不動産屋が教える!売却しづらい市街化調整区域を売り切る方法

[公開日]2017/08/08[更新日]2017/12/11

市街化調整区域 売却

市街化調整区域は都市部と比べて、明らかに売却は難しくなります。

市街化調整区域と都市部の違いを知らずに売却しようとしても、時間を浪費するだけで損をしてしまいかねません。

この記事では「市街化調整区域の特徴」と「注意点を踏まえたうえでの売却のコツ」を中心に解説していきます。


この記事は、現役の不動産業者の方に執筆していただき、引越しの神様チームで編集しております。


市街化調整区域とは「一次産業の基盤」


市街化調整区域 売却

市街化調整区域は、昭和30年代の高度経済成長による無秩序な開発や都市化への対策として、昭和43年に改正された都市計画法によって定められました。

ここでは「都市計画法がどのような法律で、その中で市街化調整区域がどう位置付けされているのか」を解説していきます。

市街化調整区域とは

都市計画法では都市化を進める「都市計画区域」と、森林や原野を維持する「都市計画区域外(通称:未線引区域)」の2つに国土を区分けしています。

この内、都市計画区域は基本的に市街化を進める「市街化区域」と、市街化を抑制する「市街化調整区域」に分かれます。

なぜ都市計画区域内に「都市化できない土地」が存在するのか?
「都市化を進める都市計画区域内にあるのなら、市街化調整区域も都市化を進めればいいじゃないか」と思われるかもしれません。

しかし社会は1つではありません。

産業や住居がメインとなる地域があれば、農地や林業といった自然との共存が必要となるエリアも存在するのです。

そうした観点から市街化調整区域は、

市街化を抑え、基本的には農業や林業、漁業関係者の住居や設備以外の建築を制限し、それらの産業に適した環境を維持する

という目的で制定されました。

市街化を進める都市部とは別に、「一次産業の基盤もしっかりと守っていこう」というわけです。

市街化区域とは違い、市街化調整区域はライフラインが不十分

「市街化区域」と「市街化調整区域」の違いを詳しく説明していきましょう。

まずは市街化区域の特徴を解説します。

市街化区域はインフラの整備が充実
市街化区域は市街化を進める地域であるため、住居やビルの建築が推進されるのはもちろん、上下水道やガスなどのライフラインや公園等の整備も積極的に行われます。

市街化区域にはさらに細かな用途地域が定められ、

  • 工業を主に行う工業専用地域
  • ビジネス・商業エリアとなる商業・近隣商業地域
  • 住宅街を基本とする住居専用地域
などに分類され、それぞれの場所での用途に見合った開発・整備が進められます。

市街化調整区域は最低限のインフラ
一方で、市街化調整区域には用途地域の定めが無く、ライフラインも大規模には整備されません。

域内の一次産業従事者のための設備以外は、原則として都市施設の整備を行わないのです。

市街化調整区域は建物の建築に制限がある

市街化を抑制するという法の趣旨から、市街化調整区域では、担当行政庁の許可がないと建物を建築することはできません。

市街化調整区域は基準を満たさないと建築できない
「建築確認」という建築基準法による許可を要するのは、市街化区域内も同じです。

市街化調整区域では建築確認に加えて、「農家の自宅建て替え」といった都市計画法による一定の基準を満たしたケースでしか建築は許可されません

こうした事情から「市街化調整区域内の土地は、建物の建築が可能である」と確認できなければ、売買は成立しないことになってしまいます。

土地購入の目的の大半は「建築ありき」
もちろん、購入した土地を建物の敷地として利用しないのであれば別です。

しかし、通常は土地を購入したのに建築許可が下りないとなったら、土地購入の目的は果たされません

そのため、「都市計画法による建築許可が無いと売買は成立しない」という条件が付けられる契約がほとんどとなるのです。

市街化調整区域に建てることのできる建物

では、どのような建物が、どんな条件を満たせば市街化調整区域内であっても建築が認められるのでしょうか。

下に列記しましたので、まずは一通りご覧ください。

・農家や林業、漁業従事者などの自宅や家業の施設、またはその分家の自宅
・老人ホームや病院、小中学校といった公共性の高い建築物
・都市計画道路などによって収用され、その代替地として土地を購入した場合
・都市計画法改正前から域内に建物があり、宅地だったと証明できる場所での再建築
・開発行為、土地区画整理法などの公共事業によって分譲された宅地での建築

農林業や水産業に適した地域性を維持しようとする法律の観点から、これらの産業に必要とされる建築物や、地域の住民の為の施設以外の建築は基本的に認められません。

例外として都市計画法の改正前から域内にあった建物、宅地であった土地の救済措置や、開発行為が認められた場合も建築が可能です。

ただし、それらのケースでは別途に許可基準が設けられます。

市街化調整区域の土地や建物を売却する際の注意点


市街化調整区域 売却

市街化調整区域では原則として建物の建築が認められないため、売却するとなると様々な制約が加わります

どのような制約があり、その制約に対処する方法を前もって知っておきましょう。

市街化調整区域の土地での建物の建築には制限がある

市街化調整区域内において建物を建築する際には、都道府県等に申請し、都市計画法による建築許可を得なければなりません

この申請を「都市計画法43条申請」、許可を「適合証明」といいます。

都市計画法43条申請の申請は専門家へ依頼
土地の登記簿謄本などの様々な提出書類があり、専門的な知識が無いと難しい申請となるため、通常は建築事務所や行政書士に代行してもらいます。

許可申請の費用は、

・役所への申請手数料が6,900円
・建築事事務所などでの代行手数料は10万円前後


が相場となっています。

都市計画法による建築許可は、建築主の名義での申請が必要です。

そのため、市街化調整区域の土地売買を行う場合は、「買主が申請者となり適合証明を受けられる」ことが売買成立の条件となります。

農地の場合は「農地法」による許可も必要
なお、売買の該当地が農地の場合は「農地法」による許可が別に必要です。

農地法の許可申請も建築事務所や行政書士等による代行が可能で、こちらも10万円前後が費用の相場となっています。

売買にともなっての農地法の許可申請は、売買を担当する不動産会社が業務の一環としてサービスしてくれるケースもあります。

手間が省けて取引もスムーズに運びますので、農地の売買の際には相談してみてください。

土地の評価が低い傾向にある

市街化調整区域内での建築や土地利用の制限は、区域内での土地購入者を限定し、結果として取引価格を低下させてしまいます。

大規模な開発後の分譲区画であれば別ですが、「認められた産業従事者以外に原則として利用できない土地」をわざわざ買おうとする人は多くないからです。

また、過去の経緯から自由な建築が認められた土地であっても「ライフラインなどの都市施設が整っていない」といった理由から、市街化区域内の土地に比べると安価な相場での取引となる傾向にあります。

買主への住宅ローンの融資が下りない、または減額されてしまうことがある

建築や利用が制限され、売買価格も安価となりがちな市街化調整区域内の土地は、住宅ローンの際の金融機関の担保評価も低いものとなってしまいます

市街化調整区域は担保評価も低い
銀行などの金融機関は、ローンを借入れた人が返済不能に陥った場合に備え、ローンの対象となる物件に抵当権を設定します。

金融機関は債務者からの返済が行われなくなるとその抵当権を実行し、物件を差押え、競売にかけるなどして融資金を回収します。

融資金を回収するための売却が、市街化調整区域では市街化区域の土地のようには進まないために、担保評価が低くなってしまうのです。

市街化調整区域のローン利用は事前相談必須
こうした理由から市街化調整区域では、建築が認められた土地であっても住宅ローンが減額されたり、金融機関によっては融資自体を受け付けてくれないケースもあります。

市街化調整区域内の土地を購入しようとする買主に対しては、売買契約の前に金融機関に相談し、必ず融資の事前審査を受けるよう促しましょう。

融資が下りない土地を契約しても、手間がかかるばかりで何の意味もありません。

市街化調整区域のライフラインは自費工事も

市街化調整区域では道路や水路、上下水道や公園といった都市施設の整備も積極的には進められません。

耕作地や山林が多いためにライフラインを必要としない地域が多く、都道府県や市町村の予算にも限りがあるため、市街化区域の整備が優先されるのです。

建築許可を得られた市街化調整区域内の土地も同様
そのため、建築許可を得られた市街化調整区域内の土地であっても、水道などの施設が整っていない物件が多いです。

そのうえ、「市街化調整区域は市街化を抑制する地域である」との理由から、市街化区域では当たり前のライフラインの整備への補助金にも、自治体は積極的ではありません。

多くのケースで自費工事となり、土地そのものが安く取得できたとしても建物の建築費がかさんでしまいます

市街化調整区域内の土地を購入する場合は、生活インフラ整備の点にも留意する必要があるのです。

不動産会社も売却に消極的である

価格が安く、市街地から離れた場所に存在するケースが多い市街化調整区域の取引には、不動産会社も力を注ぎたがりません。

不動産会社が消極的な理由
というのも土地売買を仲介する不動産業者は、売買価格に対して約3%とされる仲介手数料を主な収入源としており、低価格の物件の取引には積極的になれないのです。

なんとも現金な話ではありますが、1億円の売買でも100万円の取引でも、不動産会社の手間は変わりません。

であれば手数料が多くなる1億円の取引を優先するのは、営利を目的とする企業としては、当然の姿勢であるといってよいでしょう。

市街化調整区域の売却には時間と費用かかかる
そのうえ、郊外にある市街化調整区域の土地は、現地調査や顧客の案内に時間と費用を要します。

都市計画法や農地法の手続きも煩雑であるために人件費もかさみ、安価な市街化調整区域内の物件売買は、経費がかかりすぎて赤字に終わる可能性すらあるのです。

このような事情に加え市街化調整区域内の土地は、建築可能であっても購入者が限られてしまいます。

そもそものマーケットが大きくないので販売活動を行っても成果が期待できず、積極的に取り扱おうとする不動産業者が少ないというのが実情です。

市街化調整区域の土地や住宅を売る前に確認すべきこと


市街化調整区域 売却

市街化調整区域内の土地を売却するのが難しい理由は、数多く存在します。

では、「売却できないのか」というとそうではありません。

その土地の事情をきちんと認識し、地域に精通した不動産会社に売却を依頼すれば、市街化調整区域の成約はもちろん可能です。

「建築が許可される見込みはあるか」
「ライフラインの整備状況はどうなっているか」

といった売買の際に必要となる情報をあらかじめ整理しておきましょう。

市街化調整区域の「救済対象」か

都市計画法は昭和43年に改正され、市街化調整区域に関する様々な建築制限も改正時に制定されています。

したがって都市計画法の改正前に存在していた建物は、建築当時の建築基準法に則って建築されていると証明できれば救済されます。

法律は時をさかのぼっては効果を及ぼさないので、改正前の建物には影響しない、というわけです(=遡及処罰の禁止)。

救済対象か確認するポイント
では「法改正以前に建物があったかどうか」、「合法的に建築されたか」についてはどのように確認すればよいのでしょう。

登記簿謄本の記載日付を確認
建物の建築時期については、法務局にて建物の登記簿謄本(登記事項証明書)を取得し、表題部にある、「原因及びその日付(登記の日付)」の記載日付を確認して判断します。

登記された新築の日が、法改正による市街化調整区域の線引き前であれば、第一段階はクリアとなります。

建築確認通知書の「日付と建物の規模」を確認
続いて当時の建築基準法に則っていたかどうかですが、こちらは建築時の建築確認通知書が残っていれば、その内容をチェックすることで判断できます。

・建築確認取得の日付
・建物の規模

この2つを確認してください。

日付が市街化調整区域の線引き前であれば、都市計画法改正前の建築基準法による建物であったと確認
できます。

建物の規模は、現在の登記簿面積と変わっていないかをチェックしてください。

建築後に増改築が施されて建築面積が大きくなっていた場合は、増改築の建築確認通知書にてその工事内容が確認でき、増築後の面積が現況と変わりなければ問題ありません。

建築確認通知書なければ役所で調査
建築確認通知書が手元に残っていない場合は、県や市の建築課や建築局に出向き、事情を話して当時の記録を調べてもらってください。

正式に届け出されて許可された建物であれば、役所には記録が残っています。

確認通知書を紛失していても証明書が発行されますので、都市計画法による建築許可申請の際に添付できます。

市街化調整区域の線引きの時期は自治体で異なる
なお、都市計画法の改正は昭和43年ですが、市街化調整区域の線引きの時期は、自治体によってまちまちです。

法改正直後に線引きされた自治体もあれば、数年後に線引きを行った自治体もあります。

昭和45年や46年に建築されていたとしても、市街化調整区域の線引き前の建築となる自治体も少なくありません。

都市計画法の改正後だからといってあきらめないで、県や市の宅地課に相談し、線引きと建築の時期を照らし合わせてもらいましょう。

建物建築ができない場合は売却は難航
また、救済対象となる条件に合致しない場合は、現在の基準によって審査を受けなければなりません

線引き前の救済が無い土地は、基準をクリアできないケースがほとんどです。

建物の建築ができなければ、少ない購入者はさらに限られてしまいます。

売却にあたっては非常に不利な状況となることを、覚悟しておくべきでしょう。

「宅地」に該当するか

市街化調整区域の線引き前に建物が建っていない場合でも、自治体によっては都市計画法の許可が下りるケースがあります。

市街化調整区域の線引き前に土地が宅地となっていた」場合などがその例です。

土地の登記簿謄本(登記事項証明書)の表題部を確認し、地目が市街化調整区域の線引き前から宅地であったと確認できれば、許可される場合があるのです。

宅地救済の基準は自治体により異なる
ただし、こうした既存宅地をめぐる制度は平成12年に改正されていて、現在の線引き前の宅地救済についての基準は自治体によって様々です。

同一都道府県内でも政令指定都市であれば基準も変わってきます。

市や県の宅地課に土地の登記簿謄本を持参して、役所の判断をあおぐようにしてください。

なお、土地が線引き前からの宅地でなかった場合や、建築時期が線引き後で再建築が不可能な場合であっても、現在の建物を使用し続けることに問題はありません。

また、現在の地目が宅地となっていれば上下水道も整備されていることが多いため、建物が使用可能であれば、更地での売買よりは売却の可能性が高くなります

「農地」該当するか

市街化調整区域内の土地は、

・農地である
・農地であった


というケースが少なくありません。

売り買いしようとする土地が農地の場合は、農地法による届出や許可を、地域の農業委員会に申請する必要があります。

住宅の敷地であっても農地のケースあり
現在の土地の利用形態が住宅の敷地であったとしても、登記簿謄本上の地目が農地(田、畑、採草放牧地など)であれば、届出・許可の対象となります。

また、登記簿上の地目が宅地や雑種地・山林であっても、土地の利用現況が耕作地や放牧地であれば農地とされますので、判別が難しかったら、農業委員会に問い合せてみてください。

6つの届出・許可が必要となるケース
届出・許可が必要となるのは、以下のケースとなります。

農業や林業に適した環境を維持しようとする市街化調整区域内の農地は規制が厳しく、4条、5条ともに許可制となっています。

・農地法第3条による届出…相続等によって農地を取得した場合
・農地法第3条による許可…農地を農地のまま権利の移転(売買・譲渡)を行う場合
・農地法第4条による届出…市街化区域内の農地を、別の用途に転用する場合
・農地法第4条による許可…市街化調整区域内の農地を、別の用途に転用する場合
・農地法第5条による届出…市街化区域内の農地を、別の用途に転用するために権利の移転を行う場合
・農地法第5条による許可…市街化調整区域内の農地を、別の用途に転用するために権利の移転を行う場合

原則として農地は、農家にしか売却できないことになっています。

そのため農家以外に農地を売却する場合は、購入者の利用方法などが厳しくチェックされ、許可されないケースも多々あります

売却の相手方が見つかったとしても、さらに農業委員会でチェックされるというわけです。

こうした事情から市街化調整区域内の農地の売却は、同区域内の宅地に比べても、ハードルの高いものとなってしまうと言わざるを得ません。

「自治体の条例で開発が認められる区域」になっていないか

「市街化調整区域」や「都市計画区域外の未線引区域」であっても、開発申請を行い、行政の許可が得られれば建物の建築は可能となります。

こうした開発行為には細かな規制があり、道路や公園、上下水道などの都市施設の築造も要件となってくるために、県や市といった自治体や、大手の不動産会社や建設会社が主な施工者となっています。

個人で開発行為を行うのは基本的に困難
では、個人では開発行為を行えないのでしょうか。

もちろん、多大な費用を要するために、一般的な開発行為を個人が行うのは基本的には無理があります。

しかし埼玉県や熊本県の一部のように、開発行為があったものとみなす地域が事前に定められているケースもあります。

そうした地域では都市計画法による建築許可は必要ですが、誰でも住宅の建築が可能となるため、土地の売却もしやすくなっています。

こうした指定のある自治体は稀ですが、

その地域が市街化調整区域に隣接し、かつ50棟以上の建築物が連続し、近隣の市街化区域と一体的な社会構成となっている

などといった条件が満たされれば、他の地域でも指定される可能性があります。

埼玉・熊本以外の条例化の可能性に期待
埼玉県や熊本県以外の都道府県でも、条例化の動きが今後あるかもしれません。

上記した条件を満たしていると考えられる地域に土地を持っている場合は、条例化の可能性について、県や市の宅地課に確認してみるとよいでしょう。

「事業によって開発された区域」かどうか

開発行為が完了し、その後に分譲された開発区域内の宅地は、そこが市街化調整区域内であっても都市計画法による建築制限を受けず、建築の際の許可を要しません。

開発行為には民間による事業の他、都道府県や市町村が行う土地区画整理事業や住宅街区整備事業といった、公的事業で行われることもあります。

開発事業によって分譲された土地はその後、線引きの見直しの際に順次市街化区域に編入されていきます。

事業によって開発された区域は売却しやすい
開発行為によって造成された分譲地は、上下水道などのライフラインも整備され、区画の整然とした街並みの住宅地となります。

また、金融機関の担保評価も減額されず、住宅ローンの借り入れにも問題がありません。

こうした理由から一般的な市街化調整区域内の土地に比べるとはるかに売りやすく、周辺の市街化区域と同等の相場での取引が行われています。

買主側から見た市街化調整区域の4大メリット


市街化調整区域 売却

売却を考える側にとってはデメリットの多い市街化調整区域内の土地ですが、購入者にとってはデメリットが好都合となる場合もあります。

「市街化調整区域内の土地ならではの魅力」があるのです。

そうした魅力やメリットとはどういったものなのか。

市街化調整区域内の土地売却のヒントともなりますので、購入者の立場となって考えてみましょう。

土地の価格が安く、広い土地を購入しやすい

建築制限があり、ライフラインが未整備であることの多い市街化調整区域内の土地は、市街化区域内の土地と比較するとかなり割安な売買相場を形成しています。

土地の安さは最大の魅力
購入を検討する人にとってこれは魅力です。

市街化区域内の土地を買うのと同じ価格で広い土地を入手できるのですから、土地値の高い都市部では手の届かなかった「広い庭と大きな住宅での暮らし」が実現しやすいというわけです。

再建築できない中古住宅でも訴求できる
また、再建築できない中古住宅の中には、賃貸住宅の数年分の賃料で購入できてしまう物件もあります。

市街化区域内では希望のマイホームが実現しない世帯にとっては、市街化調整区域内の土地・住宅相場は、大きなメリットがあるといえるでしょう。

都市計画税がかからない、固定資産税が安い

税金面は市街化区域内の土地に比べ、圧倒的に有利になります。

土地を保有していると毎年固定資産税や都市計画税が課税されますが、都市計画税はその名の通り、都市計画を促進する地域のみが課税対象となるのです。

したがって都市計画区域外の未線引区域と、市街化を抑制する市街化調整区域内の土地には課税されません

都市計画による道路や公園などの都市施設が整備されないのですから、税金の対象とならないのも当然でしょう。

公示価格も割安なため不動産関連の税が安い
また、土地の売買相場が安価な市街化調整区域内の土地は、売買の取引事例を主な指針として算出する公示価格も低く抑えられます。

そして公示価格の80%を基準とする路線価格、70%が基準となる固定資産税評価額も同様に低い評価となります。

これらの評価額に税率をかけて算出される相続税や固定資産税、不動産売買の際の不動産取得税や登記料(登録免許税)も安くなります。

都市計画税が無税となるだけでなく、不動産取得や所有に関わる多くの税金が安くなるのですから、そのメリットは相当に大きなものであるといえるでしょう。

新たに開発されることがないので「のどかな環境が保たれる」

市街化調整区域には公共性のある建物を除くと、大きな建築物や施設が多くは存在せず、緑豊かでのどかな風景が広がっています。

そして原則として建物の建築が認められない地域であるということは、すでにその場所に居住している人にとっては、「将来にわたってその環境が維持されていく可能性が高い」ということも意味しています。

開発予定がないからこそ緑が多い
大規模な宅地開発や商業施設に建設がなければ、都市計画法が市街化調整区域の制定によって保全しようとする、田園風景が維持されていきます。

もちろんこれは新たに市街化調整区域内に転居してくる人々にも同じことが言え、緑の多い環境を好む購入者にとっては、魅力的な地域であるでしょう。

住宅以外の利用方法がある

土地の利用方法は、住宅やビルの敷地とするだけではありません。

駐車場や資材置き場など、他にも様々な利用形態があるのです。

ここでは、市街化調整区域内でも可能な土地の利用方法を紹介します。

市街化調整区域内でも可能な土地の利用方法
建築不可とされた土地であっても、行政との協議が整えば建物を建設しての利用も可能なケースがあります。

建築許可のいる建物を必要としない利用方法
・駐車場…アプローチの道路整備が必要となる場合もある
・資材置き場…建築をともなわないもの。トランクルームは認められていない
・家庭菜園…農場として区分して貸し出すケースが多い
・太陽光発電…ソーラーパネルの設置用地
・霊園や墓地…近隣対策が重要
・釣り堀やフィッシングセンター…川が近いなどの立地次第

行政との協議次第で建築可能となる施設
・老人ホームなどの社会福祉施設…用地として貸出し、賃料収入を得ることが可能
・病院などの医療施設…用地として貸出し、賃料収入を得ることが可能
・ガソリンスタンド…地域の給油の為、一定の要件を満たせば建設可能
・倉庫用地…特に火薬など、都市部にあると危険なものを貯蔵、補完する倉庫

上記の他にも農産物や水産物の処理場や、日常生活の為の商業施設といった地域に必要とされる施設は、基本的に建設が認められています。

・大きな道路に面している
・地域の中心的な位置に立地している


という特徴を持つ土地であれば、そうした施設の用地として利用することも可能となります。

市街化調整区域の売却を成功させるコツ


市街化調整区域 売却

「市街化調整区域内の土地や住宅は価格が安くなりやすく、そのうえ売却そのものも難しい」

しかしあきらめてはいけません。

市街化調整区域内の物件だからといって、売却できないわけではないのです。

しっかりと所有地の状況を把握し、対策を講じれば大丈夫

高値での売却が難しいことに変わりはありませんが、少しでも有利に、なるべく好条件で売却できるよう、売買に向けての準備と対策を解説していきます。

所有地の状況を把握し戦略を立てる

まずは所有地の状況を確認しておきましょう。

状況によって売却価格や販売方法、売却の相手方が異なります。

したがって現況の認識が薄い状態だと、不動産会社との打ち合わせもままなりません。

確認すべき2ポイント
特に「建築が可能かどうか」、「農地であるか否か」のチェックは必須です。

先ほど説明した確認方法(ページ上部へ)を読み返して、「売却を考えている土地がどういった物件なのか」しっかりと把握しておきましょう。

市街化調整区域の売却が得意な不動産会社の見つけ方

都市部に隣接、または近隣に所在する物件であれば、不動産会社選びはそれほど神経質になる必要はありません。

建築可能な土地ならばなおさらで、市街化区域内の土地やマンションを売却する際と同じように、査定額の根拠をきちんと明示し、積極的な広告宣伝活動を行っている業者を選べば問題ありません。

山林や原野の売却は購入者が特殊
難しいのは郊外の農村や漁村にある物件や、山林や原野などを売却する場合です。

不動産は購入者が見つからないと売れません。

したがって「どのような人々が購入者となるのか」をまずは考えないといけません。

郊外にある市街化調整区域内の土地や住宅を購入するのは、物件の地元か、その近隣の在住者であるケースが多くなります

・その地域で農林業や漁業に従事する人
・近隣の住宅街よりも安い物件を探している人々


といった人たちが、売却の相手方としてターゲットとなるのです。

ターゲットとの成約に至るには、物件情報がターゲットとなる人々の目に留まる必要があります。

となれば不動産会社は、なるべく物件に近い場所で営業している会社を選ぶのがよいでしょう。

物件の近くにある不動産会社を知らない場合は、役所の市民相談窓口で相談するか、農協(JA)や漁協(JF)に業者の紹介を頼んでみてください。

農協(JA)や漁協(JF)独自の情報があることも
JAやJFは住宅ローンなどの融資も取り扱っているため、地域で不動産を探している人の情報を持っている場合もあります。

また、JAはグループ企業として不動産会社を持っているので、地域での不動産売買に明るい業者を紹介してもらえるはずです。

売却が難しいとあきらめずニーズを探る

「建物を再建築することができない」
「農地以外への転用が難しい」

といった売却しづらい物件でも、あきらめてはいけません。

市街化調整区域のニーズを探る
自然に恵まれ静かな、市街化調整区域の環境を好む人は少なくありません。

資金力は無いけど家が欲しい、といった人々も多く存在します。

そうした人々にとって市街化調整区域内の物件は、格好の自宅候補となります。

土地の特徴を踏まえて宣伝活動
建て替えができない分安くなれば、資金力の無い人々には魅力的でしょう。

農地以外に転用ができないのなら、農地として敷地を利用しつつ、その自宅として住宅を使う農家の分家を探せばいいのです。

建物の無い土地であっても売却は可能です。

街道に面していれば地域の商業施設、まとまった土地であれば私立学校や老人ホーム、医療関係の施設を運営する企業への売却が考えられます。

賃貸にする選択肢などもあり
売らずに賃貸に出すという方法も候補となります。

古い家であっても、賃料が安ければ借りる人はいます。

駐車場や資材置き場、学校や病院の敷地として土地を貸し出すことも可能です。

他にもソーラーパネルを設置しての運用や、古家を買って賃貸で回す投資家への売却なども、方策の1つとして検討すべきでしょう。

売却以外にも成功パターンは存在する
売却できなかったとしても、賃貸や運用など、別の道も残されているというわけです。

不動産会社に500万円の査定値が提示され、しばらく販売してみたけど売れなかったケースで考えてみましょう。

月々5万円で貸し出せば年間で60万円、10年で600万円の賃料収入が可能となります。

実際には空室期間もあるので満額の収入とはならないでしょうが、持ち続けるという選択でも、時間を掛ければ売却したのと同じ結果を得ることは可能なのです。

市街化調整区域の売却はじっくり臨む

許認可が必要で購入者層が薄く、住宅ローンの利用にも制限がある市街化調整区域内の物件の売却は、たしかに市街化区域内の土地や住宅に比べると手続きが複雑で、時間を要するものとなってしまいます。

しかし売るための方策は様々に用意されています。

所有物件の置かれた法的、環境的な立場をしっかりと認識し、状況に応じた段階を踏んでいけば、売却は不可能ではないのです。

売却を成功するためには知識が不可欠
そのためには知識が必要です。

法規制の内容と購入希望者が少ない理由を理解していれば、売却に時間がかかっても、焦りから不利な選択をすることもないでしょう。

物件の状況に即した準備を整えて臨めば、相場なりの価格での売却は可能なはずです。

市街化調整区域ならではの魅力を生かして売却


市街化調整区域 売却

法的に市街化調整区域の土地や住宅がどういった状況に置かれているのか、十分に理解していただけたと思います。

建築に制限があり、自由に売買できないといった制約下に置かれる物件も少なくありません。

歩道や水路、上下水道の整備も遅れている現実から、夜道の危険や、水難被害への対策が整っていないなどのデメリットも少なからず存在します。

そのために一般的な不動産購入者から、敬遠されがちであるのも事実です。

価格面では圧倒的に有利であるにもかかわらず、購入を希望する人々に、なかなか選択してもらえないといったこともあるでしょう。

しかし何事にも例外は存在します

不人気な市街化調整区域内の土地や住宅であっても「そこにあるから欲しいのだ」という人も少なくはありません。

豊かな自然環境が人を引きつけ、整わない都市としての機能が変わらぬ未来を約束し、逆に魅力となるケースだってあるのです。

また、「売れない物件は存在しない」と不動産業界では諺のように語られます。

条件が悪くてもあきらめずに、知識を蓄えて売却に臨みましょう。

どこかに必ず買主はいます

地域に精通した不動産会社と上手に協力して、売却を成功へと導きましょう。