【行政書士が解説】遺産分割協議を成功させる7つの手順と注意点

[公開日]2017/06/13[更新日]2017/12/11

遺産分割 協議

家族仲の良さに関係なく、遺産相続の話し合いは争いになるリスクが大きいです。

金銭のように分割しやすいものはスムーズであっても、土地などの分けにくいものを遺産分割の協議は揉めます。

今回は、遺産分割協議の7つの手順と遺産を分割する方法について解説します。


この記事は、現役の行政書士の方に執筆していただき、引越しの神様チームで編集しております。


遺産分割協議の意味と大まかな流れ


遺産分割 協議

相続人全員で遺産の処分方法について話し合うことを、遺産分割協議と言います。

相続する割合って法律で決まってるんじゃないかしら?なんで話し合いが必要なの?


遺産分割協議は遺産を適切に分割するために必要

民法では、相続人のパターンによって、相続の割合が細かく規定されています。

この割合に従って遺産を分ければ、何も問題は起きないでしょう。

ただ、遺産が全てきちんと分割できるものとは限りません。

相続人の考えを尊重しつつ適切に遺産を分割する
また、相続人によっては、

「相続財産はいらない」
「土地はいらないが、預貯金なら相続したい」


など、色々な考えがあります。

そのため、民法の規定を参考にしながら、相続人全員で遺産の処分方法について話し合う必要があるのです。

この話し合いを遺産分割協議と言います。

遺産分割協議の全体の流れ

遺産分割協議の大まかな流れは下記の通りです(詳しくは記事全体で後述)。

相続人の確定
被相続人が亡くなって最初の行うことは、「相続人の確定」です。被相続人の「戸籍謄本」を取り寄せて、全ての相続人を把握します。

全財産をリストアップ
相続人確定の後で、被相続人が残した財産を全てリストアップします。

家や土地等の不動産や預貯金はもちろん、有価証券(株等)や価値のある骨董品等の財産の全てです。

相続人全員で話し合い
その後で、相続人全員と遺産の分割方法について、話し合いを行います。

遺産分割協議書の作成
話し合いがまとまれば、「遺産分割協議書」を作成することになります。

次の項目から記事全体にかけて、遺産分割協議に向けての詳しい手順を解説します。

遺産分割協議の手順1:相続人の確定


遺産分割 協議

相続人を確定するためには、被相続人、つまり亡くなった人の「戸籍謄本」を取り寄せる必要があります。

戸籍を取り寄せるのって、どこまで必要なのかな?


亡くなった人の戸籍を取り寄せて調査

ここでポイントなのは、被相続人が生まれてから亡くなるまでの「連続した」戸籍謄本が必要なことです。

本籍を変えている場合は要注意
が生まれてから亡くなるまでに、「本籍」を変える場合があります。

例えば、平成10年4月1日にAからBへ本籍を変え、平成15年4月1日にBからCへ本籍を変えていたとしましょう。

この場合は、Aの戸籍謄本だけでなく、Bの戸籍謄本とCの戸籍謄本も取る必要があります。

つまり、本籍が変わるたびに、戸籍謄本を取る必要が出てくるのです。

取り寄せた戸籍謄本から相続人を確定する

戸籍謄本から、相続人が確定することになります。

配偶者は常に相続人になります。

その他、子どもがいれば子どもが相続人、もし子どもがいなければ、被相続人の親が相続人に、もしいなければ被相続人の兄弟姉妹が相続人になります。

民法が規定している相続分は、以下のとおりです。

法定相続分の例
・配偶者・子ども…配偶者(2分の1)、子ども(2分の1)
・配偶者・親…配偶者(3分の2)、親(3分の1)
・配偶者・兄弟姉妹…配偶者(4分の3)、兄弟姉妹(4分の1)

相続人が分かりにくいケース

相続人は、あくまでも戸籍上の関係で確定します。

例えば、夫が妻と長年別居していて、入籍していない、つまり内縁の「妻」がいる場合でも、内縁の「妻」は相続人にはなりません。

このように、相続人なるかどうか判断に困るケースがいくつかありますので、以下にまとめてみました。

相続人になるケース
・前妻の連れ子…養子縁組した場合には相続人になります。
・養子…養子縁組していますから、実子と同じになり、相続人になります。
・行方不明の相続人…戸籍上では生存扱いですから、相続人になります。
・判断能力が不十分な相続人…相続人になりますが、後見人が必要です。

相続人にならないケース
・前妻…同居していても戸籍上の配偶者ではないので、相続人ではありません。
・死亡した相続人…相続人ではありません。

遺産分割協議の手順2:相続財産の確定


遺産分割 協議

相続人が確定した後は、被相続人が残した財産、つまり遺産を確定しなければなりません。

このタイミングで遺産の全部をリストアップするのが重要にゃん。


遺産分割の対象となる財産

遺産に当たる財産は、次のとおりです。

・被相続人名義の不動産(家、土地等)
・被相続人名義の預金、貯金
・被相続人所有の有価証券(公社債、投資信託、株式等)
・車、骨とう品、貴金属、特許権、著作権

遺産の金額の確認方法

遺産別の金額の確認方法は、以下のとおりです。

・不動産(家、土地)…固定資産税通知書
・銀行預金…被相続人名義の預金通帳を探し、残高確認をする。
・有価証券(株等)…被相続人死亡時の時価。
・借金…被相続人名義の借用書、契約書を探す。

財産目録を作成し全相続人に送付

遺産が確定したら、「財産目録」を作成します。

特に形式は決まっていませんが、資産の部と負債の部に大別して、それぞれに種類(不動産、預金等)と金額を記載します。

財産目録が完成したら、全相続人に早めに送付しましょう

遺産分割協議の手順3:遺産分割協議の開始


遺産分割 協議

相続人が確定し、財産目録が出来上がったら、相続人全員で遺産分割について話し合いを行います。

親しい間柄であっても、内容はきちんと決めておきたいわね。


協議では相続人全員の合意を得る

ただ、いきなり集まって分割方法を話し合ってもすぐに決まらず、全員の合意を得ることは難しいです。

事前にある程度の「案」をいくつか用意して、話し合いを始めるようにしましょう。

相続人が集まれない場合の対応法
また、相続人の数が多く、遠隔地に住んでいて、一堂に会することが無理な場合もありますよね。

そのようなケースでは、相続人の一人が「分割案」を作り、持ち回って個別に了承を取るという方法もあります。

遺産分割協議の手順4:遺産分割協議書の作成


遺産分割 協議

相続人全員が、分割方法に合意したら、「遺産分割協議書」を作成します。

書類を作るのはわかったけど、何をどのように記載すればいいのかな。


遺産分割協議書が必要な理由

「遺産分割協議書」は、不動産の移転登記、預貯金、株、自動車の名義変更をする際に、必要不可欠です。

また、後々トラブルにならないための証拠となるものですから、話し合った内容を正確に記載しておきましょう。

遺産分割協議書作成のポイント

遺産分割協議書の形式は特に決まっていません。

財産の種類と額が記載された上で、どの相続人が何をいくら引き継ぐかが書かれていれば、問題ありません。

最後に、相続人全員の署名と捺印が必要です。

この捺印は実印で、併せて「印鑑証明書」の添付が必要です。

財産額が大きい場合は公正証書にすることも検討

財産額が大きかったり、複雑な分割方法を行ったりする場合には、遺産分割協議書を公正証書にすることも検討しましょう。

公正証書は、公証役場の公証人が作成してくれるもので信頼性があり、確かな証拠になるものです。

そのため、相続トラブルを防止する役目を果たしてくれます。

しかも遺産分割協議書は、公証役場に20年間保管されますので安心です。

公正証書にする場合の注意点
ただし、事前に公証人と打ち合わせを行う必要がありますので、行政書士等の専門家に依頼がオススメです。

また、費用もかかります。相続人全員の合意を得た上で対応しましょう。

遺産分割協議の手順5:後日の対応や注意点


遺産分割 協議

遺産についての話し合いを行い、「遺産分割協議書」を作成したら、すぐに相続手続きに入ります。

手続きもきっちり忘れずに行わないとね!


結果が変わる場合には再度話し合い必要

不動産の名義変更や預貯金の分配等を行った後で、もし他に遺産や借金が発覚した場合には、その遺産・借金について話し合いを行う必要が出てきます。

遺産の確定の際には、細心の注意を払い、全ての遺産・借金をリストアップできるようにしましょう。

遺産分割が済んだ後に遺言書が見つかった場合

先程の例は、遺産分割協議書の作成後に他の遺産、借金が発覚する場合でした。

それでは、「遺言書」が見つかった場合には、どうしたらいいでしょうか?

「遺言書」は、被相続人の遺志ですから、相続人の協議よりも優先します。

遺言書の効力のほうが強い
例えば、「遺産分割協議書」で、土地の相続を相続人Aとし、「遺言書」では「相続人Bに相続させる」と記載されていたとします。

その結果は、土地に関する協議は無効となり、土地は遺言書の記載通りBが相続することになるのです。

遺言書で触れていない場合は遺産分割協議書の内容が有効
一方、「遺言書」で相続方法に全く触れてない遺産については、「遺産分割協議書」に記載した方法が有効となります。

つまり、遺言書の内容と違って方法、割合で分割したり、違う相続人が相続したりする場合には、その部分だけが無効となるのです。

相続人全員の同意があれば遺産分割協議書の内容を優先できる
しかし、「遺言書」の内容を相続人全員が確認した上で、「遺産分割協議書」どおりに、相続手続きを進めていこうと合意ができれば、「遺言書」どおりにする必要はありません。

遺産分割協議の手順6:相続放棄・納税の期限に注意


遺産分割 協議

遺産を相続するのではなく、相続放棄する場合には亡くなってから3ヶ月以内に手続きしなければなりません。

3ヶ月はあっという間にすぎるから早め早めの準備が重要にゃん。


相続放棄と限定承認は3ヶ月以内に行う

「相続放棄」、「限定承認」ともに、被相続人が亡くなったことを知って、3ヶ月以内に、家庭裁判所で手続きをしなければなりません。

ただし、この期限を過ぎると、財産、借金、全ての遺産を相続することになります。

全てを放棄する場合は相続放棄
被相続人が亡くなり、財産よりの借金の方が多いとわかったら、「相続放棄」をすることができます。

これは、財産、借金の全てを放棄する方法です。

相続財産内で借金を返す限定承認
あるいは、借金がありそうだと言う場合には、相続財産の範囲内で借金を返すことができる「限定承認」をすることができます。

もし財産よりも借金の方が多くても、財産で借金を穴埋めした後は、それ以上支払う必要はありません。

亡くなった人の所得税の申告(準確定申告)は4ヶ月以内

被相続人に事業収入や不動産収入等があった場合、相続人が代わりに所得税の申告をしなければなりません。

通常、所得税の確定申告は、3月15日ですが、亡くなった人の申告期限は、「相続開始後、つまり亡くなってから4ヶ月以内」です。

これを「準確定申告」と言います。

この「準確定申告」は、申告書とその付表に各相続人が連署して、被相続人の住所地の政務署に提出します。

所得税は、各相続人が相続分に応じて納めることになります。

相続税の申告・相続税の納付は10ヶ月以内

一方、相続財産にかかる「相続税」は、相続開始後10ヶ月以内に、申告しなければなりません。

「相続税法」が平成25年に改正され、控除額(相続税がかからない額)が引き下げられました。

控除額は、「3000万円+法定相続人×600万円」で、この金額を超える相続財産を相続した場合には、「相続税」を納めなければなりません。

相続税軽減に関する申告は3年以内

被相続人が残した自宅、店舗、事業用の宅地は、残された家族や事業継承人の生活基盤となる土地です。

そこで、これらの宅地の価格ついて、一定の面積までを80%引き、あるいは50%引きまで評価できるという特例があります。

これを「小規模住宅宅地の特例」と言いますが、申告は相続開始から3年以内となっています。

遺留分の減殺請求は1年以内

基本的に相続は、被相続人の遺志である「遺言書」どおりに分割、相続することが基本です。

しかし、極端に一部の相続人に対して少なく相続されることがあります。

そこで、民法では、相続人の相続分を最低限保証する制度があります。これが「遺留分」です。

法定相続分を下回っている場合は減殺請求
例えば、被相続人が夫、相続人が妻と子ども2人の3人の場合、妻の法定相続分は全体の2分の1です。

しかし、遺言書で「妻に財産の5分の1、子ども2人に5分の4」と書かれていたとします。

民法では、妻の遺留分を、「法定相続分×2分の1」、つまり4分の1としています。

ですから、遺言書に「5分の1」と書かれていても、それよりも多い「4分の1」は保証されることになります。

ただ、この遺留分を主張するには、家庭裁判所に届け出なければなりません。しかも、相続開始から1年以内ですから、注意が必要です。

遺産分割協議の手順7:協議で決まらない場合は調停


遺産分割 協議

遺産分割は、相続人全員で話し合い、財産の処分や分割方法を決めることが基本中の基本です。

親族で揉め事にしたくはないなあ。でも万が一のために、対応方法は知っておこう。


相続人同士での協議で公平な遺産分割を目指す

しかし、相続人それぞれの考えもあり、結論がなかなかまとまらない場合もあります。

そのような場合には、弁護士等の専門家に立ち会ってもらい、話をまとめる必要があります。

また、正確な不動産価格を算定して、全相続人が納得するような努力も求められます。

家庭裁判所での調停の流れ

それでも、全相続人の合意が得られない場合には、家庭裁判所の「調停」を利用する方法もあります。

家庭裁判所に調停手続きを行い、調停員の前で遺産分割について、相続人全員で話し合い、全員が納得できる結論を出すようにします。

調停でもまとまらない場合は審判へ

ただ、調停もあくまで相続人の話し合いであるため、まとまる可能性は決して高くありません。

そうなると、調停は不調となり、裁判所の判断に委ねる「審判」へと移ります。

しかし、この「審判」については、異議申し立てができますから、そうなれば、「裁判」ということになります。

協議の前に知っておくべき遺産分割方法


遺産分割 協議

被相続人が亡くなり、残された相続人は、まず被相続人の財産、つまり「遺産」を把握することから始めなければなりません。

遺産分割の協議も重要だけど、分割する方法の選択肢も知っておくべきにゃん!


遺言書があれば記載内容で分割する

遺産を把握した後に、被相続人が「遺言書」を残していないかを確認しなければなりません。

もし遺言書があれば、基本的には遺言書に書かれた内容で、相続人が遺産を引き継ぎます。

遺言書がなければ法定相続分で分ける

しかし、遺言書がなかった場合、民法に書かれた分け方で、遺産を分けることになります。

この民法で定められた分ける割合のことを、「法定相続分」と言います。

なぜこのように、法律で細かく「法定相続分」を決めているのかというと、相続人同士でのトラブル、紛争を避けるためです。

例えば、母親が3年前に既に亡くなっていて、父親が子ども2人を残して亡くなったとします。

この場合、2人の子どもは遺産の半分ずつが相続されます。

土地などの共同所有はトラブルリスクあり
現金等、分割しやすい遺産であれば問題ありませんが、遺産が土地しかない場合には、そのままでは半分ずつに分けることが難しいです。

土地を2人で「共同名義」にする方法もありますが、後で処分方法が原因で対立する等、トラブルに発展する可能性もあります。

遺産を売却してお金に換えて分割する換価分割

先に説明したとおり、遺産が土地のみの場合、分割の際に悩みの種になります。

そのような場合は、土地を売却して金銭に変え、売却で得たお金を折半するという方法があります。

この方法だと、「共同名義」にしたときのデメリットが解消されますし、何よりも2人できちんと半分ずつに分けることができます。

相続人間のトラブルに発展する可能性はかなり低くなるでしょう。

ただ、懸念材料がないわけではありません。

一人でも反対する場合は売却できない
遺産となった土地に思い入れがあり、相続人のどちらか一人でも処分に反対すれば、この方法がとれません。

債務負担とも呼ばれる代償分割

土地の処分について、相続人の一人が反対した場合には、その反対した相続人が単独で土地を相続するという方法があります。

ただそうなると、もう一方の相続人には、まったく遺産の分配がいかないことになります。

その補填をするためにも、「代償分割」という方法を取らなければなりません。

代償分割とは
代償分割とは、下記のような方法です。

AさんとBさんの2人相続人がいて、遺産が土地(地価1,000万円)だけだったとします。

Aさんが単独で1000万円の土地を相続する際に、「法定相続分」の割合どおりにするために、AさんがBさんに土地の価額の2分の1、つまり「500万円」を渡すという方法です。

こうすることで、1,000万円の遺産をAさんとBさんが半分ずつ相続したことになります。

代償分割には現金が必要不可欠
法定相続分という原則に則っており、理想的な方法に思えますが、ただ代償分割の最大のポイントは、Aさんに500万円の現金があるかどうかという点です。

もし現金が十分になければ、この方法を選ぶことは難しいと言えます。

不動産全体を各相続人の割合で共有する共有分割

土地を処分することが難しく、「代償分割」の方法も取れない。

そのようなケースでは、一つの土地を「法定相続分」の割合で「共有分割」するという方法があります。

共有分割とは持分を共同相続すること
例えば、Aさん、Bさんそれぞれの「法定相続分」が2分の1ずつだったら、土地を2分の1ずつの「持ち分」で共同相続するということです。

この方法だと、土地を処分する必要もありませんし、現金の移動もありません。

共同名義になると手続きが面倒になる
しかし、土地が共同名義になった場合、その土地を数年後に売却しようとするときには、名義人全員、つまりAさんBさんの了承がないと実行できません。

共同名義人が何人もいた場合には、ますますハードルが高くなります。

分割方法に悩んだら専門家に相談を

以上のように、遺産が土地の場合、いくつかの相続方法があります。

どれにもメリット、デメリットがありますから、相続人同士でよく話し合い、結論を出す必要があります。

なかなか話し合いが進まない場合には、弁護士等の専門家に相談してみましょう。


まとめ:しっかりと協議を重ねトラブルを防ぐ


遺産分割 協議

相続は、相続人全員の合意が大前提です。

一人でも納得しないと、「遺産分割協議書」を作成できません。


相続人、財産が確定出来たら、速やかに話し合いを持つことが大切です。

時間が経てば経つほど、話し合いがこじれる可能性があります。

また、話し合いがなかなか進まない場合には、弁護士等の専門家に入ってもらい、うまく調整してもらいましょう。