えて3,000万円まで」の課税額は、税率15%ですので、納めなければならない相続税額は、「2,600万円×0.15(15%)=390万円」となります。

配偶者がいる場合の法定相続人と法定相続分

亡くなった人の財産は、家族等が引き継ぐことになりますが、これを「相続」と言います。

そして誰がどの割合で相続するかは、法律で決められています。

これをそれぞれ、「法定相続人」、「法定相続分」と言います。法律では、具体的に次のように決められています。

1.配偶者と子ども
配偶者2分の1、子ども2分の1
※子どもが亡くなっている場合は、その子ども、つまり孫が相続

2.配偶者と父母
配偶者が3分の2、父母が3分の1
※父母が亡くなっている場合は、その親、つまり祖父母が相続

3.配偶者と兄弟姉妹
配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1  
※兄弟姉妹が亡くなっている場合は、その子ども、つまり甥、姪が相続

以上のように、残った相続人によって、亡くなった人の親、祖父母、兄弟姉妹、甥、姪が相続する可能性があります。

配偶者に「だけ」相続させたい場合は遺言書必要
被相続人(亡くなった人)は配偶者だけに自分の財産を相続したい場合には、前もって「遺言書」を作成しておく必要があります。

不動産の相続税の計算方法:宅地の形で特例も


不動産 相続税

相続財産の額に対して、相続税が課税されます。

基本的には、相続財産の額とは「時価」、つまりそのものの持つ価額で計算されます。

預貯金の場合には、そのままの金額で計算すればいいのですが、不動産については特別な計算が必要です。

特別な計算って聞くと難しそうだけど、大事な内容だから確認しないとね。


不動産にかかる相続税を概算で求める方法

不動産には、色々な税金がかかる場合がありますが、毎年課税される固定資産税の場合は、時価の70%程度に設定されています。

固定資産税課税対象者に送られてくる「通知書」には、あらかじめ「固定資産税」の課税対象額となる不動産価格が記載されています。

また、相続税の場合は、時価の80%程度です。

従って、相続税を計算する際には、「固定資産税」の通知書に記載された価額を1.14倍すればいいことになります

土地の評価には路線価方式と倍率方式があり

土地の価格の算定方法には、「路線価格方式」と「倍率方式」があります。

「路線価格方式」とは、市街地にある宅地の評価に使う方式のことです。

宅地が面している道路に付けられた価額(路線価)を基に、評価額を算定します。

この「路線価」が定められていない場合には、もう一つの「倍率方式」で算定します。

もし、どちらの方法で算定するのかわからない場合には、毎年7月に国税局長が定めた上で公表している「財産評価基準書」で確認します。

「国税庁」のホームページで確認することができます。

特殊な宅地の場合は「画地調整」あり

路線価格は、宅地の一方に道路が接するものについて、規定されています。ただ、実際の宅地は、標準的なものばかりではありません。

特殊な形状の宅地には画地調整がなされる
例えば、もう一方にも道路があったり、間口が狭かったりといったものです。

そこで、このような宅地の立地、形状に応じた価格に修正する必要があります。

このような調整を「画地調整」といい、「路線価格方式における画地調整」として、国税庁のホームページに記載されています。

建物の評価額は固定資産税評価額と同じ

このように土地の評価額は、やや複雑な計算方法で算定しなければなりません。

しかし、家等の建物については、固定資産税評価額がそのまま評価額になります。調整する等の作業は、必要ありません。

マンションの評価は持分割合を掛ける

建物の中で、マンションの評価額については、やや算定方法が違います。

マンション全体の評価額が判明しますから、その価額に持ち分の割合を掛けることで、算定できます。

小規模宅地等の特例で不動産評価額を圧縮する


不動産 相続税

「相続税」が課税されないように、できるだけ相続財産を減らす方法があります。不動産の評価額を低くできる「小規模宅地等の特例」の利用が有効です。

特例をうまく活用していくコツを確認しておいた方が良さそうね。


小規模宅地等の特例とは

小規模宅地等の特例は、

相続財産の中に住宅や事業で使用されたに使われた建物がある場合には、評価額を規定されている割合で減額できる

というものです。

特例が適用されるための条件

これから説明する3つのケース、

・特定居住用宅地
・特定事業用宅地
・貸付事業用宅地


ともに、特例が適用されるための条件があります。

それは以下の2つの点です。

・相続税の申告期限までその宅地を所有している必要がある
・申告期限まで遺産分割協議が終了していなければいけない

この2点をクリアしていなければ、特例は適用されません。

特例が該当する建物の「区分」、減額の「要件」、「対象面積」、「減額割合」は次のとおりです。

1.特定居住用宅地…対象面積(330㎡)、減額割合(80%)

以下の①~⑤のうち、いずれかに該当する場合に適用されます。

【被相続人が住むために使用していた宅地】
①配偶者が宅地を引き継いだ場合
②被相続人と同居していた親族が宅地を引き継ぎ、申告期限までにその宅地に建てられた住居に住んでいた場合
③被相続人に配偶者や同居していた法定相続人がいなかった時、相続が開始される前の3年以内に、本人あるいは本人の配偶者が所有していた住居に住んだことがない親族が、その宅地を引き継いだ場合

【被相続人と生計が同じである親族が住むために使用していた宅地】
④配偶者がその宅地を引き継いだ場合
⑤被相続人と生計が同じである親族がその宅地を引き継いだ時、相続が開始される以前から申告期限までに、自分の住居用として使っていた場合

2.特定事業用宅地…対象面積(400㎡)、減額割合(80%)

以下の①、②のうち、いずれかに該当する場合に適用されます。

①被相続人が事業を行うために使われていた宅地で、親族が被相続人の事業を申告期限までに引き継ぐと同時に、その宅地を引き継いだ場合
②被相続人と生計が同じ親族が事業用として使っていた宅地で、その土地を引き継ぎ人が相続開始の前から申告期限まで、事業を引き継いでいた場合

※①・②とも不動産貸付業以外の事業が対象

3.貸付事業用宅地…対象面積(200㎡)、減額割合(50%)

以下の①、②のうち、いずれかに該当する場合に適用されます。 

①被相続人が不動産貸付事業として使っていた宅地で、親族が被相続人の事業を申告期限まで引き継ぐと同時に、その宅地を引き継いだ場合
②被相続人と生計が同じ親族が不動産貸付事業として使っていた宅地で、その親族が相続開始前から申告期限まで貸付事業を営む場合

最も節税効果が大きい相続税対策は不動産購入


不動産 相続税

これまでご説明してきた方法は、現在所有している不動産に対する「相続税対策」ですが、ここでは、不動産を購入することで、「相続税対策」になる例を取り上げます。

なんで不動産を買うことが節税につながるのか、よくわからないんだよね。


不動産が相続税対策になる理由

なぜ不動産を購入することが節税になるのかですが、まず「進捗率」の違いによって建物の評価額が違ってくることに原因があります。

建設途中の建物には進捗率が関係
通常、建物が完成していれば、固定資産課税台帳に記載されている「固定資産税評価額」をもとに評価されて、建築費用の50%から60%の評価額になります。

一方、まだ建設途中の建物であれば、固定資産税評価額自体が決まっていないため、「費用原価×70%」で家屋の評価額を算定します。

ただ、建設途中ですから、その進み具合(進捗率)も考慮に入れなければなりません。そこで、先程の式の「費用原価」に進捗率を掛けるのです。

家屋が未完成でも相続税対策になる理由
例えば、2,000万円の費用原価の家が工事中で半分(50%)しかできてない状態で相続された場合、その評価額は「費用原価(2,000万円×50%)×70%」となり、「2,000万円×0.5×0.7=700万円」となります。

つまり、家屋が未完成の状態でも、それを相続すれば、かなりの「相続税対策」になるということです。

第三者に賃貸する場合も30%の控除あり
もう一つには、「賃貸による借家割合」というものがあります。

これは、所有している建物を第三者に賃貸していた場合、建物の評価額が30%控除されるというものです。

これによって、建物の評価額がかなり下がることになります。

相続税対策として賃貸マンション・アパートを建築する

「賃貸による借家割合」を利用すれば、かなりの「相続税対策」となるでしょう。

現金をそのまま相続すれば、そのままの額で相続税が計算されることになります。

しかし、賃貸マンションやアパートを建設し、第三者に貸しておけば、それだけで建物評価額が30%ダウンすることになるのです。

相続税対策として賃貸用ワンルームマンションを購入する

ただ、賃貸マンションやアパートを購入するとなると、それなりの資金や工期が必要です。

そこで、既に建設されている「賃貸用ワンルームマンション」を購入するという方法もあります。

ワンルームマンションでも評価額の減額大
地域によっても違いますが、1部屋1,000万円から2,500万円で購入することができるので、1棟の建物を所有するよりも手軽で、評価額の減額が大きくなるでしょう

相続税対策としてタワーマンションの高層階の購入は微妙

現在、同じマンションのそれぞれの部屋の評価額は一律です。

しかし、一方で「タワーマンションの高層階と低層階が同じ評価額なのはおかしい」という議論があります。

法改正によって高層階の部屋の評価額が上がることが予想されるでしょう。

従って、タワーマンションの高層階を買って、将来評価額が上がってしまえば、かえって相続税を支払う可能性が出てきますので、お勧めできません。

不動産相続の2つの注意点

今までは、不動産を購入することで「相続税対策」になることをご説明しましたが、相続財産に不動産があることで、不都合が起きる場合もあります。

不動産は分割の相続がしづらい
相続する段階になって、不動産は簡単に分割して相続できません。

購入から相続までの間に固定資産税の支払いあり
また、相続するためにあらかじめ現金で不動産を購入するにしても、購入から相続の期間まで、固定資産税を払い続けなければなりません。

賃貸事業の法人化による相続税対策


不動産 相続税

先程、賃貸物件にすれば建物の評価額が下がり、相続税対策になるとご説明しました。

ただ、この物件が個人所有である場合に、賃貸に係る必要経費はそれほど認められません。つまり、個人所有である限り、それほどメリットはないということです。

相続税対策をするなら、個人所有のままじゃダメなんだね!


個人所有の賃貸不動産を法人所有に切り替える

そこで、会社を作り、賃貸物件を法人所有にすることで、より多くの必要経費が認められるということになります。

「会社を作る」というと難しく聞こえますが、法律が改正されて、1人でも、資本金がいくらでも「株式会社」を作ることができるようになりました。

株式会社を設立して上で、賃貸物件を会社所有にすれば、かなりの節税になります。

賃貸事業の法人化による相続税対策の手順

まず、株式会社を作るには、会社の憲法とも言うべき「定款」を作る必要があります。

その後で、公証役場に行って、公証人の認証を受けます。認証とは、「定款」が法的に問題ないという「お墨付き」です。

定款は17万円・登記は7万円
「定款」を自分で作れば、必要な費用は10万円程度です。

その後は、「定款」と必要な書類を添えて、法務局で登記を行います。司法書士に依頼せず、自分で全て行えば、7万円程度の費用でできます。

登記が完成すれば、株式会社としての活動ができます。

賃貸物件を会社の名義にして、様々な経費を計算し、毎年1回「事業決算書」を作成し、税務署に申告をします。

配偶者の税額軽減特例と二次相続の注意点


不動産 相続税

結婚20年以上の夫婦の場合、「配偶者控除」が利用できます。

配偶者控除を利用しない手はないにゃ。


配偶者控除と基礎控除で2,110万円まで無税で譲渡可能

配偶者控除とは、

婚姻期間が20年以上の配偶者へ「居住用不動産」、あるいは「居住用不動産を取得するための資金」を譲渡する場合には、最高2,000万円を課税価格から差し引くことができる

というものです。

基礎控除まで合わせると、2,110万円まで無税で譲渡できることになります。

二次相続のことも考えて相続割合を決める

実際に相続する際には、「二次相続」も頭にいれて行う必要があります。

不動産を子どもに相続させた方が良いケースもある
例えば、夫が亡くなり、妻と2人の子どもが相続人だった場合、相続財産の賃貸アパートを妻に相続させると、妻がなくなる数年後には、またその物件を子どもが相続することになります。

名義変更等の手続きや費用が掛かりますから、できれば夫が亡くなった場合は、大きな不動産は子どもが相続できるようにします。

配偶者控除以外の6つの相続税控除


不動産 相続税

以下に、6つの相続税控除について、ご説明します。

相続税控除ってたくさんあるんだね。利用できそうなものはしっかり覚えておこう。


1.未成年者控除

相続人が未成年だった場合に、その未成年者が満20歳になるまでの年数1年につき10万円が控除されます。

ですから、相続の時15歳だったら、「10万円×(20-15)=50万円」となります。

2.障害者控除

相続人が85歳未満の障害者の場合、その障害者が満85歳になるまで、年数1年につき10万円(※)で計算した額が控除されます。

また、特別障害者の場合は1年につき20万円となります。

3.年次相続控除

相続開始の前10年以内に被相続人(亡くなった人)が、相続、遺贈、相続時精算課税によって財産を取得して、相続税を納めた場合、その被相続人から相続、遺贈、相続時精算課税によって財産を取得した人の相続税額から、一定の金額を控除することができます。

その計算方法は、前回の相続で課税された相続税額から、1年について10%の割合で減らした後の金額を今回の相続税額から控除するのです。

4.贈与税額控除

相続等で財産を取得した人が、被相続人から相続開始前3年以内に贈与を受けた財産がある場合、その人の相続税の課税価格に贈与された財産の価額を加算します。

また、加算された贈与財産の価額に対する贈与税の額は、加算された人の相続税を計算する際に控除されます。

5.外国税額控除

国外で生じた所得で、外国の法令で所得税に相当する租税だとみなされる場合、一定額を所得税の額から差し引く制度です。

なお、控除額は、外国所得税の額が、以下の算式により計算した「所得税の控除限度額」を超えるかどうかによって異なります。

「所得税の控除限度額」=その年分の所得税の額×(その年分の国外所得金額/その年分の所得総額)

6.相続時精算課税制度贈与税額の控除

生前親から子どもへ財産を贈与した場合、贈与税がかかりますが、この贈与税を相続税の「仮払い」とするものです。

つまり、実際に相続があった時に、贈与財産を含めて計算した相続財産の額から、既に納めている贈与税を控除するのです。

不動産の相続税の申告と納税について


不動産 相続税

相続財産が「基礎控除額」を超えた場合に、相続税の申告、納付が必要です。

「基礎控除額」は、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。

また、申告と納付期限は、被相続人が亡くなってから10ヶ月以内です。

現金一括で納められない場合

相続税の納付は、「現金」で「一括払い」が基本です。

しかし、現金が用意できない場合には、分割して支払う「延納」という方法があります。

相続税の延納には条件あり
ただ、納付期限まで「延納申請書」 を出すこと、相続税が10万円を超えること、担保を提供すること等の要件があります。

物納は万が一の最終手段
また、延納しても支払いが困難という場合には、不動産や有価証券を納める「物納」という方法もあります。

ただ、納付期限まで「物の申請書」を出すこと、現金で納められない理由があること等の要件があります。

まとめ:リスクやデメリットについてもよく考えた上で不動産の相続税の対策を


不動産 相続税

相続税対策についてご説明しましたが、不動産を購入したり、賃貸物件を運用したりと、なかなか素人ではわかりにくい分野です。

うかつに手を出すと、かえって費用がかかったり、トラブルに巻き込まれたりする恐れもあります。

ノウハウを持つ不動産会社等に相談した上で、十分に納得して相続税の対策を行いましょう。