ICU/CCUで精神症状緩和のためにやっておきたいこと
[公開日]2014/10/22[更新日]2018/08/08ICU、CCUは重症で厳重な管理を必要とする患者さんを収容するユニットです。一歩足を踏み入れれば、そこは非日常の世界。空気に緊張感を感じます。そのため、手術による身体的侵襲に加え、精神的なプレッシャーが発生するのも当然です。私はICU看護の経験者ですが、ICUに収容された患者経験もあります。その経験を振り返りながら、ICUにおける精神障害の発生を防ぐためのポイントについてお話していきます。
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目次
どんな精神症状が起こる?
ICUで一番起こりやすいのは、入室後3〜4日後に興奮、錯覚、幻覚などが現れる「せん妄状態」です。特に夜間に点滴ルート類を引き抜く、ベッドから起き上がるなど危険な状態になることが多く、鎮静剤を投与される場合があります。そうすると一応の安静は確保されるのですが、今度は昼夜逆転が起こってしまい、さらに混乱を招くということもあります。でも、こういうケースは、一般病棟に戻れば1〜2日でスッキリ回復することがほとんどですので、状況をみて予定より早めに病棟へ転出していただくこともあります。
こういった身体的要因と環境要因が複雑に絡み合ったことによって起こる症状をICU症候群と言いますが、こういった問題は環境適応力が不足しがちな高齢者に起こりやすい傾向です。一方、盲点なのがアルコールに依存性のある患者さんです。手術のために急に飲酒を中断されたことによってせん妄症状を引き起こす可能性があります。
アルコールに対する依存が強ければ強いほど、飲酒歴を隠そうとされる傾向もありますので注意しましょう。ちなみに、せん妄状態を発症した患者さんを術後訪問してみると、ほとんどのケースがICU在室中の記憶がないとおっしゃいます。それだけ強いストレスを感じ混乱されていたのでしょう。患者さんにとってつらい記憶がないのは救いですが、ケアに当たった看護師としては少し寂しい話です。
ICUは静かな環境ではない
患者さんに安全で安楽な環境を提供することは大前提であったとしても、治療を優先することの多いICUではその限界はあります。各種モニターのアラーム音、つながれたルートやドレーン類、見慣れない器械、幅が狭く高さのあるベッド。さらに深夜に術後患者さんの入室があれば、消灯後の室内にざわざわ聞こえる話し声、カーテン越しに急ぎ足で動き回る人の気配。これでは周囲の患者さんに影響がでないわけはありません。
実はICUといっても収容している患者さんの状態に差があります。人工呼吸器管理や大動脈バルーンパンピングをしている患者さんもいれば、自力で食事を食べられる患者さんもいらっしゃいますので、ここがまたややこしいところ。ある時、深夜に心臓の手術を終えた患者さんの入室で慌ただしくしていのですが、突然、奥のベッドにいた患者さんが「助けて!助けて!ここにいたら殺される〜!」と興奮し大声で叫び始めてしまったのです。ICUといっても夜勤者の数は限られていますから、そちらへの対応にも手が取られ大変なことに…。結局、病棟に連絡し急きょ転室ということになりましたが、きっと本当に恐怖と危機感を感じてしまったのでしょう。
ICUの機能を考えれば、環境条件を大きく変えるわけにはいきません。ですから、可能な範囲での小さな心配りを大切にしなければならないのだと思っています。
予防は術前から始まる
私が勤務していたICUは術前、術後訪問を行っていました。実際にケアをするのは術後からですが、ご挨拶を兼ねた術前訪問から患者さんとの関わりが始まります。患者さんにとってはどんな小さな手術でも心配ですよね。それがさらにICUに収容されるとなれば、グンとハードルが上がってしまうでしょう。少しでもリラックスしていただけるように、ベッドサイドに訪問し、お話をさせていただきました。
術後、人工呼吸器管理になることが予測ができている場合は、痰の吸引処置などの協力依頼を含めて、筆談や絵カードなどのコミュニケーション方法を相談しておきます。漠然とした不安を抱えているより、具体的な対策を一緒に考える方が患者さんは安心できる場合もあります。さらに、希望があればICUの事前見学もしていただきました。さりげなく重症な患者さんがいないタイミングを選ぶという調整はさせていただきましたけれど…。
このようにまず患者さんの不安を軽減し、リラックスして臨んでいただくことはせん妄発症の予防に有効だと思います。そのうえで、一般状態や検査データを収集し、合併症のリスクのアセスメントをして、ケアプランを立てていきます。何しろ順調に回復し1日も早くICUを卒業していただくことが、一番のICU症候群予防ということですから。
コミニュケーションはストレス解消に
実際に患者として、手術を受けICUに収容されてみると、とても孤独でした。人の気配がないわけではないですし、モニターの音もうるさいほど賑やかです。ですが面会制限もありますし、隣のベッドの患者さんとおしゃべりを楽しむこともできません。モニターやチューブが身体についていて、自由に動くこともできません。
視野は限られ、見えるのは殺伐とした風景です。眠れない夜、時間を確認することもできませんでした。その環境の重要性が理解できる私でさえそうなのですから、一般の患者さんの憂鬱は十分に想像することができます。そんなストレスやフラストレーションを解消できるのは、やはり細やかなコミュニケーションですね。私自身が患者になってみて看護師の言葉がどれほど心強いものか実感することができました。そしてICU看護師としての自分を振り返ってみると会話は一方的な質問ばかりで、患者さんの気持ちに寄り添う余裕がなかったことにも気づかされました。
ICUには重症者から、私のような軽症の患者まで様々です。個々に応じたコミュニケーション方法に配慮し、心を軽やかにしていただけるような関わりが必要なんですね。
どうやって質の良い睡眠をとらせる?
ICUでは頻回にバイタルサインのチェックや治療処置があったり、深夜に他患者の急変があったりと非日常的な環境におかれています。このため断眠がちになり、睡眠障害につながってしまう可能性があります。とくに夜間は、不安な事柄を考えやすく、また眠れない時間はそれを増幅してしまうことは想像できます。また重症患者さんの場合、昼夜を問わず処置が続くので、ご本人はもちろんのこと、他の患者さんに与える影響も考えなくてはなりません。特に夜間は同じ音でも大きく耳障りに感じてしまいがちですから、できる限り状態に応じたベッドの配置や採光は工夫すべきです。また日中はテレビやラジオを活用し、ICU以外の情報に触れることで、気分転換をはかるのも良いですね。
満足できる睡眠を確保することは、体力を回復させ、組織の修復を促すだけでなく、ストレスを和らげ回復意欲の向上にもつながります。ICUという環境を考えると、厳しい条件ではありますが、精神症状の出現を予防するため質の良い睡眠への援助はとても重要なポイントになります。
家族との面会で動揺させない
ICUでは一般病棟と違って面会にはかなり厳しい制限があります。もちろん感染予防や、患者さんの安静のためといった理由ですから、患者さんもご家族も納得して下さいます。とはいってもマスク、キャップ、ガウン着用での面会になるので、とても打ち解けて心和む時間を過ごしていただくというわけにはいきませんね。
それでもやはり回復を願う家族の想いは、確実に患者さんのパワーになります。非日常的な環境の中で、家族とのコミュニケーションは「現実」につながる窓口のような役割を果たしてくれるのです。こうした安心感や満足感は、夜間の良眠につながり、回復を促してくれるはずです。ただし、ご家族側も患者さんに近づくことに緊張感を持ってしまうことがあるので配慮が必要です。
ご家族にとってもこの場は非日常には違いありません。そしてご家族の緊張は患者さんに伝わってしまいます。ですから面会時間の前に、患者さんの状況を説明し家族が動揺しないように配慮したり、面会の様子を見て看護師が介入し雰囲気を和らげる必要があるかもしれません。限られた面会時間ですが患者さんのストレス緩和のために有効に活用してみましょう。
スキルを磨こう
最近、新卒ですぐにICU.CCUに配属されたという話を聞くようになりました。正直、それはまたすごいことだなぁと驚いてしまいます。何しろICUでは、中心静脈圧の測定、胸腔ドレナージ、人工呼吸器の管理etc.と広い領域で求められる看護技術がたくさんあります。またその技術の中には、患者さんの苦痛を伴うものも少なくないので、ある程度熟練したテクニックが要求されるのです。
何しろ看護学生でもできる技術の清拭でさえ、大きな手術を終えた患者さんにとっては、大変な処置に感じられるかもしれないのですから。またそっとしておいて欲しい、静かに眠らせて欲しいと思っていても、行わなければならない処置も多くなりますので、患者さんのストレスは大きいですよね。その負担を軽くするためには、できるだけ短時間で手際よく、なおかつ確実な処置を行う技術が必要になんです。
患者さんにとって、苦痛が優先してしまえば、イライラが募り精神症状へつながってしまうかもしれません。でも、心地よさを感じ、安心して任せていただければ、看護師との信頼関係にもつながり精神的にゆとりを持っていただけると思います。ICUでは患者さんの状態次第で、臨機応変に対応しなければならないことが多くなります。日頃から、スキルアップの努力に心がけておきたいですね。
私たちは日々、当たり前のように仕事をこなしています。ICUやCUと言っても、慣れてしまえば特別な場所とは感じられなくなっているかもしれません。けれど、患者さんにとってはICUに収容されると聞いただけで、とんでもない事態を想像してしまうことも少なくありません。そのギャップを意識しながら、患者さんの思いに近づくことが、せん妄状態発症を防ぐ秘訣かもしれません。
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