大学病院で働く看護師の実態
[公開日]2014/12/04[更新日]2018/08/08
みなさんは大学病院について、どんなイメージをお持ちでしょうか。医療系のドラマでは大学病院が舞台になっていることが多くて、確かにドラマチックな世界がありそうですし、そこで活躍する医師や看護師の姿は、いかにもデキル感じですよね。果たして、現実はどうなのでしょうか…。では「働く」という視点でその実態をみてみましょう。
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目次
専門職としてのやる気が目を覚ます
最初に押さえておきたいポイントは、一般の病院の管轄省庁が厚生労働省であるのに対し、大学病院の管轄は文部科学省であるということです。地域における総合病院として医療を提供する「臨床」という機能は同じですが、母体に大学という教育機関を持つことで、そこに「教育」「研究」という機能が加わります。なので、扱う疾患も多岐にわたり、治療も高度化、複雑化するわけです。
そうなると当然、看護師にも専門職として、また医療チームの重要な担い手としての期待が大きくなってきます。求められる知識、技術も高度化することは間違いありません。
でも、それこそが大学病院で学び、働くことの重要な意味だと思います。そして逆を考えると、もしあなたがそこに「やいがい」を見いだせなければ、最大のデメリットになることを念頭におく必要があるでしょう。
大学病院の看護師は「使えない」って本当?
「大学病院の看護師は、技術が未熟で一般病院では使えない」という話を聞きますが、半分は正解で、半分は不正解だと思います。確かに大学病院は若い医師がたくさんいるので、点滴や採血は医師が行う場合が多いです。そういう点では経験値の低さは認めざるを得ません。
けれど、静脈内注射が診療の補助行為として保健師助産師看護師法で認められたのは、平成14年になってからだったということをご存じでしょうか。つまりそれだけ事故リスクの多い技術であり、大学病院では患者さんの安全と、看護師の権利が守られているという事実の現れでもあるのです。
さらに、そういった業務分担の中で、少しでも多くの時間をベッドサイドに足を運び、細やかなケアをする。あるいはカンファレンスの時間を作り、患者さんのケアの充実を図るなど、看護独自の機能を発揮させる時間の確保ができます。
しかし、残念ながら看護の仕事を診療の補助最優先と考えている一般病院も多く、大学病院の看護師は「使えない」と評価を受けることにつながっているのだと思います。その点では一般病院から大学病院への転職は鬼に金棒でしょう。みなさんの力が大学病院の看護師のイメージを変えるかもしれませんね。
激務とお給料との微妙な関係
大学病院への就職が敬遠される理由に、激務の割に給料が少なく割に合わないというものも少なくありません。確かに重症度、緊急性などから考えても激務であることは間違いありませんし、業務以外に看護研究等で自分の時間を割かれることも事実です。
それにも関わらず、大学病院の看護師の平均年収は約400万円程度で、一般の民間病院と変わりありません。これだけみれば、割に合わないと思うのは無理もない話です。
ところが大学病院の場合、ほとんどが国公立なので、看護職員も公務員としての安定性と、充実した福利厚生が受けられるという見逃せないメリットがあるのです。超過勤務についても、自己申請制を取り入れているところが多く、必ずしもサービス残業というわけではありません。
さらに平成24年の日本看護協会の調査では、離職率が高い傾向にあるのは、大学病院のような大規模病院ではなく、むしろ300床未満の小中規模病院であるという結果もあります。この際、一度、大学病院が働きにくいという先入観は捨てて、求人情報をチェックしてみる必要がありそうです。
求められるのは科学的に考えること
流れるような手さばきで、採血や血圧測定といった技術をこなす。それはとても重要なことですが、大学病院で求められる看護技術はそれだけではありません。そこに看護理論を取り入れ、その行為の裏付けを明確にすることが必要です。習うより慣れろ、技術は見て盗め、といった徒弟制度的な世界は成立しません。常に行為の目的、根拠、判断などを客観的に表現することを求められます。つまり、物事を科学的に考えることが必要ということです。
そのため、ほとんどの大学病院で看護診断が導入されています。また看護学科のある大学病院では、基礎から看護理論を学んできた看護師が多くなりますので、看護記録の処理能力に差が出ることは想定内と思った方が良いでしょう。
でも、実はそれほど難しいことではありません。みなさんが学生時代に取り組んだ看護過程の技術が全ての基本形。それさえ身についていれば、すぐに克服できるはずですよ。
プリセプターシップの落とし穴
現在、多くの病院で新人教育としてプリセプター制を導入しています。2〜3年先輩看護師がマンツーマンで、細やかな指導をしてくれるので、何かと相談しやすく、仕事の自立がスムーズになるといった効果があるようです。確かにこのシステムによって、新人の定職率がアップしたという実績もあります。
看護師教育にも熱心な大学病院では、中途採用者に対してもそのシステムを採用しているケースが多くみられます。しかし、一方でプリセプターとの相性が悪かったために生じた悲劇もよくある話です。
とくに転職者の場合、ある程度の看護観ができているため、そのギャップに悩むことも多くなると思われます。場合によっては、「この人の看護を学びたい」と思える人を見つけ、自分自身でコンタクトを取っていくくらいの積極性が必要だと思います。
医師とのパートナーシップ
当然のことですが、大学病院には若い研修医がたくさんいます。看護師は常に彼らと情報交換をしながら業務を進めていかなければなりません。医師からの指示待ち看護にならないよう調整力も必要です。
さらに、臨床に不慣れな医師が、患者さんとうまくコミュニケーションを取れるようにサポート役にまわることもありますし、時には医師と検査や治療計画について、熱く議論を戦わせることもあるので、「目の上のたんこぶ」扱いされることもあります。そういう意味では、大学病院の看護師を苦手と感じる医師も少なくないはずです。
それでも医師と看護師が、同じ目的を持った仲間として、お互いの役割を理解し合い、尊重し合える関係を築けることこそ、大学病院で働く魅力だと思います。そして、その魅力を楽しむことが、大学病院の激務を達成感に変えるコツかもしれません。
ローテーションショック
大学病院に限らず、総合病院であれば避けて通れないのがローテーションと言われる配置転換です。おおよそ3〜5年周期で行われることが多いようですが、大学病院ほどの大きな組織では、個々の都合に合わせた異動はきわめて難しいと考えた方が良いでしょう。さらに大学病院の場合、診療科が多いため、ローテーションの範囲も広く、適応するためのストレスも大きくなりがちです。
そこで新人に対し、各部署を短期間で体験するローテーション研修を取り入れ、より幅広い技術を身につけられるよう配慮されている病院も増えてきました。もちろん中途採用者にも適応を広げている病院もありますので、求人用件を確認してみましょう。
現在、専門看護師などのスペシャリストが評価されている一方で、中堅看護師に対して、領域を超えた質の高いケアを提供できるジェネラリストへの注目が高まっているという背景があります。ローテーションショックを逆手にとって、幅広い看護を学び、ジェネラリストへのキャリアアップと考えるのも良いですね。
指導者としての育ち
大学病院に「教育」という機能があることから、実習病院として看護学生を受け入れ指導する役割を持っています。日常業務と並行して学生指導が加わるため、煩雑感が増すかもしれません。
でも病院全体が教育に使命感をもっていますし、学生指導を充実させ病院の魅力をアピールすることは、有効な求人にもなりますから、業務量の調整は考慮されていると思います。
そして実際に、学生に関わってみると、純粋で素直な感性に刺激を受けることもありますし、指導を通して自分の看護観を振り返る機会ににもなります。初学者が理解できるように指導することは簡単ではありませんが、自分でも気づかなかった指導者としての資質が発見できるかもしれません。
さらに看護教員養成講習会へ推薦されたり、看護学校から講師としてスカウトされるなど、本格的に看護教員への道が開ける可能性だってあるのですから、チャンスがあれば、引き受けて損はないと思います。
コスパより安全
国公立の大学病院といっても、病院経営は重要ですから、ベッドの稼働率や入退院の状況のチェックは厳しいのは当然です。それにともなって日頃、大量の衛生材料や看護用具を扱う看護師も、コスト意識をもつことは必要な条件です。
ですが一般の病院に比べると、そのあたりの縛りが緩く、むしろ安全面についてはコスト削減云々より、徹底した原則遵守という意識が強いと思います。たとえば、医療廃棄物の処理にしても、コストを削減するために廃棄方法を不明瞭にすることは、患者さんだけでなく、看護師自身の安全を脅かすことにつながるからです。
また日々のケアに必要な物品なども不足なく準備されることが多く、創意工夫しながら、より良いケアを提供することが可能です。安心してのびのび働ける環境が用意されていると思いますよ。
自分磨きのためのお宝がいっぱい
大学病院は学生への教育だけでなく、看護職員への教育、キャリアアップという機能も併せ持っています。ですから看護学会、研修などへの出席の機会が多いのが特徴です。実はこれ、出張扱いとなる場合が多いので、経済的負担はかなり軽減されているんです。なかには内容より、開催地優先で参加を決め、一定期間働いたご褒美として、プチ旅行気分で出かけるという人も少なくありません。
その他、他の大学病院からの研修案内があったり、専門看護師、認定看護師などの受講支援制度の整備など、向上心あふれるみなさんには好条件が整っていると言えます。
ただ、一方では看護研究や勉強会などで、超過勤務があったり、レポートや課題のために地道な勉強が必要だったりするのも現実です。
どちらにせよ、看護師としての資質向上やキャリアアップを志す人には、お宝の宝庫であることは間違いないでしょう。そして病院側としては、こうした人材育成が、病院全体の評価を高め、さらに良い人材確保につながるということになるのです。看護師不足といいつつも、病院によって偏りがあるのも納得できる話だと思いませんか?
以上が私の経験からとらえた大学病院の実態です。全体を通して言えることは、大学病院の看護はつらくて楽しいということです。そして「知的好奇心」と「積極性」が成功のカギだと思います。
国公立の大学病院の求人はネットの転職サイトで探すことはできますが、目的の病院があれば、「○○病院看護部」で検索してみましょう。詳しい条件が確認できますよ。病院によってはフレキシブルな勤務体制を取り入れたり、保育施設を保有していたりと、働き手のニーズに対応している場合もありますので、自分の可能性の再発見に挑戦してみてはいかがでしょうか。
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