開腹手術の名脇役ドレーンを有効に使うために
[公開日]2014/12/21[更新日]2018/08/08
あらゆる領域の外科的治療にドレーンは幅広く使われていますが、中でも開腹手術においてドレーン管理は非常に重要な役割を果たしています。腹腔内には臓器の切除や摘出に伴う死腔もできやすいため、浸出液の貯留も多くなりますし、万が一、消化液が腹腔内に漏れ出せば、周囲の臓器に大ダメージを与えてしまいます。術後の経過に大きく影響するドレーン管理についてポイントをまとめてみましょう。
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目次
ドレーンの有効性が問われている?
実は近年、術後ドレーンの有効性に否定的な意見が増えてきているということをご存じでしょうか。確かに体腔内と外界を交通させている以上、感染というリスクは免れませんから、使い方によっては両刃の剣というわけです。
1999年に示されたCDC(アメリカ疾病管理予防センター)ガイドラインで、できるだけ早期に抜くことを推奨され、以後も国内の学会や論文でドレーンの有効性について検討が加えられているそうです。とは言っても、現状ではドレーンなしの開腹手術は考えられません。なので、ドレーンの材質や形状、使用方法を進化させ対応してきました。また最近では看護師向けの書籍でも、ドレーン、チューブ管理に特化したものも多くなっています。
確実な管理方法を徹底できれば、強い味方になるドレーンです。ここは看護師として腕の見せどころ。しっかり基礎知識の確認をしてみましょう。
ドレーンの目的と方法
ドレーンの目的と言えば、手術操作によって生じた血液や、浸出液、膿といった排泄物を体外に排泄させるということですよね。これは浸出液が貯留することによって二次的に起こりうる炎症や感染症を防ぐといった予防的な意味をもちます。またドレーンから排泄される出血、排膿などを観察することで縫合不全、感染などの異常を早期に発見することができます。つまり情報提供としての大切な役割も担っているということなんですね。
方法としては、ドレーンをチューブに接続し排液バッグに貯留させる閉鎖式が主流です。こちらは、排液や流出量の観察が比較的簡単です。でも、ドレーンの先端をガーゼで覆う開放式では、排液のしみ込んだガーゼを計測し、排液量を算出しなければならない場合があります。ちなみに、ガーゼ1枚の重さは何gかご存じですか?1枚3gというのが一般的な重さですが、覚えておくと便利ですよ。
タイプもいろいろ
ドレーンとひと口に言っても、目的別にいろいろなタイプがあって、ひとつの手術でも複数の種類のドレーンが使用されます。
チューブ型ドレーン(デュープル型等)は内腔がつぶれにくいので、血性や膿など粘稠な排液にも対応できますし、浸出液がもれて創部を汚染する可能性も低くなります。でも、このドレーンがお腹につき刺さっているのをみると、いかにも痛々しいですし、パックを持ち歩かなくてはならないという点では患者さんの負担は大きいかもしれません。
一方、フィルム型(ペンローズ型)で薄く、柔らかいタイプもあります。残念ながら閉塞しやすいのが欠点ですが、異物感は少なく患者さんの負担は軽いと思います。ただし、この場合、ドレーンの先端がガーゼに触れていることになるので、逆行性感染の可能性が高くなるので注意が必要です。
実は私が20年前にICUで勤務した頃は、開放式のドレーンが多く、ガーゼ交換の時はドレーンの周囲に山ほどガーゼを積み上げ固定していました。それでも、うっかりすると病衣まで沁み出てしまい慌ててガーゼ交換することもありました。ガーゼにしみ込んだ排液を体温で温めることになるのですから、細菌の温床になるのも不思議はない状態だったと思います。近年閉鎖式ドレーンが主流になってきた理由が実に良く分かりますよ。
手術と挿入部を確認しよう
ダグラス窩、ウインスロー孔、モリソン窩と聞いてすぐにその場所がイメージできるでしょうか。循環器内科で育った私には全く縁のない言葉だったので、ICUに異動して手術室からの申し送りを受けても、戸惑うことの連続でした。そう、この3ヶ所は開腹手術の際に、ドレーンが挿入されるポピュラーな場所なんです。
ざっくり言うとダグラス窩は膀胱直腸窩と言われる場所。女性の場合、子宮と直腸の間ということになります。またウインスロー孔は腹膜後壁の隙間、モリソン窩は肝臓と右の腎臓の間の凹みのことで、いずれも浸出液が貯留しやすい場所になります。
開腹手術後の場合、腹腔内洗浄していることが多いので、術直後は色の薄い排液量が多くなります。順調に経過すれば自然に減少していくはずです。でも縫合不全などがあれば、排液が混濁し悪臭がしてきたりすることもあります。排液の性状、量の経過観察は重要ですよ。術式によって基本的なドレーンの挿入部は決まっていますが、個別性はありますから術後は必ずドレーンの先端がどこに入っているのか確認しておきましょうね。
ドレーンの固定は確実に!
ドレーン管理で感染予防はとても大切なポイントですが、それと並んで見逃せないのがドレーンの固定です。せっかく留置したドレーンにトラブルが発生してしまえば、排液が腹腔内に貯留し腹膜炎の原因になったり、ドレーン挿入部から漏れ出した排液によって皮膚炎を起こす可能性もあります。術後の患者さんには、どんどん動いていただき離床をすすめていかなければなりません。その際、ドレーンやチューブがねじれたり、引っ張られたりしていないか注意しましょう。
またペンローズドレーンのように、開放式のドレーンの場合、短く切ってあることもあるので腹部に埋没してしまったり、完全に抜けてしまうこともあるので注意が必要です。私は患者さんが動いた時、ドレーンが抜けてガーゼの隙間から落ちてきてしまったという経験があります。幸い発見が早かったので、すぐにドレーンの入れ替えができましたが、患者さんの行動範囲を良く把握し適切な固定方法を選択する必要があったと反省しています。
大きなハードルを越えた患者さんを順調な回復へ導くため、ドレーン管理は看護師の大切な役割だと認識しましょう。
スキンケアも大切です
ドレーンの固定は確実に…とお話しましたね。とは言ってもテープでガッチリ張り付けておけば良いという単純なものではありません。まずテープを引っ張ってテンションをかけたまま貼ってしまうと、水泡形成の原因になってしまいます。皮膚に負担がかからないよう密着させ、はがす時も丁寧に扱います。またドレーンの挿入部を観察するため透明のフィルムドレッシングを使用する場合もありますが、液漏れなどではがれやすくなってしまうので要注意です。
消化液を含む腸液に長時間触れていれば、健康な皮膚であっても皮膚炎を起こしてしまいます。可能な限り皮膚の清潔を保ち、スキンケアに留意しましょう。
実は私自身もテープには非常に弱く、すぐに発赤、水泡を形成してしまうので、手術を受けた時は敏感肌用のテープを使用していただきました。こういった二次的なトラブルは、ある程度仕方のないこととして見逃されやすいのですが、必要以上のストレスは避けたいもの。またこいうった細やかなケアは患者さんとの信頼関係につながっていきます。
もしも病院内に皮膚・排泄ケア認定看護師がいたら相談してみてはいかがでしょう。きっと良い方法をアドバイスしてくれますよ。
胃の手術の場合
それでは実践編。まず上腹部手術の代表として、胃切除術後のドレーン管理について考えてみましょう。幽門側胃切除でビルロートⅠ法の場合、挿入されるドレーンはウィンスロー孔、膵上縁の2本。さらにルーワイ法の場合、左横隔膜下に1本追加というのが定番。下腹部の手術に比べ、ドレーンの固定もしやすく、患者さんの活動を阻害することは少ないように思います。
ただし、ここで注意しなければならないのは、膵上縁のドレーンです。これは主にペンローズドレーンが使用されるため開放式ドレーンになります。ですが、膵液の漏出が生じると大問題。膵液そのものは透明で一見してそれと分かるものではありませんが、実は強烈な消化液を含んでいて、周囲の血管や組織を溶かしてしまうのです。ですから、ペンローズドレーンの先端をパウチ式ドレーンで覆い、外部への漏れを防ぎます。
もちろん、排液の観察は重要ですよ。もし混濁が強くなり、膿汁様になっていたら膵液瘻が発生している可能性があるので、直ちに医師に報告です。合併症の早期発見!頑張りましょうね。
大腸の手術の場合
次に下部消化管手術の代表として、直腸切除術のドレーン管理についてです。術式としてはいくつもあるのですが、私の経験上では腹会陰式直直腸切除術のドレーン管理が、一番難しく感じています。
まずこの部位の消化管内には便汁があるわけですから、細菌数が非常に多いですよね。つまり感染症の発生率が極めて高いわけです。しかも直腸を切断するマイルズ法の場合、死腔が大きく排液がたまりやすいのです。そして、その死腔となる骨盤腔に閉鎖式ドレーンを挿入することになるのですが、そのドレーンが挿入される部位が会陰部になるんですね。創部との距離も近く、機械的な刺激も受けやすいので周囲の皮膚の清潔も大切です。
実際にその様子をみると、異物感と痛みが想像され座位を勧めることすら気が引けてしまいます。またガーゼ交換は創部やドレーン挿入部を露出しなければなりませんので、プライバシーの保持には十分な配慮が必要です。排液はJ-VACなどのドレナージバッグに貯まることになりますが、便汁様の混濁を示すようになった場合は、縫合不全や骨盤膿瘍が予測されるので、速やかに医師に報告です。
またバッグは常に挿入部より低い位置にキープしなければなりませんので、歩行の妨げにならないよう注意が必要です。またバッグの中身が患者さんや、同室者の目に触れないよう工夫することも忘れないで下さいね。
私はICUで術後の患者さんのケアをしてきましたが、その後、教員として学生と共に手術室に入り、手術見学の機会も多くありました。手術操作を目の当たりにして、改めて術後ケアの重要性を実感できました。ドレーンの機能を有効に働かせ、短期間で抜去に向かえることは感染症や合併症の発生予防でもあります。1日も早い回復のためにみなさん頑張りましょう!
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