不動産屋が教える「おとり物件」をみやぶって絶対に騙されない方法
[公開日]2016/10/30
掘り出し物と思って見つけたお得な物件と思って不動産屋に問い合わせてみたけれど、すでにその物件は他の人で決まっていたという経験はありませんか?
もしかするとあなたが見つけた好条件な物件は、この世に存在しない「おとり物件」だったかもしれません。
おとり物件に惑わされるのは本当に腹が立つことですよね。一所懸命に物件を探した時間、希少物件を探し当てたと思ったときの歓喜した気持ち、それらが裏切られたと知ったときには、広告をだした不動産会社にだけではなく、自分にも腹が立ってしまい、新しい部屋を見つけようとする気持ちも萎えてしまいます。
物件が実在すると思わされて、実際に不動産会社まで出向いて、希望の物件がなかっただけではなく、他の物件を契約するように押し切られてしまっては、まさに騙されたといってもよいでしょう。こうしたおとり物件に騙されないように不動産屋を営む筆者が、おとり物件に関する基礎知識と、その見分け方を伝授いたします。
いい物件を見つけた!って喜んでたのに、その物件が存在しなかったなんてことがあるなんてサギ同然だにゃ…。この記事では現役の不動産屋さんに業界人でしかわからない「おとり物件」の見抜き方と裏事情を解説してもらったにゃん。
おとり物件とは何か
まずは、不動産のおとり物件についての正しい知識を身につけましょう。
おとり物件の代表的な手口
「新しい部屋に引っ越そう」と決心をしたあなたは、不動産ポータルサイトで物件を探しています。新しい部屋での新しいライフスタイルを夢見つつ、「なかなか希望の条件にぴったり合う物件はないものだな」と画面を眺めていると…。ありました!新築を探していたあなたの希望にぴったり、しかも敷金も礼金もナシで家賃も予算を大幅に下回っています。こんな素敵な物件を見つけることができるなんて。「努力は報われるものだ」「残り物には福がある」と、ウキウキしながら掲載されている不動産会社に連絡します。
「まだ物件が残っていれば一度見てみたいのだけれど」と問い合わせをすると、「ありますよ、とりあえず当社にご来店下さい。詳しくご説明します」とのこと。「ふうん、直接見に行くことはできないのか、まあそういうもんなのかな」などとあまり深く考えずに、訪問日時を決めてお店に行くことになりました。
不動産会社に行くと、担当者が「申し訳ありません。この物件は、残念ながらもう既に決まってしまいました」といいます。「せっかくわざわざ来たのになんだよ、それ」と思わず文句をいおうとすると、機先を制するように、「代わりといってはなんなのですが、来店者のみにご紹介する特選物件がございますので、ご紹介いたしましょう」とセールストークを始めてしまいました。
なんとなく気おくれしている間に、あれよあれよと、違う物件を紹介され、内覧に引き回され、申込書にサインをさせられてしまいました。「引越し先がこんな風に決まってしまうのはなんだか釈然としないけど、しょうがないかなあ。」うちに帰ってそんな思いに駆られています。
これが、おとり広告とそれを利用する不動産会社の典型的な手口です。
やすくていい物件を見つけたと思って問い合わせても、いっつも部屋が決まってしまったって言われるのは理由があったんだね
おとり物件は3つのタイプに分類される
おとり物件とは、おとり広告で紹介されている物件のことをいいます。
おとり広告・・・消費者に魅力のある商品を格安で売ると広告し、注文を受けるとその品は売り切れたとして別の商品を売りつける行為
出典:デジタル大辞泉(小学館)
おとり広告は、不当景品類および不当表示防止法(景表法)第4条1項3号の規定により禁止されています。また宅地建物取引業法第32条によっても禁止されているものです。具体的には、公正取引委員会告示第14号や不動産の表示に関する公正競争規約第21条で下記のように規定されています。
存在しない物件
存在しない物件とは、文字通り、住所や地番が実在しなかったり、間取りを実在のものとは違う表記をしたりする、架空の物件をさします。現実には、明らかに虚偽表示となり証拠が残るため、こういった広告はあまりないと思ってよいでしょう。存在するが取引の対象となりえない物件
取引の対象となりえない物件とは、実在はしていても、既に成約していたり、居住されていたりして取引できない物件をさします。存在するが取引する意思のない物件
取引する意思のない物件とは、実在はしていても虚偽の条件を掲載してその条件ではそもそも契約する気がない物件のことです。現実のおとり広告は、ポイント2やポイント3の場合が多いようです。「成約してしまった」「もう決まってしまった」といわれてしまえば諦めるしかなく、おとりだと立証するのも難しいからです。
不動産会社と大家との媒介(仲介)契約には「一般」「専任」「専属専任」の3種類の契約があり、「一般」の場合は、他の不動産会社とも同時・並列に契約することができるので、不動産会社が空き室だと思っていても、他の不動産が契約してしまう場合が現実にも起こります。悪質な業者はその点を利用しているのです。
おとり物件は確認不足で生じることも
実は筆者も、そうした一般媒介契約の物件の広告を見た問い合わせがあり、部屋の鍵を預かっていたものですから、気軽に「まだありますよ、内覧もOKです、待ち合わせは弊社でどうですか?」と返事をしてしまったことがありました。念のため、内覧当日に大家と連絡を取って確認したところ、他の不動産会社にも合い鍵を貸していて、既に内覧・申し込みも済んでいるので断って欲しいといわれてしまったことがあります。幸い、お客様に事情を説明してご理解いただけたものの、「お前の会社は、おとり広告をだしているのか、訴えるぞ」といわれてもおかしくないところでした。それ以来、物件の取引状況の確認は欠かさないようにしています。
悪気がなくても、結果としておとり物件が生まれてしまうのね。問い合わせをしたときに確認に時間がかかる不動産屋さんが多いのは、ちゃんと確認をしてくれているからなのね!
おとり物件がなくならない理由
おとり物件の目的は、「見込み客の注目を集め、店舗に客を呼び寄せる」ことです。相場の条件よりも魅力的な条件で引越しをしたいという入居希望者の興味を引き付け、問い合わせに対してその物件はまだ「ある」といい、見込み客を店舗に「よび」よせることから、不動産業界の隠語では「あるよび」ということもあります。現在、不動産取引、特に賃貸の場合は、多くの入居希望者は物件情報を不動産ポータルサイトで検索して希望物件を探します。不動産会社にとっては、自分の会社に連絡してもらうには、なんとか取扱物件を検索してもらう必要があるといえます。スーパーやディスカウントショップの目玉商品として特売セールを実施するように、不動産会社も目立つ物件が欲しいのです。
しかし不動産物件は相場商品ですので、目玉商品などは本来ありえないものです。そこで現実には存在しないおとり広告に頼ってしまう不動産会社が生まれてしまうのです。
また、不動産会社の仲介報酬は、仲介する不動産会社が1社であろうと複数であろうと、貰える総額の上限は変わりません。介在する不動産会社が多くなればなるほど、自分の報酬が減る仕組みとなっています。そのため、条件のよい物件ほど、情報を公開したり、広告をだしたりすることをしないで、自社未公開物件などと称して、自社だけの物件としてしまう不動産会社が数多く存在します。
こうした行為は「物件情報の囲い込み」といって、不動産業界の悪習として現在社会問題化しはじめています。そうした会社は、本当に取引が成立する可能性が高い物件は、自社の客にしか連絡をしません。その代わり自社の客といえる間口を広める工夫をします。何としてでも自分の会社に客を招き入れたいという気持ちが強くなればなるほど、1歩間違えば、おとり広告をしてしまう可能性も高くなっていくといえるでしょう。
お客さんをどうにか獲得しようとする営業努力が間違った方向に働いてしまっている感じだね。
おとり物件に対する罰則
おとり物件は、前述のように、宅建業法および景表法で禁止されていて罰則もあります。宅建業法では6ケ月以下の懲役もしくは100万円以下の罰金または両社の併料と定められています。また不動産の公正競争規約では、公正取引協議会に加盟している会員事業者は、警告を受け50万円以下の罰金とされ、警告によっても是正されなければ、500万円以下の違約金と資格停止・除名処分などを受け、消費者庁に措置命令がだされるように報告が行きます。措置命令でも是正されなければ、2年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金などが課されます
このように厳しい罰則がありますが、一方で、おとり広告は立証が難しいのも前述のとおりです。不動産は同じ物件がひとつとしてない、先約があれば同じものを代替として用意することが不可能な、特殊な市場だからです。売れてしまった、成約があったといわれてしまえば、なかなかそれを覆すことができません。
大手の不動産会社や不動産ポータルサイトでも、残念ながら例外ではありません。多くの不動産ポータルサイトでは、独自におとり広告や誇大広告などに対する相談・通報窓口などを設置して、対策をしていますが、まだまだ完全に排除できているとはいえない状況です。
大手だからといって安心できないなんて!自分で見極める手段を何とか持ちたいところね!
おとり物件の見分け方
おとり物件は、不動産市場という特異性からなかなか無くならないものであることはご理解いただけたでしょうか?根絶が難しいものであれば、自衛策を考えなければいけません。おとり物件を見分けるポイントをご紹介しましょう。
おとり物件を見抜く5つのチェックポイント
おとり物件を見抜くには以下の5ポイントを確認しましょう。1.相場より安い物件情報
2.現地待ち合わせや内覧を否定、会社への訪問要求
3.単一のサイトにのみ掲載
4.住所、階数など詳細情報の記載がない
5.物件登録日が古い、長期掲載
2.現地待ち合わせや内覧を否定、会社への訪問要求
3.単一のサイトにのみ掲載
4.住所、階数など詳細情報の記載がない
5.物件登録日が古い、長期掲載
おとり物件の一番の特徴は、相場より安い物件情報です。設備や立地から考えて、これはあまりにお得!という物件を見つけたら、それは残念ながらおとり物件の可能性が高いです。不動産取引は相場取引です。理由のない価格設定は本来ありえないのです。夢を奪うようなことを書いて恐縮ですが、相場より安い物件の99%はおとり物件だと思って間違いないでしょう。
少しでも高く貸したい大家と少しでも安く借りたい入居者の希望がぶつかり合った妥協点が相場を形成するのです。入居者の希望にだけ偏った価格設定が生じることはないのです。相場よりも安くてお得な物件を見つけたい、そうした欲がおとり物件を生み続けているといっても過言ではありません。
残りの1%も、自殺や殺人事件などがあった事故物件かもしれないと思っておくのがよいでしょう。相場とはそういうものなのです。
おとり物件の場合は、必ずといってよいほど、現地集合や内覧を希望しても、色々な理由をあげて、いつのまにか不動産会社へ一度来社してから、という結論に誘導されてしまいます。おとり物件の目的は、社内にお客を来店させることなのですから。
おとり物件は、当然架空のものや虚偽の記載が多くなりますから、多くの情報サイトに物件情報が載せてあることはあまりありません。掲載先が多ければ多いほど、おとりだとばれてしまう可能性が高まってしまいますから。ひとつの情報サイトにしか掲載されていない物件情報は怪しいかもしれませんね。
同様に、条件のよい物件なのに、住所などの詳細条件が掲載されていない場合も多いようです。本来なら条件のよい物件ほど、色々な情報を盛り込み広告したくなるのが人情です。あまり詳細な情報を掲載しても、物件を特定されて架空なものだとばれては困るのかな、と疑ってみてもよいでしょう。
好条件にも関わらず、情報サイトへの登録日が古かったり、長期間掲載されていたりする物件も疑ってかかりましょう。条件のよい物件ほど、掲載後すぐに成約されてしまうのが当たり前です。
安くて条件の良い物件はもれなく「おとり物件」だなんて。やっぱり良い部屋に住むにはそれなりのお金が必要なんだね。
電話問い合わせでおとり物件は見抜ける
店舗に行く前に、事前の問い合わせ段階で、おとり物件を見抜く方法はあるのでしょうか?簡単に判別する方法をお教えしましょう。電話で問い合わせをするときに、現地待ち合わせで内覧をしたい、と主張すればよいのです。おとり物件の場合、それはまず不可能ですし、おとり広告を出した不動産会社にとっては意味のないことですから、様々な理由で来店させようとするはずです。そうした反応があった場合は、いかなる理由をあげたとしても、おとり物件だと判断して諦めましょう。もしかしたら優良物件があるのに、来店しないだけで機会を失ってしまうかも、と弱気になったり欲をだしたりした時点で、おとり広告をだした不動産会社の思うつぼなのです。
首都圏だけのおとり物件回避サービス
現在では、「おとり物件チェッカー」というサービスを実施している不動産会社が運営するサイトがあります。不動産ポータルサイトで気にいった物件を見つけて、そのWebアドレスをそのサイトに入力すると、対象の物件が本当に賃貸市場にその条件で公開されているのかどうか調べてくれるサービスです。残念ながらサービス対象は東京都、神奈川の一部など首都圏の賃貸物件に限られているようですが、なかなか画期的です。首都圏にお住まいをお探しの方はご利用してみてもよいかもしれません。今後こうしたサービスに類似したものは、全国で広まることも予想されます。
店頭広告におとり物件はないのか
店頭掲示が広告の主流だった昔は、店内に一歩入ってもらうために、派手な内容のチラシやPOPを店頭に飾り、実際に店内で相談すると「あれはもう決まっちゃったんです」といってとぼける業者も多かったようです。しかし、情報ツールが発達し、顧客の物件検索の第一歩がWeb検索となっていて、消費者意識も格段に上がった現在、わざわざ店頭で虚偽の広告を出すのは、メリットが少ない上に、クレームを受ける危険性が高い、証拠が残って言い逃れができない、というデメリットが大きすぎます。私がたとえ悪徳業者でも、そんな怖いことはできません(笑)。
さすがに店頭掲載の優良物件は、そのお店の「本当の」目玉商品と考えて良いと思います。
まとめ:おとり物件のような掘り出し物は無い
住む家や部屋を見つけたいときには、1軒1軒不動産会社を回って相談するしかない時代がありました。その時代であれば、奇特な大家や、その不動産会社が持っている独自の情報網から、掘り出し物の好条件物件が見つかる、ということもあったのかもしれません。
しかし、1970年代に紙媒体の物件情報誌が生まれ、1990年代にはインターネット上に不動産ポータルサイトが生まれ、現在では、物件情報を、大家も入居希望者も簡単に発信、受信できる時代となっています。そこでは立地や設備、間取りや構造など様々な条件や価格の情報が溢れています。
また入居希望者側のライフスタイルによる嗜好や、そこに出費できるコストなどの需要動向の情報も分析されています。それらが相まって相場が形成され、大家も入居者もその情報や相場観を重視する時代といえるでしょう。そうした時代には、掘り出し物を期待するのは間違っているのかもしれない、という視点を持ってください。
自分にとっての好条件の物件とは何か、ということを整理して考えてみましょう。それは決して相場よりも安い物件に住むことではないはずです。それではおとり物件に釣られてしまうことを繰り返してしまうだけです。
自分のライフスタイルにできるだけ合っていて、自分の耐えうるコストに合っている物件、自分の要望に優先順位をつけながら、見合った対価の範疇で手に入れたもの、それが自分にとって最上の物件ということができるのではないでしょうか?
私はしがない一介の不動産屋です。そんな私ではありますが、お客様が、自分の価値観やライフスタイルに自信を持ち、その実現に見合う価値として当たり前の対価として支払うことができる賃貸料・価格の物件こそが、その人にとっての最良の物件であり、そういった物件を紹介することこそが、不動産会社の仕事であり、誇りである、そう私は信じています。
参考情報:媒介(仲介)契約の種類について
宅地建物取引業法(宅建業法)では、宅建業者(免許を受けた不動産会社)は、不動産取引に関する依頼を受けた時には、その取引に関して①当事者となる②代理となる③媒介(仲介)する、のどの立場をとるか明示しなければならないと、定められています。これを「取引態様の明示義務」といいます。
媒介契約は、不動産会社が取引相手を紹介して条件を調整して契約を成立させることを目的として、依頼者と不動産会社が結ぶものです。宅建業法では、業務の内容などから①一般媒介契約②専任媒介契約③専属専任媒介契約の3種類に区分されて定められています。
大きな相違点は、①一般媒介契約が、他の不動産会社とも重ねて媒介契約ができ、依頼者自身が見つけた取引先とも自由に不動産取引を契約できる(自己発見取引)ことに対して、②専任媒介契約では、他の不動産会社とは媒介契約を結ぶことができず、③専属専任媒介契約では、自己発見取引も禁止されることです。一般から専任、専属専任となるに従い、不動産会社への依存度が高まることになりますが、そのかわりに、不動産会社の義務も増えるという区分となっています。種類の概要は添付の表をご参照ください。
不動産広告の場合も、不動産会社は取引態様の明示が義務付けられています。しかし、媒介契約の種類までを明示することは義務付けられてはいません。ただし、一般に専任もしくは専属専任契約を結んでいる場合は、売主に対して深いつながりを持っていることを市場に知らしめることにもなるので、広告に記載することが多いのが通例です。