産科看護師になるのは難しいのでしょうか?

[公開日]2014/11/27[更新日]2018/08/08

<質問>
私は今年の4月から働きだした21歳の看護師です。希望の科はNICUや産科、小児科だったのですが、配属されたところはICUでした。ICUには、そこでしか学べないこともありますし、自分にとって良い経験だと思います。しかし、産科で働きたいという思いも強くあります。 病院でなくてもクリニックでもいいので産科で働きたいです。しかし、産科で看護師というのはなかなか採用がないのでしょうか?。助産師をとった方が確実に働くことができるので、助産師の資格も考えています。またクリニックで正職員として働く場合、お給料はどのくらいでしょうか?

産科看護婦になりたい相談 <回答>
私は看護教員経験のある元看護師です。臨床経験12年で産科勤務はありませんが、実習指導等でスタッフの雰囲気は分かります。実は私も学生時代は助産師に憧れたこともあるんですよ。助産学科も併設している専門学校だったこともあって、進学した友人も多かったですし、助産院を開業して現役で活躍している人もいます。ですから、相談者さんの気持ちは良く分かります。そして私がその目標を軌道修正した理由も含めて、相談者さんへのアドバイスになるかもしれません。少しお話しさせて下さいね。


小児看護と母性看護


相談者さんはNICUや産科、小児科を希望していたのですね。志望の動機は何だったのでしょう。NICUや小児科ということで考えると、赤ちゃんが好きだからということになりますね。でも一方で助産師の資格取得も考えているということですから、妊産婦に関わる仕事を希望しているようにも思えます。確かに産科でも赤ちゃんは扱いますが、基本的に健康な新生児の看護ということになりますので、小児看護とは領域が違ってしまいます。そのあたりの動機や希望する職域のについて整理しておくことが必要だと思います。

一方で相談者さんは不本意ながら配属されたICUは緊急性の高さと技術の正確性がより求められるセクションです。むしろ1年目でこの仕事ができるということは恵まれた条件だったかもしれませんよ。何しろ産科も予測不能な緊急事態が起こりやすい場でもありますし、NICUも同様に繊細な看護センスを要求されます。それを考えると今の仕事はきっと今後の基礎として役にたつはずです。ご自身でもその経験の大切さは実感されているようですから、まず今の仕事でスキルをしっかり身につけましょう。そのうえでいずれ異動希望を提出する、助産学科進学の希望を相談してみるという作戦を考えましょう。きっと「急がば回れ」ってこともありですよ。

産科と婦人科


ここで、もうひとつ確認しておきたいことがあります。相談者さんは「産科」と希望されていますが、事実上産科単独の病院はありませんね。大学病院などの周産期母子医療センターを除けば、一般的には産科と婦人科は切り離せない診療科です。同じ女性のライフサイクルを扱う領域ではありますが、妊娠出産といった健康的な女性の営みを扱う産科と、女性生殖器に障害や疾患をもった人を扱う婦人科には大きな隔たりがあるように思います。その明暗をしっかりと受け止めることを考えていらっしゃいますか?

産科勤務をした場合、看護師は婦人科担当になる率は非常に高いと思いますよ。まして年々に出生率が低下している現状では、せっかく産科病棟に勤務したのに、ほとんど産婦さんや赤ちゃんに接する機会がないなどということも少なくありません。それらの現状を踏まえたうえで検討が必要になると思います。

私事ですが、実は不妊症治療で産婦人科にお世話になった時期があります。病気で両側の卵巣を摘出しなければならない可能性もあって、大きなお腹の幸せそうな妊婦さんを見るのがとてもつらかったです。なぜ、産科と婦人科の診療を分けてくれないのか…と恨みがましく思ったこともあります。もし、産科勤務を希望するのであれば、妊婦さんや赤ちゃんだけでなく、産めない女性への看護があることも忘れないで下さいね。

病院とクリニックの違い


相談者さんは病院でなくても、クリニックでも良いので…とおっしゃっていますね。では病院とクリニックの違いについて考えてみましょう。簡単に言ってしまえばベッド数が20床以上あれば病院。それ以下、あるいは外来だけというのがクリニックです。

次に大きな違いがあるとすれば、クリニックの場合、ほとんどが個人病院だということ。ですから院長の経営方針次第で、内容はいろいろです。最近は出産回数そのものが極めて少なくなっていますから、お産をイベントとして考えることも多く、産婦さんだけでなく、家族に対しても様々なサービスがあるようです。そもそも正常分娩は健康保険適応外ですから、いかようにもできるわけですね。型にはまった総合病院のシステムから考えると、働く側も楽しめるのかもしれません。

ですが、これはあくまでも正常に経過している妊娠の場合。ハイリスク妊娠の場合は、分娩に小児科の医師がスタンバイし、直ちにNICUへ収容したり、母体に危険があれば緊急手術が必要になる場合があるので、総合病院での出産となるケースが多くなります。また人工妊娠中絶の件数は圧倒的にクリニックが多くなります。総合病院の産科では母性保護に基づいた正当な理由がなければ、ほとんどの場合、認めてもらえないと思います。カジュアルなお産のイメージを希望されるのなら、クリニックも良いかもしれません。でも可能であるなら、総合病院の産科で厳しい現実を学ばれてからの方が経験値として意味があるように思います。

やっぱり助産師


やはり周産期に関わる仕事をしたいのであれば、助産師になることが確実と言うことになるでしょうね。そして、そのためには働きながら、あるいは退職して予備校に通いながら助産学科の受験に備えなければなりません。いずれにしても、一度社会人になってからの受験は何かと大変です。もし、本気で助産師になろうと思うのであれば、学習することが億劫にならないうちに準備を始めることをお勧めします。助産師になるための奨学金制度がある病院もありますからホームページなどをチェックしてみて下さい。

そしてこれは単に病院を変わるという転職ではなく、職種を変えるということですから、自分のキャリアプランをしっかりと考えることも大切ですよ。私も看護学校に入学した頃は、助産師になることを考えていました。新しい生命が誕生する瞬間に立ちえあるって素敵なことですよね。でも、実際に分娩見学をしてみて、その希望はあっけなく崩壊。出産という想像以上の極限状態を目の前にして、すっかり向き合う自信を失くしてしまったのです。我ながら情けないことですが、あまりにも生々しい場面の連続に逃げ腰になってしまったということですね。

近年、日本でも男性看護師が増えてきていますが、助産師は女性の職域として君臨し続けると思います。そういう点ではやりがいのある仕事だと思います。

助産師と看護師の微妙な関係


分娩見学の衝撃で助産師をあきらめた私ですが、さらに微妙に感じた違和感がありました。それは助産師と看護師の微妙な関係です。同じフロアのスタッフという立場には変わりないのですが、そこには見えない境界線が引かれているようでした。妊産婦や褥婦、母乳の管理といったことのほとんどは、助産師の役割でしたので、勢いがありました。一方、婦人科の方はというと、子宮がんなどの術後を受け持つことが多いわけですから、気持ちのノリが違って当然かもしれません。

これは、産科勤務の看護師であれば、多かれ少なかれ感じることで、暗黙の了解で上下関係ができているという場合もあるようです。確かに周産期に関しての知識量や、妊産婦に対する助産技術など看護師とは比較にならないわけですから助産という点において格差があるのは当然ですね。

そこを納得したうえで、産科勤務を希望するのであれば、ストレスは少なくてすむかもしれませんね。実は大きな声では言えませんが、学生時代のダメージが尾を引いているのか、未だに助産師さんが苦手です。あのはつらつとした雰囲気に気遅れしてしまうんです。つくづく助産師には不向きな人間だったんですね。

産科看護師の求人は?


総合病院の場合、病院全体での人事ですから産科に限定した求人は考えられないでしょうね。大学病院勤務の友人は、助産師の資格を持っていましたが、助産師の採用枠がなく一般病棟で勤務していました。現職の助産師が退職、育児休暇を取るなどで空きが出るのを待つわけです。なかなか厳しい現実でしょ。ましてや看護師であれば、希望がかなって産科に異動したとしても、そこに安住するという保証はありません。

数年後には再び異動になる可能性は大です。その点、産婦人科専門病院なら、好きな分野で安心して働けるという利点はありますし、求人もけして少なくはありませんよ。収入をみてみますとクリニックの場合、平均年収300万円程度が一般的だそうです。助産師であれば、これに資格手当が加算されますが、3交代勤務の看護師平均年収からみるとやはり低めですね。でも希望するすべての条件が満たされるということはあり得ないわけですから、多くの情報の中から自分の必要な条件を取捨選択していくしかありませんよね。

今回、相談者さんは仕事上の希望をしっかりとお持ちです。自分自身で適性を見極め、具体的な目標を持つことは、とても意味のあることだと思います。また管理者側からみても、その熱意は貴重な戦力として評価されると思います。けれど、看護師としてはスタートラインに立ったところです。これから様々な看護体験を通して、自分でも気づかなかった可能性が見えてくるかもしれません。「熱い思いと冷静な目」で焦らず検討して下さいね。

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