【行政書士が解説】土地を寄付する方法と隣の人が狙い目な理由
[公開日]2017/06/15[更新日]2017/12/11
このように考える方も多いですが、実は寄付の相手によっては税金の支払いが発生しますので注意が必要です。
その上、相手によっては寄付そのものを受け付けてくれないケースもありえます。
今回は、土地を寄付する方法と注意点を解説します。
目次
土地の寄付で譲渡所得税という税金がかかることも
その税金が「譲渡所得税」と呼ばれるものです。
タダで土地をあげても税金がかかるのね!
譲渡所得税は土地の売買でも発生する
一般的に自分が持っている土地を他人に売って利益を得た場合、「譲渡所得税」を納めるようになっています。値上がり分が所得とみなされ課税
例えば、土地が自分のものになった時の値段が1,000万円で、第三者に売った時が1,500万円だったとします。所有している間に500万円値上がりしたことになり、この金額が所得となり、課税されるのです。
売買だけでなく寄附でも課税あり
上記でご説明した例は売る場合ですが、売買せずに寄付する場合でも、この「譲渡所得税」が課税されます。譲渡所得税が寄付でも課税される理由
寄付の場合、売買ではないので金銭は受け取っていません。しかし、譲渡したとみなされて課税されてしまいます。これを「みなし譲渡所得」と言います。
資産をゆずると「みなし譲渡所得」
・土地
・建物
・株式
・ゴルフ会員権
などの資産を第三者に譲った場合、「みなし譲渡所得」と見なされ、税金がかかるのです。
しかし、「みなし譲渡所得税」が全ての寄付において適用されるわけではありません。
寄付の相手によって「みなし譲渡所得税」が決まる
特に土地を譲る場合、その相手方は・個人
・会社
・法人
・団体
などのケースが多いと思います。
以下に「寄付する相手」と課税の有無を表にまとめました。
寄付する相手 | 譲渡所得税の課税 |
---|---|
自治体 | 課税されない |
個人 | 課税されない |
公益法人 | 課税されるが所定の手続きで非課税 |
一般企業(営利法人) | 課税される |
自治会や町内会 | 課税されるが認可地縁団体なら所定の手続きで非課税 |
みなし譲渡所得の計算方法
この「みなし譲渡所得税」の計算方法は、以下の式の通りです。みなし譲渡所得税=不動産の時価-(取得費用+寄付に要した費用)-不動産の取得費
式の計算の具体例
例えば、10年前にある土地を親から相続し、その時の土地の評価額が1,000万円だったとします。取得費用の内訳
その際に、所有権移転登記の手続きを行うため、司法書士に10万円の報酬を支払い、「登録免許税」として20万円を納めました。つまり「取得費用」は「10+20=30万円」となります。
寄付に要した費用の内訳
それから、10年経ってその土地を無償である団体に寄付をすることになりました。寄付を行うために、測量士に15万円で土地の計測をしてもらい、行政書士に「土地寄付証書」を5万円で作成してもらい、さらに司法書士に「所有権移転登記」を10万円で依頼しました。
また登記に必要な「登録免許税」は30万円でした。
この場合、寄付に要した費用は「15+5+10+30=60(万円)」となります。
不動産の評価額は重要
なお寄付した時の土地の評価額は1,500万円です。先程の「みなし譲渡所得税」の計算式に当てはめれば、「1,500-(30+60)-1,000=410(万円)」となります。
つまり、いくら無償で寄付をしても、所有していた間に「410万円」の利益を得ていたとみなされ、この「410万円」に税金がかかることになるのです。
取得費用が不明の場合は「評価額×5%」
なお、「取得費用」について不明の場合には、「土地の評価額×5%」で計算することになります。つまり、評価額1,000万円の土地を取得した場合には、「1,000×5%=50(万円)」ということになります。
譲渡所得税が非課税になる優遇措置
団体によって、課税されない、所定の手続きで課税されないといった区分が施されています。この違いは、寄付を受ける団体の事業内容に基づき、法律によって区分されているからです。
無条件に「課税されない」団体に寄付する場合には、特に問題はありません。
しかし、「所定の手続きで課税されない」団体に寄付する場合には、「租税特別措置法」をよく確認して、手続きを行う必要があります。
自治体に寄付するのが困難な理由
しかし、実際には自治体に土地を寄付することにも、高いハードルが待っています。
市役所に相談すればどうにかなるっと思ってたになあ・・・。
自治体が土地の寄付を受け付けない2つの理由
その理由は次の2点です。1.有効利用できる土地でなければ、住民の理解を得られない
2.土地の寄付を受け入れると税収が減る
2.土地の寄付を受け入れると税収が減る
有効活用できる土地でないとダメな理由
まず、自治体が土地の寄付を受け入れるということは、その自治体の財産になるということです。その際、寄付される土地が有効利用できるものでないと、住民の理解を得られません。
住民には、なぜその土地の寄付を受け入れたのか、理由を聞く権利があります。
もし、土地が有効利用されていないと判断されれば、受け入れた市長、町長などの責任問題になり、住民訴訟を起こされる可能性もあります。
寄付を受け入れると税収が減るワケ
また、今まで個人の所有だった土地が自治体のものになるということは、その所有者は「固定資産税」を納める必要がなくなります。つまり、自治体の税収が減少することになるのです。
したがって受け入れる自治体も、おのずと慎重になります。
自治体への寄付の流れ
個人が持っている土地を自治体に寄付する場合、次のような流れになります。自治体の役所へ行く
まず市役所、町役場などの窓口に行って、「自分が所有している土地を寄付したい」旨を伝えます。相談する窓口は「市民課」、「町民課」などですが、詳しくわからない場合は、受付で要件を伝えましょう。
担当者に土地の情報を伝達
次に、担当者に寄付を考えている土地の詳しい地番や地積(面積)を伝えます。その場で受け入れが可能かどうか決まりません。
土地の調査実施
担当者が関係部署と相談して、土地の調査を行うことになります。その結果が、寄付を申し出た人に伝えられます。
自治体へ土地を寄付するときの必要書類
土地の寄付の受け入れが決定した場合には、主に次の書類の提出が求められます。・寄付申出書(自治体独自の形式)
・公図(管轄の法務局から取り寄せる)
・登記簿謄本(管轄の法務局から取り寄せる)
・所有権移転登記承諾書(自治体独自の形式)
・実際に土地の写真(自分で撮影します)
・公図(管轄の法務局から取り寄せる)
・登記簿謄本(管轄の法務局から取り寄せる)
・所有権移転登記承諾書(自治体独自の形式)
・実際に土地の写真(自分で撮影します)
空き家バンク制度がある自治体も
もし土地ではなく、使用していない家があれば、自治体に登録する「空き家バンク」という制度もあります。正式には「空き家情報登録制度」と言いますが、これは各自治体内に空き家を所有している人が、賃貸、売買等を希望する場合、登録する制度です。
空き家情報はネットと情報誌へ掲載
登録された空き家は、各自治体のホームページや情報誌等に掲載され、それを見た賃借を希望する人や買いたい人が申し込むというものです。自治体が独自に行いますから、仲介料を支払う必要もなく、また地域が限定されて告知されますから、成約する可能性は高くなります。
個人であれば寄付しやすい:隣の人が狙い目
土地を必要としているなら、思い切って隣の人に相談してみるにゃん!
個人への寄付は隣の土地の所有者が有力
個人に無償で土地を譲る場合には、「みなし譲渡所得税」は非課税になります。団体や地元の自治体に寄付をする見込みがない場合には、個人に寄付を行うことを考えてみてもいいでしょう。
隣の人へ寄付の相談を
特に寄付したい土地が、第三者所有の土地と隣接している場合、その土地の所有者に寄付を持ち掛ければ、話がまとまる可能性があります。空き地の場合、広ければ広いほど、用途が広がり、利用価値が高まってくるからです。
例えば、空き地を駐車場にするケースを考えても、広ければ広いほど収益率が上がるはずです。
土地の状況を見極めて対処する
土地の形状をきちんと把握した上で、譲られた場合、どの所有者にメリットがあるかを見極めましょう、寄付を受け入れるメリットが大きいと感じる土地の所有者に、寄付の申し出を行いましょう。
寄付を受ける側に発生する2つの費用
個人に寄付する場合、基本的に寄附を行う側には金銭的負担はありません。寄付を受ける側に、以下の2つの金銭的負担が発生します。
1.贈与税
2.所有権登記の費用
贈与税
この贈与税は、生前贈与を防ぐために向けられた制度です。ある財産を無償で譲り受けた人は、その財産の価格から控除額である「110万円」を差し引いた額に税率を掛けた金額を「贈与税」として、納めらければなりません。
贈与税の計算の例
例えば、1,000万円の評価額である土地を譲り受けた場合、「1,000-110=890(万円)」に税率を掛けた額が「贈与税」の金額になります。
ちなみに「600万円を超えて1,000万円以下」の税率は「40%」ですから、1,000万円の土地を譲り受けた場合、納める税額が「(1,000-110)×40%=356(万円)」になります。
なお、「600万円を超えて1,000万円以下」の場合、さらに「125万円」の控除額がありますから、「356-125=231(万円)」が実際の納税額です。
ちなみに「600万円を超えて1,000万円以下」の税率は「40%」ですから、1,000万円の土地を譲り受けた場合、納める税額が「(1,000-110)×40%=356(万円)」になります。
なお、「600万円を超えて1,000万円以下」の場合、さらに「125万円」の控除額がありますから、「356-125=231(万円)」が実際の納税額です。
土地の所有権登記の費用
司法書士に依頼した場合、5~10万円程度の報酬が必要です。もちろん、登記に必要な書類は自分で作成することもでき、自分で作成した場合には報酬は不要です。
さらに、法務局で移転登記をする際には、必ず「登録免許税」を納めなければなりません。
贈与の場合、土地の評価額の「1,000分の20」、つまり2%になります。
所有権登記の費用の具体例
例えば、1,000万円の評価額である土地を譲り受けた場合、「1,000×2%=20(万円)」が「登録免許税」となります。
さらに司法書士に依頼した場合、5~10万円程度の出費が必要です。
さらに司法書士に依頼した場合、5~10万円程度の出費が必要です。
贈与契約書が移転登記に必要
タダで第三者に土地を譲るという贈与の場合、「タダで土地を上げます」
「はい、わかりました」
といった口約束でも成立します。
贈与契約書を作成するのがオススメな理由
しかし、是非とも「贈与契約書」という書面に残しておきましょう。なぜなら、移転登記の手続きをする際に添付資料として、土地が移転した根拠となる書類を提出する必要があるからです。
さらに、その土地に関してトラブルが発生した場合に、「自分は○○さんに、平成○年○月○日に譲渡した」と主張する場面があるかもしれません。
そのためにも、「贈与契約書」を2通作っておき、それぞれが実印を押した上で、「印鑑届出書」を添付し、契約者がそれぞれ1通ずつ保管しておきましょう。
公益法人に寄付する場合は税金が生じることも
公益法人に土地を寄付する場合、「譲渡所得税」が非課税にならないことがありますから、注意が必要です。
税金が発生するパターンを把握しておきたいわね。
譲渡所得税が非課税になるのは公益法人次第
「公益法人」に土地を寄付する場合、「みなし譲渡所得税」が非課税になる条件としては、主に次のような要件があります。・公益法人の理事会が寄付の受け入れを了承していること
・就業規則、給与規定が整備されていること
・寄付財産の土地の上に建物を建設する予定の場合は、建設資金の調達が確実であること
・育英事業を行う公益法人の場合、5年間の奨学金貸付計画を作成していること
・助成事業を行う公益法人の場合、5年間の助成計画を作成していること
・美術館を運営する公益法人の場合、博物館法第10条の登録を受けていること
・図書館を運営する公益法人の場合、3年間の事業計画を作成していること
・就業規則、給与規定が整備されていること
・寄付財産の土地の上に建物を建設する予定の場合は、建設資金の調達が確実であること
・育英事業を行う公益法人の場合、5年間の奨学金貸付計画を作成していること
・助成事業を行う公益法人の場合、5年間の助成計画を作成していること
・美術館を運営する公益法人の場合、博物館法第10条の登録を受けていること
・図書館を運営する公益法人の場合、3年間の事業計画を作成していること
以上のように、寄付を受け入れる公益法人が、きちんとした事業を行い、計画的に運営していることを証明する必要があります。
また、事業内容に関わらず全ての公益法人には、
・寄付を受ける前年の収支計算書
・事業報告書
・貸借対照表
・財産目録
の提出が義務付けられています。
寄付証書(寄付証明書)は税務署への申請に必要
個人が団体に土地を寄付した場合、「寄付証書(寄付証明書)」の作成を依頼される場合があります。個人Aさんと団体Bとの間で、Cという土地の寄付が成立した旨を記載することになります。
これによって、AさんからBへ土地Cが無償で譲渡されたことが証明されます。
さらに、この書類は、「みなし譲渡所得税」の申請をする際に、税務署へ添付書類として提出することになりますので重要です。
自治会や町内会に寄付する場合は課税が基本
地元の「自治会や町内会」に寄付をした場合、基本的に課税されることになります。
寄付っていろいろ細かい決まりがあるんだね。
自治会や町内会が認可地縁団体かどうかを確認
自治会や町内会が「認可地縁団体」であるなら、所定の手続きで非課税になる場合もあります。この認可地縁団体というのは、自治会や町内会のうちで、法人格を認められた団体のことです。
法人格を持つことで免除される
法人格をもっている自治会や町内会であれば、通常の法人(会社等)と同じ立場になります。そのため、土地の移転登記を行うことができます。
そして、公益法人等と同じく、一定の要件を満たせば、「みなし譲渡所得税」が免除されることにもなるのです。
認可地縁団体でない場合に
それでは認可地縁団体ではない自治会や町内会に対して、土地を寄付した場合、どうなるのでしょうか。この認可地縁団体ではない自治会や町内会に土地を寄付した場合は、「法人でない社団または財団であって代表者または管理人の定めあるもの」という規定に当たるか否かで、以下の二通りに分かれます。
規定に当たる場合
その団体が規定に当たる時には、所得税法では法人(一般企業)と見なされるので、「みなし譲渡所得税」が課税されます。規定に当たらない場合
規定に当たらず、その団体の構成員が個人である場合には、その人に対する寄付と見なされ、所得税の課税はありません。一般企業(営利法人)に寄付するのも難しい
一般企業に寄付を申し出たとしても、企業にとってよほど魅力的な土地でない限りは受け入れてくれないでしょう。
役に立たない土地だったら普通いらないって断っちゃうよね。
受け付けてくれる可能性は低く、譲渡所得税がかかることも
一般企業に土地を無償で寄付する場合ですが、受け入れる企業に贈与税などが課税され、所有した後も固定資産税が毎年度課税されるなど、金銭的負担が増加することが考えらえます。その土地を所有することに、相当なメリットがない限り、受け入れてくれる可能性が低いでしょう。
また、寄付した側にも「譲渡所得税」が課税される場合もありますから、一般企業へ寄付をするという選択肢は、優先順位としてかなり低くなります。
相続放棄で手放すという選択肢も
相続放棄するときの注意点を押さえておくにゃん。
相続放棄を行うのは簡単ではない
一般的に、誰も引き継がない財産は国庫に入る、つまり国の財産になります。つまり、相続放棄をした土地は国のものになるという理屈が成り立ちます。
しかし、現実的には、そう簡単にはきません。
相続放棄の手続きは3ヶ月以内に行う
相続放棄するためには、自分が相続人になってから3ヶ月以内に手続きをする必要があります。いいとこ取りの相続放棄はできない
「土地はいらないけれど預金は引き継ぎたい」というとはできず、全ての財産を放棄しなければなりません。土地を放棄して国に寄付する場合は全員の同意必要
さらに、相続放棄は基本的に相続人一人一人の判断でできますが、土地を放棄して国庫に納めたいと考える場合、全員が相続放棄しないと実現しません。例えば、相続人が3人いて、2人が相続放棄した場合、残り1人が全財産を相続することになりますから、土地もその人のものになってしまうのです。
相続放棄で寄付するのは難易度高め
以上のように、相続した土地が要らないから放棄しようと思っても、全相続人の意思を確かめる必要があり、ハードルは高いと言わざるを得ません。
相続放棄できたとしても費用がかかる
また、全相続人の同意で相続放棄ができた場合、放棄した遺産を管理する「相続財産管理人」に処分を任せることになります。しかし、この相続財産管理人の選任の手続きやその費用も頭に入れておかなければなりません。
引き継ぎ完了するまでは管理責任あり
また、この「相続財産管理人」に引き継ぐまでは、土地の管理は全相続人の責任において、管理しなければなりません。
もしその間、土地に関するトラブルが発生した場合には、相続人が全責任を負うことになるのです。
もしその間、土地に関するトラブルが発生した場合には、相続人が全責任を負うことになるのです。
まとめ:寄付の金銭負担が少ない方法を選ぼう
ただ、寄付の相手方によっては、受け入れてくれなかったり、思いがけず税金がかかったりする場合があります。
相手方を十分選び、できるだけ金銭的負担がかからない方法を選択しましょう。
【参考情報】寄付金控除額の計算方法
今までご説明しているのは、団体に土地を寄付する場合ですが、ここで金銭、つまり寄附金を支払った時に適用される「寄付金控除」について触れておきます。
一般的に、個人が国、地方自治体、特定公益増進法人などに寄附を行った場合、所得控除を受けることができます。
これを「寄付金控除」と言います。
今話題になっている「ふるさと納税」を思い浮かべていただければ、わかりやすいと思います。
なお、特定公益増進法人とは、独立行政法人、日本赤十字社、公益財団人、公益社団法人、社会福祉法人、更生保護法人などです。
つまり、国民の公益に係わる事業を行っている団体を指します。
この「寄付金控除額」の計算式は、「(①・②のいずれか低い金額)-2,000円」です。
※①「1年間に支出した特定寄附金の合計」、②「1年の総所得の40%」
寄付金控除額の計算の例
2016年に所得が600万円だったAさんが、200万円を公益財団法人に寄付したとします。この場合、実際に寄付した200万円と、所得の「600万円×40%=240万円」を比べた場合、200万円の方が低い金額になりますから、「寄付金控除」は「200万円-2,000円=1,998,000円」となり、「1,998,000円」の所得控除を受けることができます。
なお所得控除を受けるには、「確定申告」の際に、寄付を行った団体が発行した「領収書」を添付しなければなりません。